アイスコーヒー

僕の女は冷たくて、黒くて、苦くて、甘い。

僕は僕で、僕だけが僕で、彼女は裸で、まるで氷のように、僕の中で、何もかも溶かすように、全てがその舌によって溶かされるほどに、どろりと。だから僕の全てなのだ、彼女は。僕の黒い女。僕の冷たい女は。

だから、僕は彼女の肉体だ、たしかに熱い、その血である。自分のその体液を、彼女は真っ黒な脳髄で、夏の夜、午前三時、爽やかな気分で、ゆっくりと味わうのだ。

でも、僕は彼女を殺す。彼女は僕の女で、僕だけのものだ。僕は僕を、殺すように、裏切った女を殺す。

でも、今はまだ、その時ではない。

いつかいずれ、その時が来る。僕はその日をひたすら待つ。

彼女はまだ、僕を愛さない。彼女の全てを奪っても、彼女は僕の中で、僕を殺してしまうだろう。

彼女は永遠に自由だ。それでも、僕は彼女が欲しい。夏だから、彼女は夏の女だから。夏の盛りの、赤い夕陽が、彼女に向かって、赤く照り映える。それでも、女の顔は、影になって黒い。眼差しは、果てしなく暗い。女は僕を見る。そうだ、僕は自分のもの全てを、この女のために殺すのだから。だから、彼女は僕を自由にさせる。愛していなくても、何でも許す。

僕はその、彼女に嬲られ、彼女は彼女で、僕の全てに犯されて、実体を失った彼女の全てで、僕をむしばみ、彼女を愛するものを殺す。

だって、この女は、僕のもの全てを、この夏の、無限の空間に、解き放つのだ。

午前三時。女は黒いタイヤ痕のような殺人を犯す。ミルクをそそいだように、白い女から流れ出た血が路面に広がる。月明かりを浴びて黒いアスファルトの上に。

僕の女は、一度は踏んだブレーキを悔やんで、唾を吐く。夏の女に向かって。殺害の赤い眼差しで。そして、アクセルを踏む。

「戻るんだ」

僕は彼女の首筋に刃を這わせた。彼女の瞳に、僕の殺しの色、菫色の澄んだ眼差しが映る。

「嫌。でも、あなたが運転していたと言ってくれるなら」

女は、窓から流れ込む湿った空気に舌先を伸ばし、唇をなめて微笑んだ。

彼女は止まらないだろう。僕はそう思った。

女は犯行を重ねる。戯れに。

嫌でも、僕は逆らえない。

僕のために。僕のために。彼女を失わないため、僕の全てを差し出そう。この夏の、無限の空間に。僕は彼女のために、もう一度、女を殺す手伝いをする。いいよ。そうだ。すっ飛ばせ。ひき逃げされた女なんか、記憶から、消し去るのだ。

僕の女はアクセルを踏む。つまり、幾何級数的に、ありえないほど加速する。

僕の後悔は、夜の空を走る。

彼女の足跡を追いかけて。この狂った世界に。逆らえない。夏だから。

夏の女を殺す。夏だから。

午前三時の夕陽に。青い青い海。

「う、うう、うぅぅ、うああああああああぁぁぁぁっ……」

僕は見た。黒いアスファルトの染みに立つ復讐の夏が、白い女の姿をして、手招きするのを。

僕の女はハンドルを切った。

流れる黒いタイヤ痕は、白い女に向かって。斜めに、道路を横切って、とめどなく流れる血に濡れる白い女の唇で。滑る。

彼女は車を激突させる。無人のガソリンスタンドに。

分厚い壁のコンクリートを、僕の血で染める。僕の血、僕が夏から作った血の赤。道路に滴るほどの血の赤。僕の夏、僕の海、僕の血液の味、僕の血の匂い。

僕の血の海は波立って、少しだけ、笑っているようにも見える。

僕を見て、彼女が海を渡ってくるのだ。

最後に、彼女は僕にキスをする。

身をかがめ。燃える車の煤を浴びて、ハンドルの摩擦で折れた手首をブラブラさせて。

それは本当に一瞬のことなのか。

きっと、僕には分からないだろう。僕が彼女を愛しいと思ったかどうか。

僕は笑った。

僕の女は冷たくて、黒くて、苦くて、限りなく、甘い。

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