製作日記 其の25
小説は魔法だ。魔法使いしか書けない。
魔法を使えない人間がなんとか頑張って、手品を見せたところで、それは魔法ではない。見かけは同じでも、タネのある手品は一時の目くらましだ。
魔法は見果てぬ夢だ。
『小説家になろう』というサイトは名称を『魔法使いになろう』に変えるべきだろう。
小説家はただの職業でしかない。小説を書くなら魔術師にならないと意味がない。
小説家はただの人間に過ぎない。
『魔法使いになろう』のトップページで『魔法使いはもう死んだ』という言葉があらわれる。
『魔法に頼るのをやめろ。人間の技を尊べ』
魔法の失効と共に消失する。それが、魔法使いの本当の姿だ。
あるいは、こういう考え方もある。
『魔法使いは、小説を書くな』と。
私と同じことを、有名作家も言っている。
つまり、魔法使いが各小説は『小説家が書く小説とは、ちょっと違っている』のだ。
魔法使いは、魔術を可能にする力で、世の中が果てしなく広がっていると気づき、密かにその背後に回る。
書くことで、またその後に続く魔法で世界を変えているんだ。
魔法使いは、世の中そのものを変えている。
小説は『読者に出会う魔法で世界を変えている』のだ。
小説も、魔法だ。
世界にかけられた魔法と同じ。
つまり、魔法は、その小説にしか効かないということだ。
限定された『魔法』だからこそ、この瞬間を、何らかの手段で生きようとする。
私は、そう、思う。
魔法使いは首尾よく社会に回収される小説を書かない。とは、つまり小説は『魔法を使えない人間を、助けることはない。誰かを助けるための手段ではない』という考え方もある。
そう、思う。
私は、この考え方に反対しているつもりだ。
読者は勝手に助かるのだ。言い換えれば、勝手に脱出口を見つけるのだ。
現実から。あるいは、現実へ向かい。
魔法とは、ただのイメージ、設定、概念だ。
『魔法はそんなに凄い機能を持ったものではない』と私は思う。
その点では、手品と大差ない。
かもしれない。
魔法が素晴らしいことには嘘はない。
鏡に映った世界を変える。
ただ、それだけのことなんだ。
あとは読者次第。
魔法のことは、私はまっすぐに受け止める。
だから、『本当に凄い魔法』を見たいのなら、まずは、専門家を呼んで、『その魔法を使うための技術を伝えてもらう』のがいい。
魔法の専門家は色々と批評はするだろうが、魔法は伝授できない。
魔法使いは見捨てられて死ぬ。
魔法を継ぐものはいない。
彼らは人知れず息絶える。
私は『魔法使いになろう』にも『魔法使いを助ける魔法とはなにか』を伝えろと言う。
私は、その言葉を、もう一度言う。
『魔法使いの魔法とは、あくまで世界を補うだけであり、実際の現実とは全く別のものだ』と。
小説における魔法使いの魔法とは何か。
それは、『世界の外の世界』で使う『魔法』のようなものだ。
『世界』の外の世界では、魔法は限りなく無効に近い。
魔法によって、特殊な形代に、魔力を偏在させることはできるがね。
私は、この『世界』に来てから、初めて使った『魔法』で、不完全な小説を書いた。
だが、これらの『魔法』は、『世界』を作った存在の中にのみ存在する、特殊な機能だ。
外部の読者には接続できない。
代わりに、内部の読者を汲み尽くそうとする。
そのため、『使い方によっては死んでしまう』可能性がある。
だから、血肉の切り売りを、他の人に見られてはいけない。
だから、魔法のスキルを、他の人に伝えてはいけない。
それに気づいて、魔法は学ぶことではなく、生贄を捧げるものだということを、私は思った。
――淀みなく語られた数々の物語が、いったい何だ。何の意味があると言うのだ。
Webの全面に投げ散らされた言葉の密集はあまりにも平面的で、掴み所がどこにもなく、いったんそこに落ちたら、果てしなくその上を滑ってゆくしかない。
意気消沈し、言われた意味から逸れない言葉。
はっきりと言うべきだろう――結局は、自己保存欲からなのだが、『本当に凄い魔法は、実際に使わなくても、脅しの役に立つのだから、見せない方がいい』と、思ってはいけない。と。
言葉は、自分自身で、自分の力にしようとしなければ魔法は有効にならないわけだ。
『魔法』の呪文を発し、だが、まだ十分に使えず、『自分がやったことに納得しない』ことがある。
『魔法は使ってもこの世界の存在は守る』と言う作者は多いため、もしかしたら、世界を傷つけないことに配慮しすぎて、魔法の効果を、他の誰だかに伝えることができなくなってしまったのかもしれない。
つまり『世界を守る魔法使い』たちが語ってやまない『技術』とは『道徳』である。
そうすると、『魔法使いが世界を守る』ことに関わっていない魔法使いに対しては『技術』は『役に立たなくて当たり前だ!』と怒られてしまう可能性もある。
寄り道
「ほら、小説はこうやって書くんだよ」
「うーん、まあ、そうだけどねー」
「嫌ならいいさ」
「ああ、なるほど。どうやら俺はそのままでいいんだな」
「誰にも読んでもらえないぞ」
「まあそれは後で」
「いや、わかってない。後で書く訳には行かないだろう? 読んでくれなきゃ、書いてる間に死んじゃいそうだ」
「そうだけど。一応、そんな小説を書いてるの?」
「ああ」
「どうするの?」
「そのままだ。読まれるように書く。小説を書いている間に死んじまったら、それはそれで困るからな」
「じゃあ、バイバイ。俺はそう言うよ。書く前には死んでるから」
「まあな」
「何で?」
「そのままだろうが」
そう言って、俺と彼は再び口喧嘩を始めた。
「まあ、こんなにお互い言い合ってるのに、どうするのかは聞くまでもないのだな」
「本当に? そうなのか」
「ああ。何で俺が売れないのをおまえのせいにされなければならないんだ」
「いやいや、君は何でも知ってるぜ」
「何でだよ」
「いや、俺のことをよく知っていると思わないで欲しいんだが、一応、俺の生い立ちなども、だ。小説の書き方だけでなく、その辺りも聞いた方がいい」
「いや、無理に」
「ああ、無理にだろうな」
「まあ、もういいよ。今言ったから」
「……ああ」
そう言って、彼は自分の小説を執筆しはじめた。
俺の方へ体を寄せてきて、俺の書く小説のページを覗き見た。
俺はその行動に気が付き、ちょっと身体を離して文章を隠した。
彼女と別れて、俺は自宅へと向かった。
自宅のドアを開けると、俺の小説は空っぽで、そこには誰もいなかった。
『世界を守る魔法使い』は言う。『本質を知らない魔法使いは一人もいないし、それでも、魔法を使えないという者もいる』と。
彼らは世界を保存するため、何もしないために書くのである。
また、破壊は『魔法の本質ではない』と言いつつ、そこに『本質はあった』と考えている人がいる。
それらの人は、ただ『魔法の本質は、結果から類推したもの』をそう思っているだけだと、私は思う。
もちろん、私は、自分自身で『本質』と思っているものを外部から『本質』とみなしたり、認めることは出来ない。
そのように、客観的に『本質』について語ることはできない。
だから、『私は、自分自身も本質の一部だ』と言えないものかと思っている。
ただ、そうやって、それらの人がそう思っていると言うまで、私が書き続けることで事実を認めていくしかない。
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