神の国
彼が書いたその本は日本における最も古い世界についての百科事典で、当時はこうした日本語の文書が見つかるには数十年ぶりだった。そのうち三十歳の時に彼は新書本の題名を『日本の神通』とした。本来ならば、彼の背後に控えていたのが同じく『日本の神通』であるのだから『これは日本における百科事典的な古書の翻訳である』と言うべきであろう。そんな古書と何ら変わらない、というよりもむしろこれがもっとも現代に近い言葉のように書いてあるのだ。
ただの百科事典の翻訳でありながら、これほど奇想天外な出来事を書く人間はなかなかいないだろう。彼は日本の古文書と言う本に日本語を読んだことのない人間が見聞きした出来事を書き記したのである。『神通』によって『日本人』ではない人間の世界についての知識へ見聞きに行くことができる。
しかも本の冒頭には『この本を書くことは日本から、そしてこれは日本人に与えられた使命である』と記してあり、『この本は日本人にもっとも与えられた本であり、すなわちこの本が日本人を守ってくれる』と主張している。
それにしても、本の序文が『日本人よ、あなたたちの足で日本の大地を踏み給え、そして神の御名に於いてそれぞれにあなたなりの使命を授けし汝ら』と言う部分は本当になかなかあやしくないか。
意味するところは『神とは個人的なものだ。日本人にとっての神は他国の人々の神ではない。私の神は、あなたの神ではない』ということだが、この本が書かれた五年ほど前から『日本の神通』の翻訳作業からは『日本の神の御名が書かれている』と言う訳語が無くなった。なぜだ? と本の著者は考えたが、『神の御名が記されている』と言うことはつまり、『日本の神は日本人の声、つまり我々は神によって、この世に与えられた使命があると言うことだ』と主張していることに他ならないからだ。それではただの詐欺である。
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