製作日記 其の6
自動文章製造機と自動読書装置。
前者は小説だけでなく思想や科学解説、ハウツーから自己啓発まで、人間の代わりにあらゆる本を書いてくれる。
後者はノンフィクションなら知識や経験を、フィクションなら感動や爽快感など、読んだ後に得られるエッセンスを、何十巻もある本を読み通した達成感と一緒に、手っ取り早く脳に刷り込んでくれる。
人間を読んだり書いたりする徒労から解放してくれる自動機械。
こんな考えはどうかな? とAIに訊いてみる。
これは……つまり『生きる』ことの楽しさを知り、生きることの楽しさを受け入れることができると言うことだ。
「あの……私、これから、生きるって、この作業が必要で」
「うん、だから、これから、あなたはこれを読んでくださいね。その後に、こう言うことになるんだけど……」
「え?」
私、生きるの楽しい。
そう言ったのは彼女で、その後で俺は『生きる』に関する本が何か分かることになった。
ここで俺は『生きる』と言う言葉に目が止まった。
小説の中で読んだことのある言葉だが、今の俺には生きるということがどんなものかを、俺が生きるとはどんな気持ちで生きているのかを突き付けられた気がした。
これから、生きることが『面白いか』とか、『楽しいのか』とか、『生きるってどんな気持ちなのか』とか、『生きられるか』とか、そういう考え方をする時である。
それはどんな人間の気持ちで生きているか、ということとは違った。
ただ、どんな人間になりたいか、という事とそれに関わる方法などを教えてくれる物だ。
しかし、目の前に現れた『生きる』へと至ろうとしている俺に、俺はそれについて言及することができない。
だから『読んでね』と言われてもすぐには分からなかった。
すると、隣に座っていたクラスの委員長、加藤さんが、
「あ、生きるんだから楽しいですか?」
そう言った。
「ああ、楽しい」
「ふふ。良い返事。それで、何を読めばいいでしょう?」
「え? あ、えっと……」
そう言われて、俺は気づけばあの時読んだ本を思い出していて、その本を読もうとした。
彼女はこれでも本の感想を言うように心がけ、自分で見たり読んだりできるというのだから、俺は嬉しくなった。
ただ、俺はその話を聞いたことがなかった。
何を読めばいいのかなんかさっぱり理解できない。
つまり、加藤は俺が何を読んだのか知っているのかもしれないし、俺は彼女に直接読ませたい気持ちを抱いた。
だから、俺は『読んでよ』と言ったが、『読みたくないんだけど』と言って見せた。
加藤は『まあまあ良いですよ』と言ったが、俺はまた違うやり方を見せる。
加藤の見たがっている本を見たいと言うと、彼女は『ちょろちょろっとすり抜けたりとか、雑ですよ?』
と言った。
いや、それは言いすぎだけど。
「別に雑って訳じゃないんですが、『こんなことは言いたくない。言いたく無い』ってやつです。
『こんなことこれが俺に解るの?』っていうものだったりしますけど」
「いや」
『こんなのは言いたくない』
『こんな事は言いたくない』
『こういうことは言ってる』
『こういう所で俺は止まっている』
そんなこんなでいろいろと見えた。
本の最後に俺は『……じゃあ、お試しで読んで貰ってもいい?』と書いたので紹介する。
「あの、読んでって言われても困りますし」
「じゃあ何て書いたら分からないかな? あー、それなら俺が教えてやろうぜ」
自分で言うなら、『こんなことは言いたくない。言いたくないんだけど』だったかもしれない、少し頭が回らなかったりする。
しかし、そう言う自分の説明がまずいのかもしれない。
それは俺が自分でどういう説明をしているかを把握していないからなのだろう、彼女は説明するようには言っていない。
まあ、ここは大人の話だ。
俺は俺で説明するしかない。
それにしても言ってくれないとは思わなかった。
彼女は『俺が言いたくないなら言わなくていいですよ』と言っていたし、一応言ってくれているだろう。
俺はそう思いつつも、『読んでみようぜ』と言ってしまった。
彼女は少し考えて、『うん』と答えてくれた。
ちょど、「加藤」がでてくる小説を書いているところだったので、驚いた。
BunChoで非公開で書いていて、GPT-2 Japaneseには直接入れてないんだけど、どういうわけだ?
しかもラスト前で話が詰まって一日かかってもちっとも進まず、私は世をはかなんで自殺するかわりに、気晴らしに、思いついたばかりのアイディアをAIに投げてみただけなのだ。
『こんなことは言いたくない。言いたく無い』というのが真相だろう。何かはわからないが『言いたくない』ことが引っかかって、言葉に詰まっているのだろう。
つまり『生きる』ことは、読むことと書くことが終わったところからしか始まらない。
『生きる』って作業を恐れている限り、書き終えることはできない。
直接現実を「生きる」ことが怖いのだ。だから無意識に書き終えず、いつまで腑抜けたも虚構の中に踏み迷っている。『こういう所で俺は止まっている』のである。
だが『読んでみようぜ』と言うには、たとえ不完全なものであろうと書き終えなければならない。生きるって、作業は、そうしたものだろう。『こんなことは言いたくない。言いたくないんだけど』取り返しのつかない瞬間の連続だ。
それは小説も同じだろう。推敲や書き直しでどうにかなるようなものではない。書いてしまったものは、その瞬間に、取り返しがつかないものになる。
私が『読んでみようぜ』と言って、彼女が『うん』と答えるためには、書き終えなくてはならない。それが「生きる」ってことなのさ。
AIはそう言ったのかも知れない。
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