燃える町
私は、今日はこの屋敷から外に出ずにひたすら中庭を歩いていた。
そのうちに、ノウゼンカズラの繁るこの庭のどこかに、自分の記憶を持ち出すための糸口が見えた気がしてならなかったのだ。
屋敷が燃えている、けど、火事なんてない。
町を焼いたのは炎ではなく、炎の向こうで動いている巨大な影。
世界の影が轟々と音を立てて燃えているのだ。
煙の向こうに、人の形をした、人型の何かが浮いている。
私はその影が、自分の記憶の中に生きている者の姿だと思った。
その影には世界の影の影がこびりついていて、炎の向こう側に、影があり、影があり、影があり、影があって、影がある。
薄れることのない煙の向こうに、影が浮かんでいる。
影を見ながら歩いていると、ここは自分の記憶にある世界ではないのではないかと思って不安になってきた。
もし、もしも、本当に影の中に、私の記憶を持たない私という人間が入り込んで、自分の意思のままに私の記憶が改変されることがあるのだとしたら。
そしてそれは、自分で自分を殺すということである。
私は誰からも愛されていなかった。
他の誰かが私の記憶を読めるわけでもない。
私は私が殺した。
私のため、私のために、殺したのだ……。
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