クラインの青い壺

「もう、こんなものはやめたい。本当にこんなものはやめられるものか」

「いや、やめた方がいい。もういい、もういいよ。僕もそこまでのようだから。でも、僕たちはもう、ここから出られないみたいだ」

「そうだな。お前も」

クラインがそう言って笑った。

「そうだね。やめてみるよ。こんなものは」

「お前はどうする、どうする、やめる、そんな」

クラインが困惑しながら言った。「いや、やめる。やめたほうがいい」

「いいのかよ、いいのかよ」

「やめたら、また、なんでもできるようになるかもしれない」

「そうだな、やめとけって、やめとくよ。やめたほうがいいだろ」

クラインは、どこかに去っていく彼らを追うようにした。クラインはやはりどこか他人の目線のように感じていたのかも知らない。

「どこかへいってしまった、あれを忘れたほうが……」

「あれ? あれはな、あれは、あれだ、忘れちゃった、忘れた方がいい、あのアレだ」

クラインは、そこに、また、あの、小さくてつめたい気持ちを感じ取った。

「あれを忘れちゃって、俺、もう、だめかと思ったんだよ」

「アレ、あれなのか?」

「そうだよ、アレだ」

あの、アレ、アレ、アレだ。

「あれをやったやつを、俺はどう扱えばいいんだ」

「お前はアレをやったヤツのことを考えているのか、それともアレをやったやつをアレ呼ばわりしているのか。それは、アレだよ」

「アレじゃ、あのアレな、アレなアレ、アレなのか。それはどういうことだ」

「アレはアレだ。アレだよアレ。アレは、アレ、アレだ、アレ、アレだ。アレ、アレ、アレ、アレだよッ、アレだ!」

「アレ、アレの存在が、アレの存在がアレだって、そういうことか。そういうことか」

「そうだ」

クラインは、彼が納得して言うのを最後通牒だと感じる。そうなってくると、その先の展開もまた、先の展開と同じということだ。

そういうことだ。そういうことだ!

アレはアレだ。アレはアレだ。アレはアレだ!

そうだっ! そうだよ! そういうことだって、やっていい、ようだ! やっておかなきゃいけない、ようだ!

そうすれば、その先の展開も……アレだ! アレだなッ、うん、アレだなッ。

彼は、あああああああああ、そうだ! そうだ! そうだ! そうすれば良いんだろう、そうしなきゃ、いけないんだろう!

「いや、だからな、それはどういうことだ」

「お前はアレじゃない。アレはアレだ。アレはアレだ」

「アレがアレじゃなくなってるんだぞ。アレがアレじゃなくなってこなくなるんだぞ。アレが、アレだって、コレだな、コレだな、コレだな、コレだな、コレだな。コレだ!」

それは、アレだ。

アレはアレだ。しかし、アレな……。

「アレはな、アレだ。アレはもういい。コレはな」

アレに、コレだ。と言わせられると。

「コレはこんなにも、いいんですね。どういうことでしょう。コレはコレなんですね」

彼は彼の中にあったアレのことを、それは、コレだ、コレだ、コレだ、コレだ、コレだ、コレだ、コレだ。

コレはそれで、いいんだ。

そうなんだ、と彼は言う。

「ああ、そうだな! いや、違う。違う、そういうことなのだ」

「それじゃあコレ、どうしたらいいんでしょう。ソレがコレじゃなくなったってことですよね。コレがないんじゃね、コレがないんじゃね、コレがないんじゃね、コレがコレであってる、コレがあってる、コレがあるんじゃね……」

「それはな、コレだったんだ」

「コレがないってことじゃないですか」

コレがコレであってる?

(了)

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