逃げる街

少年少女過激団は金持ちの金持ちによる金持ちのためのパフォーマンス集団だ。豪華な衣装、軽業に、透明な歌声。サーカスにも似た過激な歌劇。

派手な舞台は見る者を惹きつけ、熱狂する。

彼女らが音楽を愛しているということは、この街で何かが許されているということであり、彼女らは街と共に踊りながら育ち、いつか街にも届いて世界と共に歩く。

――こんなにも美しい。こんなにも美しいものが、ここにある――

少女は街を見上げた。街の壁は、何層にも分けられた断層だった。その層のひとつひとつが、街に色を差そうとする。街だけは美しくない。だからこそ歌い、踊り。街に色は無い。人々が色を求めるのは、もう少し先の地平線の景色だけだ。

「あの人――」

少女は振り返る。街がもう見えなくなる隙きに、少女は駆け出す。もう過激と呼ぶには、少女は年老いていた。そして少女はその後ろ姿の先の光景、街が――街の色が、目が、鼻が、口が、目があるのを確かめるように影が、目の前を通り過ぎようとした。その時――

「あ」

少女の体が、宙に投げ出された。それは少女の頭と、両手だった。

「あ……!」

少女は思う。自分はここに運ばれたと思って、体を起こそうとする。

少女は思い出と共に、少女の体は光を失いその後ろ姿を遠くに見つめた。

そして少女は思う。自分は、もうあの人に会えないということ。何もかもがあの人に、あの人に……。

少女は体を起こし、街を見下ろす。すると街はその姿を消した。そして街の向こうから、小さな男の子の叫ぶ声が聞こえる。

「助け……!」

少女の体は、街を向いた。街は消えた。そこで何が起きたのかは少女も分かってはいたが、それでも少女は、ただ祈る。

あの人に会えない。

すべてが消える前に、あの人に会えば。

願いは届かず、街に駆け寄る者はいない。

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