第15話 子供魔族の過去 2
魔王様の息子は戦闘の代償で2年間も眠っていたらしいの。でもなんとか目覚めて帰ってきたらしい。私はとても嬉しかった。もしかしたら魔王様があの優しい魔王様に戻るかもしれない。私に“天渡姫”と名付けてくれたあのときの魔王様に。
でも魔王様は元に戻ることはなかった。魔王様は前線で指揮をとっていて、そこに息子さんが出向いたみたいだから、息子さんの容姿もどんな会話があったのかも分からない。ただ一度会ってから、魔王様は今までよりも過激になって、息子さんは消息をたった。
お父さんとお母さんは3年も寝る暇もない日々が続いてた。もう2人は限界を迎えていたんだと思う。そして1年後、とうとうあの日がやってきたの。あの日も私は魔王城の一室にいて、魔王様とお母さんとお父さんの会話を聞いてた。
「“機織姫”、そなたは西の領地のベガ領へ行け。“牛飼君”、そなたは東の領地のアルタイル領へ行け」
「なぜ私達を離れ離れにするのですか!?」
「お前たちが人間に肩入れしている証拠をようやく掴んだ。だがな、お前らは魔族のために必要だ。衣食住は全ての基礎だからだ。だからお前らを別々の領地へ送る」
魔王城は魔族領のちょうど中心にあるから、そこを挟んで東と西に置かれるというのは2人がもう会えないことを意味してたの。それに人間を助けているという証拠を掴まれてはお母さんたちはなにも言うことができなかった。
「……娘は、娘はどうなるんですか。“天渡姫”は!?」
「お前らが人間を手助けしないよう、魔族領で預からせてもらう。言ってしまえば人質だ」
「そんな! 私達はもう家族で会えないということですか!?」
魔王様は言葉に詰まっていた。きっとそれが魔王様が残していた良心だったの。
「ならば一年に一度だけ“天渡姫”の誕生日に魔王城で会うことを許そう。だがそれ以上は認めん」
「……分かりました」
そんな会話を聞いて私は涙を流してた。もう一年に一回だけしか私達は会うことができないというのは想像するだけでも胸が張り裂けそうだった。
私の耳にはお母さんたちが近づく足音が聞こえた。その足取りはとても重くて、泥の中を歩いているみたいな音だった。
「“天渡姫”、あなたに話があるの」
お母さんは部屋を開けるとすぐにそういった。その後に続く言葉を私は聞きたくなかった。でもその言葉は私の思っているものとは違った。
「今すぐ、魔王城から逃げなさい。あなたはここにいてはだめ」
お母さんの瞳には強い意志が見えた。もうそれは優しい桃色なんかじゃなくて、火のような色だった。
「なんで? そんなことしたら私の誕生日に会えなくなるでしょ?」
お母さんは困ったように笑った。
「やっぱり聞こえていたのね。でも大丈夫。いつかあなたの元に私達は集まるから。とにかく理由は言えないけど、あなたは魔王城にいてはだめ。きっと心も身体も汚されることになる」
「どういうこと?」
「いつか教えてあげる」
そう言うとお父さんが部屋に入ってきた。お父さんとお母さんは人望が厚かったから、魔王様の命令よりもお父さんたちの命令を優先する魔族が一定数いた。その人達に私を脱出させる計画を伝えていたんだと思う。
「そんなことして、お母さんとお父さんは罰を受けたりしないの?」
「まあしばらくは会えないかもしれないけどな、別々の領地に行く時点で罰だし、俺たちを殺すことはできないから大丈夫だよ」
お父さんは笑ってた。きっと私を安心させようとしてくれてたんだと思う。でも瞳からは涙が溢れてた。それは隠しようがなかった。
私達は抱き合うと、すぐにお父さんさんの部下に連れられた。それが最後の別れだった。
「また会おうね」
「ああ、絶対にまた会おう」
「いってらっしゃい」
私はお付きの人と一緒に魔王城から出ると、とりあえず森に入って行方をくらませた。お付きの人についていけば大丈夫、そんな油断が私にあった。
2時間位すると、魔王軍が私を追ってきた。まさかそんなすぐ速くに居場所がバレるとは思っていなかった。そしたらお付きの人が時間を稼いでくれた。彼は精一杯、魔王軍を足止めしてくれた。私はとにかく走った。後ろからは人の死ぬ音がした。
気づけば裸足で森の中にいた。こうして私は1人で旅を続けることになったの。
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