第2章 子供魔族“天渡姫(てんわたるひめ〉”登場
第11話 ラディコ村到着
“共に歩む”が国を出てから2週間ほど立つと目的地のラディコ村へ着いた。ラディコ村は木々や草花が生い茂る自然豊かな村だった。家や建物は自然と調和し、あたかもこの世界に元からあったかのように思えた。唯一存在感を放つものは、大きな物見ものみ櫓やぐらだけだった。翡翠龍よりも大きい櫓は上まで昇ると驚くほど広大な自然を見渡すことができた。
「よっしゃー、着いたぞー」
「着きましたね」
「……頭痛い、もう朝?」
「昨日あんだけ飲むからだよ……、ちなみに夕方」
彼らはラディコ村に着くと、まずは馬小屋を探し始めた。“共に歩む”も2週間もの馬車生活は疲れていたが、何よりも馬とライヤーの体調を心配した。馬もライヤーも疲れていても弱音一つはかない。それが長所であり、短所でもあった。
1時間ほどで馬小屋もしばらく止まる宿もすぐに見つけることができた。“共に歩む”はライヤーと分かれるとラディコ村の村長へ会いに行った。報奨金についてなどの話をするため魔族討伐の依頼を受けた冒険者は村長に会いに行くようにと依頼紙に書いてあったのだ。
「始めまして。儂は村長のフライといいます」
村長は木造の古めかしい家に住んでいた。家の外壁には蔦つたが絡みつき、周りには紫苑しおんが生い茂っていた。その様子は家そのものが自然の一部かのようだった。村長は深い皺しわを顔中に巡らせていた。
「儂はまだ見たことがないのですがどうやら魔族が出たようです。住民が夜、厠かわやへ行ったところ畑の中に蠢く何かを発見したようです」
「おじいさん、何か怖い話みたいに話すね」
村長の歴史を感じさせるかのような口調は子供に怖い話を聞かせるかのような雰囲気を漂わせていた。その話し方は不気味さを醸し出していた。そういう話が苦手なのかギルダは熱くもないのに汗をかいていた。
「最初は猪の類かと思ったそうですが、何か不自然な様子だったので、近づいてみると
その得体のしれないものは『ワァッ!』と襲いかかってきたそうです」
「ヒィ!」
村長の「ワァッ!」という声に反応し悲鳴を上げたのはギルダだった。普段の粗雑な彼女からは想像できないが、彼女は怖い話の類がとても苦手だった。
「爺さん! わざとやったろ! 驚かすんじゃねえ!」
切れ長な目の端に涙を浮かべるギルダの姿を見てラクヤたちは大笑いした。ギルダは恨めしそうに村長を見ていた。
「すいません、『ワァっ!』と襲われたのは嘘です。村人は襲われることはありませんでした。村人の脇を何者かは通って逃走、ほのかな月明かりで見えたのは額に生えた角だったそうです。そのことから間違いなく魔族だと判断しました」
魔族は長いあいだ人間と争ってきた種族だ。彼らも人間と同じ知能を持っていた。しかし人間と違うのは特徴的な見た目だった。そのうちの一つが額に生えた角だった。
「分かりました。今の話を聞いているかぎり、その魔族は夜に活発に行動しているそうなので、私達は夜に魔族討伐を始めようと思います」
「ありがとうございます。後のことは専門であるあなたたちにおまかせいたします」
その後報酬について決めると、“共に歩む”は宿に戻り、ライヤーと合流した。その道中もギルダはいじられ続け、ギルダの醜態はすぐにライヤーへと報告された。
ライヤーは、「誰にだって苦手なものあるんですから、笑っちゃだめですよ」と言いながら誰よりも笑っていた。
その姿をみて「ライヤーだけは笑わないと信じていたのに!」とギルダは叫び、ライヤーに向けて弓を引こうとしていた。笑いながらギルダを止める“共に歩む”にはこの日もこれから魔族を討伐するという緊張感はなかった。
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