第9話 サティアラ王国の末路

「ふん、ふん、ふ~ん」




 鼻歌を口ずさみながら歩いていたのはサティアラ王国の王だった。彼は“共に歩む”を追放してから、幸せな日々を送っていた。毎日のように報告される彼らの功績は全てが王の想定外のものであり、それがなくなったことでいくらか心に余裕ができた。




「これでこの国と私の名前は永遠に歴史に名を刻むことになるだろう」


「大変です、王様!」




 召使いの一人が王の部屋のドアを蹴破り入ってきた。額には汗が浮き、息を苦しそうにしていた。王の部屋に無断で入るなど当然許されるべき行為ではないが、そんな場合ではないというのが表情からありありと感じ取れた。




「何だ、貴様。不敬であるぞ」




 王は明らかな緊急事態であるのにも関わらず、何よりもその不敬を責めた。その行為自体が彼の性格を表していた。




「隣国の一つ、クレイラット帝国が国境を越え、攻めてきました!」


「何!」




 クレイラット帝国は隣国の一つだった。その国は最近若い帝みかどに変わったのだが、彼の斬新な政策により経済力を増やし、それにより軍事力も大幅に上がり、近年脅威となっていた。




「それだけではありません。魔族もこの国に進行しているようです!」




 人間と魔族は歴史が記録されているときからずっと対立していた。魔族、ひいてはそれを率いる魔王は人間の国々を全て相手取ることができるほどの力があった。今までは“共に歩む”が退けていたが、彼らがいなくなった今、サティアラ王国は魔族に対する対応策がなかった。




「獣人の国“ギデアール”も攻め始めているそうです」




サティアラ王国は長いあいだ獣人を差別していた。そのためその復讐の機会をずっと伺っており、“共に歩む”がいなくなったその瞬間を狙ったのだった。




それらの報告を聞き、王は持っていたティーカップを落とした。床に落ちた紅茶の湯気は王の顔まで立ち上ると、ぴたりとその肌に吸い付いた。彼らの顔からが水分が流れ落ちていた。




「ならば最終手段だ! 蛮族の手など借りたくないが、各地の冒険者に招集をかけ、軍の一員となるように命令しろ!」


「それが“共に歩む”が居なくなってから、各地の冒険者がこの国を出ていまして、付け焼き刃にもならないくらいの冒険者しか残っていません」


「なんだと!?」




 冒険者の肌感覚は非常に優秀だった。彼らの多くは政治に関する話を理解することができない。まともに教育を受けた人が少ないからだ。しかしサティアラ王国の軍事力が“共に歩む”に依存していることは承知しており、彼らが居なくなったことで、この国に見切りを付け出ていくものが多かったのだ。




「くそ! くそ! なんでこうなる! 追放ではなく、せめて勇者パーティーの権利の剥奪程度におさめておけばよかったのか!」




 彼の後悔は全てが遅れていた。そもそも“共に歩む”を勇者パーティーに認定し、国に抱え込んだときに、いろんな国に大きな顔をしなければこんなことにはならなかった。彼は“共に歩む”を利用し、脅しをして外交をしていたため、あらゆる国がサティアラ王国に対し悪感情を抱いていた。




 結局サティアラ王国は“共に歩む”が国を出てから、1週間で壊滅し、クレイラット帝国と併合した。“共に歩む”を利用していた貴族や王は処刑された。国民の多くはそれを喜んでいた。クレイラット帝国の支配は税も軽く、商売がしやすかった。




 いつしか皆クレイラット帝国に感謝をいだき、サティアラ王国のことを忘れていた。サティアラ王国の名前と王の名前は歴史に埋もれ、いつしかその国民だったものですら思い出せなくなったのだった。

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