第2話 “共に歩む”は勇者パーティーのクビを喜ぶ

 追放された元勇者パーティー“共に歩む”は王城へ出るとすぐに馬車へと乗り込んだ。車内は重苦しい雰囲気が漂っていた。それも当然だった。名誉ある役職がなくなってしまうことはどんな場合でも悲しいことだ。


 しかし彼らを包む雰囲気はそういう悲痛なものではなかった。どちらかというと旅行に行く前の日に静かに布団の中に入ってはいるが眠れないといったような、楽しげな沈黙だった。


「えー、というわけで私たちはサティアラ王国から追放されてしまいました。大変悲しいことです」


 ラクヤは重々しく口を開いた。しかしその口元は輝やく歯を見せていた。


「というわけで待望の勇者パーティーのクビ、そして追放おめでとう! 乾杯カンテーラ!」

「カンテーラ!」


 彼らは追放を全く気にしていなかった。むしろ堅苦しい任を解かれたことをよろこんでいた。


「いやー、今日という日を待っていたぜ。私らを開放してくれるなんてあの王様は賢君だったな!」


 男勝りな口調で話しながら、匂いだけで鼻をツンとつくような度数の高い酒を瓶ごと飲んでいるのはギルダだった。彼女を象徴するのは明るい深紅の長髪と同じ色の瞳、そして小麦色の肌だ。生まれたときから太陽に愛されているような美しい褐色肌を彼女は持っていた。そしてその肌を誇張するかのように布の面積が少ない服を彼女は好んだ。


「ああ! そんなふうにお酒飲んだらだめですよ! またすぐ酔っ払っちゃいますよ?」


 野性的なギルダを諌いさめているのはエリーザだ。彼女は金髪碧眼、髪は実りきった麦畑のような金色で、瞳は海のような青さだった。彼女はいつでも白い肌を守るかのようにローブを着ていた。


「あんな人は賢君なんて言えないよ。あの国の貴族も王も今までで一番保身的な人たちの集まりだった。金と権力が大好きなね」


 そう言ったのはジャギルだった。彼の髪と瞳は夜の闇より暗い色をしていた。右頬に切り傷があり、それはもう一つの口のようだった。彼はまだ十五歳でパーティーのなかでは最年少だった。


「まあまあ、何にせよまた自由になれたんだ。今日はどんどん飲むぞー!」


 そう告げるのはラクヤだ。彼は山の頂上に積もる残雪のような屈強な白色の髪、そして全てを反射する金色の瞳を持っていた。それだけでも目を引くのに、彼から発せられる柔和な雰囲気は全ての人を惹きつけた。


「別に貴族が金を好きなことは悪いことではないじゃないですかー」

「確かにエリーザは金が大好きだもんな。こいつ、二ヶ月くらい前にさー……」

「もう!その話しないでって言ったでしょ!」

「ああ、貯めたお金を自分の部屋でこそこそ数えているときのエリーザの顔は悪代官そのものだったっていう話は言わないでおくわ」

「言っているじゃないですか!」


 慈悲深く、清楚なエリーザの秘密はお金が好きなことだった。そして同じパーティーで同性のギルダはそのことをよく知っていた。二人はいつも喧嘩していたが、誰よりも仲が良かった。


「エリーザの金好きは俺らの中ではいつものことじゃないか。それにしても、ジャギルは飲まないのか?」

「皆知っているだろ、僕は飲まないよ。美味しくないし」

「ガキだなー」

「ガキじゃない!」

「ラクヤさん!そんなふうにジャギルさんをからかったらだめじゃないですか!ジャギルさんは子供って言われるのが一番のコンプレックスなんですよ!」

「いや、エリーザ、その言葉が一番僕を傷つけていると思うよ」


 彼らはくだらない話をしながら飲み食いをしていた。少食なジャギルもその場の雰囲気に飲まれ、普段は食べないくらいの量を食べていた。酒だけは飲まなかったが、皆が酒に酔ってくるにつれて、ジャギルも酔っているかのような感覚に陥った。


「まだまだギルダ、お酒が足りないんじゃないんですかー?」

「なんでエリーザはそんな格好して誰よりも酒が強いんだよ。私は今日こそエリーザよりも飲むぞ!」

「おお! また名勝負が生まれるぞ! ジャギル!」

「皆ほどほどにしておきなよー」


 馬車の中では彼らが大騒ぎしていたが、そとの世界ですっかり夜になっていた。太陽は地平線のそこに沈み、月が馬車を照らしていた。月光は彼らがこの世界の主人公であるかのように、闇から浮かび上がらせていた。

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