”共に歩む”は共に歩む~国を追放された勇者パーティーは気ままに旅をする。追放した国は強国から弱小国家になったらしいけど、俺たちはスローライフを楽しみます~

紫 凡愚

第一章 “共に歩む”

第1話 追放された“共に歩む”

 サティアラ王国の王城、その謁見の間には多くの人々が集まっていた。香水の匂いを振りまき、刺さるような光沢を放つ宝石を身につけた貴族たちはこれから始まる見世物を楽しみにしていた。彼らの視線は謁見の間の中央にいる王と勇者パーティーに注がれていた。


 王はずんぐりとした体型をしていて、人が二人は座れそうな巨大な椅子に窮屈そうに座っていた。椅子は煌々とした宝石により彩色がついている豪華絢爛な椅子だった。しかし王が座るとそれがたいそう下品な色使いに感じられた。小さいころから蝶よ花よと育てられた彼は五十代になっても自分が蝶であり花であると信じていた。


「魔族、ひいては魔王との戦争の終結のために汝らを勇者パーティーにした。しかしそなたらは問題ばかり起こす。そのため勇者パーティー“共に歩む”をこの国から追放する。ただちにこの国から出ていけ。顔も見たくない」


 そう告げられたのは勇者パーティーとして名を馳はせた四人の天才たちだった。


 “進撃の聖女”ことエリーザ、“無駄なしの射手”ことギルダ、“人喰らい”ことジャギル、そしてその三人をまとめるリーダー“幻想”ことラクヤ。二人の女性と二人の男性で構成された“共に歩む”は数多の冒険者パーティーの中から魔王を倒す可能性が一番高いと国に認められ、勇者パーティーとして選ばれた唯一のパーティーだった。


 彼らは勇者パーティーとなっても国の命令に従うことがなかった。魔族の集落を滅ぼせと命令されたときもその実態が無害の魔族たちへの侵略と気づいた瞬間には魔族の味方をし、援軍としてやってきた国軍を滅ぼした。はたまた人間の小さい集落なんて捨てておけと命令したのにも関わらず、そこに救う人間が一人でもいるのならば多大な時間をかけそこへ出向き、魔王軍を滅ぼした。王国にとって最早彼らは脅威だった。


 勇者パーティーに選ばれるというのは大変名誉なことだった。そのため彼らが泣いて許しを乞うことを貴族も王も期待していた。そのうえで彼らを捨てることで少しでも鬱憤を晴らす心づもりだった。貴族のまとわりつくような視線に侵されながらリーダーのラクヤが口を開いた。


「そうですか。実は近い内に我々も勇者パーティーを辞任するつもりでした。その分の手間が省けて嬉しいです」


 あまりに失礼で傲慢な態度に王も貴族も何も言い返せなかった。ふてぶてしく笑みを浮かべるラクヤの歯は眩まぶしく光っていた。


「じゃあ俺たちはこの国から出ていきます。さようなら」


 礼もせずに後ろを向き部屋を去った彼らを謁見の間に残された人々は唖然あぜんとしたまま見つめていた。しかし、その後ろ姿をみて一人の貴族が大声で叫んだ。


「おい! 蛮族! その無礼な態度を王様に詫びろ!」


 “共に歩む”は歩みを止めた。彼らは振り返ると、ラクヤは相変わらず怒っているのかも分からない表情をしていたが、ラクヤを除くメンバーは明らかに不快感のある表情をしていた。しかし、皆リーダーのラクヤの方を見ていて、勝手な発言はしなかった。その統率の良さは断りもなく謝罪を求めた貴族がいる王との差を表しているようにも思えた。


「謝罪を求めているのならば、その期待には答えられません。そもそも私達はならず者が集まってできた冒険者の一員です。下げたくない頭は下げない。貴族のあなた達とは違い全てを捨てた私達にはそんな選択肢もあるのです。それでは失礼します」


 彼らは再び扉の方へ向くと、軽々と広間を出た。


 あまりに失礼な行為に腹ただしくなった王だったが、彼らの実力を考えれば騎士を使って捕らえることもできなかった。とはいえ問題児の勇者パーティーを追放したのだからこの国にも平和が訪れる……。そう考えていた王の目論見は後になって大きくハズレていたことが分かる。“共に歩む”がいたことで他の人間の国や、魔王軍から手を引かれていたことに気づいていなかったのだ。


 彼らがいなければサティアラ王国はただの弱小国家だった。

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