第5話


「カ、カップル...」


「そう、カップル!!」


俺の声は小さかったが、貞子のやつが嬉々として大きな声でそう言ったから。


周りの視線が。


登校中のやつらの視線が一斉に俺らに集まった。


「お、おい、見ろよ。

貞子が山吹と恋人繋ぎをしてるぞ...」


「本当だ...!山吹のやつ、趣味悪いな...

あんな冴えない女を彼女にするなんて...」


「俺なら絶対に選ばない...

圏外の女...!!」


少し恥ずかしかったが。

貞子をちらりと見ると。


飄々としてた。


「別に気にしてないわ。

言いたい人には言わせておけばいい。

私は好きな人の隣にいれて今、本当に幸せ」


ぼそっとそう呟き。


俺も、周りの目とか言葉とかどうでも

良くなった。


それにしても。


何故、俺のこと好きなんだろ?と

不思議だった。


記憶を辿ると、もしかして、あの時のことがきっかけかな?と思いあたる一つの事象に行き着いた。


あれは確か。

現在から遡ること二ヶ月前。

貞子が体育の跳び箱の時間に、

骨折してしまって歩けなかったとき。

ちょうどその時、先生が職員室に行ってて不在で。

他の男子は知らんぷりしてたけど、

俺は何だか貞子がかわいそうになって

保健室まで姫抱っこで運んでいた。


周りにいた女子や男子に、


「ほっとけよ、そのうち先生来るだろ」


とか。


「やーだ。幼馴染のユーコと付き合っているのに、

なんで他の女、姫抱っこするかな??」


なんて、笑われたけど。


勿論、ユーコにも、

「シンジ、ほっとけばいいでしょ?

私より体重ありそうだし、重いよ??」


「うるせえな、ユーコ。ただ保健室に運んで行くだけなんだから黙ってろ」


とユーコのことを俺は思い切り睨んでいた。


「よっ...と」


頑張って抱え上げ、俺は無事、

貞子を保健室の美人先生のもとへと

送り届けてみせた。


まぁ、ぶっちゃけると確かにユーコより

ずしりとしたが。


なんだかその日は。


誇らしいことをした気になって

気分が良かった。


ユーコ達には冷やかされたが、

俺はいいことをした、と思っていたんだ。




さて、回想を終え、時制を今に戻すと。


同級生の知り合い連中は俺にきこえるような声で口々に揶揄い、

やがて、藤島とユーコが騒ぎを聞きつけたのか、好機の目をして俺らの前に現れた。


玄関のとこで通せんぼするみたく、立ち塞がった。




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