第243話 親友かBLか?


「はいありがとうございました」

 独占インタビュー、今大会の目玉、うちの学校城ヶ崎のスター橋元選手との対談が終わった。

 彼のここまでの成績は打者では打率4割を越えホームランも2本、投げては最速158キロをマークし、初戦古豪を相手に1安打完封を記録し、今や全国のスターとなりつつある。


 そして、彼への取材が殺到した為に、同級生でもある私が代表でインタビューする事になった。


 彼と宿舎になっているホテルの一室にていろいろと話をする。

 野球に関しては各メディアで取り上げられている為に、私は主に彼の私生活について色々と質問していった。


 私の質問を楽しそうに答える彼に僅かだが違和感を覚えた。


 なんだろうか? 何か刺々しい感じがする。


 彼とは何度か話をした事がある。

 彼の親戚がプロ野球選手で、膝の怪我で手術をした事があった。


 それを知った私は彼に頼み、そこから翔君の執刀医を紹介して貰ったのだ。

 その時の彼は今と違い、私の前では何かモジモジしているファンのような態度だった。


 しかし今は、なんだろうか、少しだけほんの少しだけ憎まれているような、そんな態度だった。



 インタビューが無事終わりスタッフの人達が撤収作業を開始し、私がマネージャーと次の仕事の打ち合わせをしようとした時、彼が私に話しかけてくる。



「ちょっといいか?」

 彼は同級生に話しかけるように私に向かってそう言った。

 まあ、同級生だから間違い無いんだけど……。


「……すみません、これから次の仕事が」

 マネージャーはいつものように心を読むかの如く、私の表情を見るとそう言って断ろうとした。


「いいわ、藤堂さん席を外してくれる?」

 

「……そ、じゃあ、10分だけよ」

 そう言って時間による保険をかけ、マネージャーはスタッフが出ていくのに続いて部屋を後にした。


 身長180cmはゆうに越える橋元君、しかも翔君とは違う凶悪なまでに鍛えられ盛り上がった筋肉、襲われたらひとたまりも無いだろう。


 夏休み前はそんな心配をする事も無かった。

 しかし、今は身の危険を沸々と感じている。


「それで話って?」

 怖がっていることを悟られないように、私は睨み付ける彼にそう切り出す。


「……あいつはどうしてる?」


「あいつって?」

 勿論誰の事を指しているかはわかっているが、この場を優位にするべくあえてそう聞いた。


「俺があんたに聞く奴なんて一人しかいないだろ?」


「……合宿中よ」


「あんたは行かねえのか?」


「……」


「俺のせいか?」


「まあ、断ろうと思えば断れたけどね」


「噂じゃ別れたって聞いたが」


「……」

 彼のその言葉に私は敢えて沈黙で答えた。


「そっか」

 その瞬間彼の表情が晴れやかになる。

 彼はゆっくりと椅子に腰かけると真面目な表情で私に向かって言った。


「初めてあんたとあいつが試合に来た時、物凄い力が出たんだ……そして……ここに来た時も実力以上の力が出ているのを実感してる」


「凄い活躍だよね」


「ああ、俺はそれをあんたのお陰だって、あんたは俺の女神だって……そう思ってた」

 座りながら話す彼とそれを立ったまま聞く私。

 彼は私の視線の高さに近づける為に椅子に腰かけているのだ。

 相手の目を見て真剣に話す彼、それはつまり告白か? 私は一瞬そう思った。

 しかし何か様子がおかしい……。


 私は立ったまま黙って彼の話を聞いた。


「でも、違うってわかった、俺はあいつに宮園翔に負けたくないって……そう思ったんだ」


「あいつが女になんかうつつを抜かしてた事が悔しくて、お前も思い出せって、お前は凄い奴なんだって、俺はそう思って予選を勝ち抜いた」


「……」

 彼は私から視線を外すと思い出すように微笑む。


「俺は入学して直ぐあいつを野球に誘った事がある、あいつの足はあいつの走りはプロでも通用するって、でもあいつは断った、『そんな器用じゃ無い』って。だけど怪我を乗り越えて走り幅跳びで新記録だってよ、やっぱあいつはすげえんだよ」

 興奮気味に翔君の事を話す彼、そこで私はようやく気が付く。


「…………つまり、貴方は……翔君の事が大好きだって、愛してるって事?」


「……はあ?! だだだ、誰がそそそ、そんな事言った?! おおおお、俺はあいつがあんたに夢中になってたのが勿体ないって、ただそう言っただけだ!」

 その慌てっぷりに私は確信した。


「つまり、私と翔君が別れたって噂を聞いて、嬉しさのあまりに今、活躍しまくってると」


「そ、そんなわけ無いだろ?!」

 

「そっかああ、あはははは、そういう事ねえ」


「ち、違う!」


「おあいにくさま、私と翔君は別れて無いから」

 私は人差し指を右目の下に添え、彼に向かってそう言った。


「あ?! そ、そうなのか?!」


「そうよ、貴方と同じ考えよ、今、彼には陸上に集中して貰いたいって……そう、思っただけ」

 私のその言葉に彼の表情が少しだけ残念なそれに変わったが、それに気付いた彼は首をブンブンと振って自ら否定した。


「あいつは、すげえんだ……まだまだこんなもんじゃないんだ……あいつは自分の力をわかってない」


「……それには同意ね、BLに関しては同意しかねるけど」


「ちちちちち、違うって言ってるだろ!」


「あははははは」

 大きな身体で顔を真っ赤にしている彼を見て彼の可愛い姿を見て私は久々に思いっきり笑った。

 作ってない笑顔で思いっきり。





 そして暫く彼をからかっているとマネージャーが部屋に入ってくる。

 私と彼が楽しそうに? 話しているのを見て少し面食らっていた。


「じゃ、じゃあな、違うからな!」

 彼は私に向かってそう言うとマネージャーに軽く会釈をして部屋を後にする。

 

「随分と仲良いじゃない」


「まあ、好きなものが一緒だからかな」


「ふーーん」

 

「……あのさ藤堂さん……頼みがあるんだけど」


「何かしら?」

 頼みごとなんて珍しいと彼女は私に向かって笑顔でそう尋ねる。


「例の件も含めて、行きたいんだけど」


「……そう、わかったわ、直ぐに飛行機を手配するわ」


「宜しく」

 

 翔君や橋元君を見て、彼らがキラキラと輝いているのを見て、私もって少しだけそう思った。


 そして……もうひとつの懸念……それは勿論マネージャーには言えない、他の誰にも……翔君にも。

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