第218話 宮古島合宿2日目その6(彼の視線)
翔君の身体はもの凄く男らしい、いわゆる細マッチョっていう体型だ。
でも……はっきりいって彼の行動や言動は男らしいとは言えない。
おどおどした態度は少しだけイライラする。
でも、彼はとても優しい、そんな優しい男の子が私の好みだ。
芸能界でも時々いた。オラオラしている男が。
誰しも自分に惚れる……自分に惚れない女はいない。
そんな態度で近付いて来る。
一度だけ突然私にキスをしてこようとした奴がいた。
バカな男、そいつは私の運動神経を知らない。
その場で張り倒し、ぼこぼこにしてやった。
私が新人アイドルだと思っての行為、有名俳優だったそいつはその場で「お前潰してやるからな!」発言をした。
でもその後直ぐに私が白浜縁の娘と伝えら、そいつはマネージャーに土下座したそうだ。
それ以来私に近寄る人は居なくなった。
だから翔君の奥ゆかしい態度は嫌いでは無い。
私を大事にしてくれてるって思えるから。
そんな彼が……突然キスをしてきた。
私は初めびっくりしたけど……でも嬉しかった。
彼からのアピールが嬉しくて、ついつい夢中になってしまった。
あ、当たり前だけど彼を殴り倒したりはしないよ?
だって私はそれをずっと求めて来たんだから。
ただ、今はちょっとだけ戸惑っている。
突然ぐいぐいとこられて、私は少し怖さが込み上げている。
今も彼の視線が刺さる。17エンドのキスから私を見る目が変わった。
彼は私から視線を反らさないのだ。
じっくりと観察をしているような、そんな視線を感じる。
捕食者の目、虎が狩りをする時のような目……。
正直……少しだけ怖くなった。
もちろん彼が……では無い……。
サーキットトレーニングを行い、砂浜を左右に走り、30mダッシュを繰り返す。
彼の額から汗がほとばしる。
そして暑さに耐えられずトレーニングウェア脱ぐ。
さらにはTシャツも脱いだ。
「はわわわわ……」
その引き締まった身体が露になる。
少し離れた所から彼を見ていた私はそれを見て思わず小さな声を上げてしまった。
彼は日焼けを嫌う。体力が奪われるという理由で。
だから肌の色はそんなに黒くない。
それでもやはりずっと外で練習しているからか、少しだけ焼けている。
ランニングシャツとランニングパンツ姿で練習するので、首回りと腕と足が身体よりもちょっとだけ黒い。
上半身裸、下はランパン姿でダッシュする彼の姿をじっと見つめる……その8つに割れた腹筋、小さなバストと思える胸筋、太い大腿筋、細い足首にときめいてしまう。
そう、彼はまるで競走馬ような美しい身体をしていた。
そしてその彼の身体から汗がほとばしる。
競走馬のレース後のように……玉のような汗が彼の身体から流れ落ちる。
カッコいい……超絶かっこよすぎる私の彼氏。
もう……好きが止まらない。
でも、ちょっとだけ、彼の身体の一部を見ると私のこの気持ちが少しだけ萎える。
チクリと心に痛みを感じる。
彼の膝に付いている傷痕、事故の時の傷痕に手術の跡……。
それを見ると涙が出そうになる。
痛かっただろう、辛かっただろう……。
そんな彼の痛みに比べれば……そう思っているけど……でもやっぱり少しだけ怖い。
「円! 海入ろう!」
練習が終わった彼はランニングパンツも脱ぎ、あらかじめ下に着ていた水着姿で海に向かって走りだす。
私が昨日買っておいた水着姿の彼……ヤバい似合い過ぎて格好いい。
目の前には宮古島の海、少し雲が出てきたので青というより、どちらかというと少しクリーム色に近い。
それにしてもここの海は、なぜこんなに青いのか、さっきメイドさんに聞くと、宮古島は珊瑚礁では出来た島だからだそうだ。
それ故に土砂が海に流れにくい、そして海岸の砂は珊瑚の死骸なので真っ白な砂。
その白い砂と透明な海水が日光に照らさる。
光は黒いものに吸収され白いものを反射する性質がある。
そして水は波長の長いものを吸収する性質がある。
ゆえに、波長の短い青が反射して私達の目に映るそうだ。
ちなみに不純物が海水にあるとそこに光が反射している青以外の光を反射してしまう。
だからこの宮古島の不純物が少ない綺麗な海と真っ白な砂が合わさり、日本一、世界一とも言われる程の美しい青色、宮古ブルーといわれる程の青さを際立たせているとの事だそうだ。
その海に彼が飛び込んで行く。
それを見て……私もゆっくりとパーカーを脱いだ。
今回の水着は彼の好みでは無い……青と白のツートンカラーのビキニ。
宮古島をイメージした水着だ。
今回この水着にしたのは、水着を見て欲しいわけで無いからだった。
私のスタイルを彼にアピールしたかったからこれにした。
でも、今はその判断を少しだけ後悔している。
海に入りこっちを見ている彼、その視線が……また痛いくらいに突き刺さる。
彼は私から目を反らさない……。
じっと私を見続ける。
怖い、彼の視線が怖い……。
少しだけ……怖い……夜が来るのが少しだけ、ほんの少しだけ怖くなった。
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