第215話 宮古島合宿2日目その3(17エンドと幻の砂浜)


 小さな橋を渡り交差点に差し掛かる。

 その交差点には警察官の恰好をした顔の白い人形が設置されていた。


「あはははは、見て翔君、おもしろ~~い」

 

「これがまもる君か」

 宮古島ガイドに書いてあったのを思い出す。

 同じような人形が何体もあるらしい。


 俺は足を止め円と二人でその人形を眺める。


「顔しろ~~い、うける」

 円は持っていたスマホで写真を撮ると、そのまま俺にもカメラを向ける。

 楽しそうに、そして無邪気に笑う円に釣られ俺も思わず笑顔になった。


「まさおくんだって」

 円はスマホに書いてある名前を言った。


「まもる君じゃなくて?」

 え? 確かにまもる君とガイドに書いてあった気がするんだけど。

 俺は聞き間違えか見間違えしたのかと円に聞き返す。


「まもる君かっこまさおくんだって」


「なんだそれ?!」


「さあ?」


「「あははははははは」」

 意味が分からず二人で大笑いした。

 後で知ったが、島には何体もこの人形が設置されているので、それぞれに名前が付けられている。

 つまり苗字がまもる君で名前がまさおくんって事……なのか?


 一通り写真に収め俺たちは再び走り始める。

 道路の青い看板に空港は左となっていたが、円は構わず真っすぐに走り始めた。


「空港に行くんじゃないんだ」


「えっとね、あと6キロくらいかな?」


「おっと? そんなに?!」

 ホテルからはここまではだいたい1キロ程、円の目的地まで残り6キロとして7キロ。

 1時間程度のジョギングを考えていたのでちょうど良い距離なのだけどこれは片道の場合だ。


 行ったら帰ってこなければいけないので往復14キロは流石に……。

 そんな俺の表情を見て何を考えていたのか分かった円は心配するなと胸を張って言った。


「大丈夫帰りはメイドさんが車で迎えに来るから」

 さすがマネージャー円さん、その辺は抜かりが無かった。

 そこまで計算しての折り畳み自転車かと俺は納得する。

 

 また俺の前を走る円。

 電動アシストなので気持ちよさそうに前を走っている。

 

 周囲に建物がなくなりサトウキビ畑の真ん中をひた走る。

 

 サトウキビ畑を切り裂くように真っすぐな道が続く。


「すげえ……」

 ずっと都会で走っているので、この景色には圧倒される。

 異世界を走っているような感覚だ。


 異世界ランナー、そんなラノベを書きたくなってしまう。

 まあ、ラノベどころか小説もろくに読んだことないのだけど。


「給水する?」

 円はそういうと自転車に取り付けられたボトルを俺に渡してくれた。

 

「ありがと」

 早朝だが気温は高い、いつもならコンビニや自販機等探すがここにそんな物は無い。

 さすがマネージャー円だと俺は感心しつつ走りながら給水をする。

 そして円にそのボトルを返すと、円はそれを走りながら飲んだ。


「……」

 思わず声を上げそうになってしまう。

 ……間接……って……。

 これも普段なら、他の人となら何も気にしないのに……。


 もう昨日から自意識過剰気味で自分が嫌になる。

 円にそんなつもりはない……これは緊急避難的な旅行だ。

 俺は自分にそう言い聞かせた。


 そして走り始めて1時間弱

 俺たちは目的地に到着した。


「……な、なにここは?」


「17エンドだって……凄いね」

 到着した場所は下地島空港の滑走路脇、空港ターミナルの反対側の海。

 名前の由来は滑走路のナンバーらしい。


 空港の周囲に管理用の道路があるが、滑走路先端部分は一般の車は通行出来ない。

 道路の横にはテトラポッドが敷設されている。


 そしてそこから見える景色は壮観と言って良いだろう。

 遠浅の海、海が透明で白い砂底が見える。

 すぐ近くに岩のような黒い影、どうやらサンゴらしい。


 そして、青青青、とにかく海が青い。

 宮古ブルーという言葉があるが、まさにここがそれなんでは? と思わされるほどに青い。

 蒼、青、水色、絵の具の青という色が全てあるような、そんな光景が広がる。


 円は自転車を下りて管理用道路をゆっくりと歩き始める。

 俺も走るのを止め円の隣を歩いた。


 もうあまりに綺麗すぎて二人とも無言で滑走路の先端に向かって歩いていく。


「……うわ」

 丁度滑走路の先端が見えたその時、海を見ていた円が声を上げた。

 

「な、なんだこれ?」

 テトラポッドの下に白い砂浜、それが沖に向かって細長く伸びていた。

 円が持っていたスマホで確認すると引き潮時に現れる幻の砂浜らしい。


「ねえ、降りてみない?」


「いいのかな?」


「泳ぐわけじゃないし大丈夫じゃない?」


 そう言って早朝なのでほぼ誰もいない砂浜に、俺たちはテトラポッドを伝い慎重に降りる。


 白浜に降りると円は履いていた靴を脱ぎ靴下も脱いだ。


「は、入るの?」

 近くに行くと砂浜には海水が、あまりに透明で上からは見えなかった。

 円はそんな事に構う事無く沖に歩いていこうとする。

 俺がそう声を掛けると少し興奮気味に円は言った。


「歩けそう……」

 そう言い砂浜から慎重に海の中を歩き始める。

 

「あはは、気持ちいい……」

 ゆっくりと、楽しそうに満面の笑みで海を歩く円。

 深さはくるぶしぐらい、それが数十メートル程先に続いている。

 

 その光景に俺は思わず声を失った。


 青い、どこまでも青い海を歩く黒髪の美少女……その光景があまりに美しく、あまりに幻想的で。

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