第213話 宮古島合宿2日目その1(本当はキックボードにしたかった)


「…………」

 昨夜、プールの脇にあるジャグジーには入らず部屋に付いているシャワーだけ浴びてベッドに入った。


 もしかしたら円が来るかも知れない……ってドキドキしていたが、ベッドの寝心地があまりに良く、旅の疲れも相まってそのまま眠りに落ちてしまった、


 そして朝を迎える。


 俺は飛び起きて周囲を……そして広いベッドを見回す。


 勿論一人きり。


 「えええええええ……」

 昨日の緊張はなんだったんだろうか?

 もしかしてって……ずっと思っていた。


 結局俺の一人相撲だったってこと?


「は、恥ずかしいいいいいいいいい」

 俺はそう言いながらベッドを転げまわった。

 円にそんなつもりは無かったんだ……。

 だってそうだよ、これは旅行ではなく合宿なのだから……。


 俺は自分の妄想とそして煩悩を振り払うべく頭を何度も振った。


「とりあえず……起きるか」

 分厚いカーテンの隙間から僅かに光が射し込んでいる。

 俺はベッドからゆっくりと起き上がるとカーテンを開いた。 


「…………お、おおおおおおおおおおお!」

 その景色に、さっきまでの羞恥心が吹っ飛ぶ。

 青い、どこまでも青い海が目の前に広がっている。

 早朝だと言うのに既に日差しが強く、俺は目を細めその青い海を眺める。


「は……走りたい……」

 俺の中でそんな欲がむくむくと沸き上がる。

 まだ6時ちょっと過ぎだ。

 朝食には早いだろう。


 とりあえず持ってきたバッグからシューズとトレーニングウェアを取り出す。


「日焼けはヤバいから長袖と日焼け止めも塗っておくか」

 素早く着替え顔に日焼け止めを塗る。

 日光による日焼けは、特に南国での日焼けは毒でしか無い。

 体力も奪われるので、俺は必ず日焼け止めを塗る事にしている。


「どうしよう……」

 円に走りに行くと一言言った方がいいか?

 俺は悩むも寝ている円を起こすには忍びないし1時間程度の軽いジョギングだからと俺は黙って行く事にした。


 しかし、その気遣いは無駄になる。


 俺はそっと部屋を出て階段で下に降りると……そこには真っ白な長袖のシャツにデニムの短パン姿の円が既に待機していた。


「え?」

 円が既に起きていてそこにいることも去ることながら、あまり見ない円の出で立ちに思わず驚きの声を上げる。


「おはよ翔君」

 さも当たり前のように円は俺を見てニッコリと笑う。

 

「お、おはよ」


「良く眠れた?」


「あ、うん」

 お陰さまでという言葉は嫌みになるような気がして飲み込む。


「走りに行くんでしょ?」


「え、あ……うん、良くわかったね」


「ふふふ、翔君の行動お見通しよ」

 そう言うと円は再びニッコリと笑う。

 しかしその笑顔を見て、俺は一瞬怖いと思ってしまう。

 なんか全て円の手のひらの上のようで……。


 まあ、今に始まった話じゃないんだけど……。


「私も一緒に行っていい?」


「え? いいけど……俺走るよ?」

 歩きならばその格好でもいいんだけど……。


「そんなに早く走らないでしょ?」


「あ、うんまあジョギング程度」

 

「じゃあ大丈夫」

 円はそう言うとそのまま玄関に歩いて行く。

 なんだろうか? 俺も後を追い玄関向かうとそこには……。


「これって……」


「自転車買っておいたの」

 円ピカピカの小さな自転車がそこにあった。

 折り畳めるタイプでタイヤも小さいが良く見ると色々なメーター

やスイッチが付いている。


「えっと……」

 俺がジョギングをすることを先読みし、その為だけに電動アシスト自転車を購入って……。


「さあ、行きましょう、いい場所があるの」

 円は自転車を押しながら扉を開け外に出る。


 外にはメイドさんが立っており「行ってらっしゃいませ」と声をかけて来る。


「い、行ってきます……」

 いつ寝てるんだろうか? そんな疑問もメイドさんだからと押しきり俺はホテル前の駐車場で軽く体操をする。

 円も確かめるように自転車乗り、俺の周囲を楽しそうに走っている。


「円、日焼け止め塗った?」

 俺は準備運動を終え、軽くストレッチをしながら確認する。


「勿論!」


「そっか、じゃあ……行くか」


「行こう! ついてきな!」

 満面の笑みで円はそう言うと、大きな麦わら帽子を少しだけ斜めに被り自転車をこぎ始めた。





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