第212話 宮古島合宿1日目 その5(沼に沈める)


『ららら~~るらら~~』

 ホテルに無事到着した。

 私の気分は絶頂、これってもう新婚旅行だよね?

 

 私の座右の銘、ピンチをチャンスに変える。

 只野さんに感謝しなくちゃね。


 あれが無かったら翔君はここに来なかっただろう。


 さあ、ここからが勝負だ。


 ヘタレな彼もここに来れば覚悟を決めるだろう。


 休んではいられないと私は鏡に向かいメイクを始める。

 

 翔君の好みに合わせ薄化粧……に見える化粧を施す。

 

 健康的に見える化粧って感じかな?


 翔君ってああ見えて女の子を見る目は厳しい。


 だって、翔君が気にしている女の子達って皆、容姿端麗の才色兼備、姿勢正しくて所作も完璧でさらにはスポーツ万能……そんな人達ばかりだ。

 特に夏樹さんは完璧過ぎる……私が彼女に勝ってるのって……かろうじて顔だけかも知れない。


 だから磨く……とことんまで磨きあげる。

 顔も身体もそして心も磨く。


 お金を使い、時間を使い自分自身も……あらゆる手段を使ってでも彼の心を繋ぎ止める。

 悪い女だって思われてもいい……。


 だってだって……好きなんだもん。


 ある程度メイクが終わった所でノックの音がする。


「失礼します、とりあえずこちらが届きました、他はもう少しかかるそうです」

 メイドさんが私の服を急ぎ届けてくれた。


「わかりました……ありがとう」


「いいえ、失礼致します」

 綺麗な箱に入っている服を取り出す。

 箱の中にはドレス風な薄いピンクのワンピースが入っている。


 彼はワンピースが好きなので今もワンピースを着ている。

 でも人前で私が大胆な服を着るのは彼の好みではない。

 

 彼っておああ見えて、独占欲が強いのだ。

 

 だからこのホテルでは、少し大胆なワンピースを着る。

 胸元が少し開き、肩も出ているロングのワンピースだ。


 私はそれを着ると鏡の前でくるりと回った。


「ふふふ……」

 この旅行で、ここで彼に嵌まって貰う……私という沼に彼を引きずり込む。


 その作戦を私は確認の為に頭の中で何度も思い浮かべる。


 まず今日は彼に私を見て貰う……そして……今日は何もしない。


 焦らない、焦らずじっくりと翔君に私を見て貰う。


 以前とは違う、貴方の彼女の姿をじっくりと……見て焼き付けて貰う。


 私が自分の物だって気付いて貰う。


 美味しい食事、そして高級ベッドでの快適な睡眠……まず今日は三大欲の二つを満たして貰う。


 

 攻めてばかりじゃ駄目、時には引くのも作戦の内。

 翔君は一瞬ホッとするだろう、そして戸惑う、私が何もしないって。


 今日はそれで我慢する……焦ってはいけないのだ。


 勝負は明日から。

 

 今のところ明日の予報は晴れ……宮古ブルーと呼ばれている青い海を二人で眺める。


 このホテルの前はプライベートビーチだ。

 更に彼は膝の負担を考えてプールでトレーニングをする筈。


 そこで私の水着姿を存分に見て貰おう……。


 そして夕焼け、更に夜は満点の星空だ。


 気分が高鳴る……キスくらいは、ううんそれ以上の事も……。


 ふふふふふ、さあ翔君! 今度こそ二人で先に進みましょう!

 大人の階段を二人で!





 




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