第202話 陸上部ハーレム化


 翌日部活に行くとなんだか雰囲気がおかしい。


 なにがと言われてもよくわからないが、なんだか部員全体の空気がおかしい。

 特に一年生がなんだかそわそわしているようだった。


 いつもなら、こういう時、会長がいち早く察知して、何かしら皆に指示するんだが、勿論今は遠征中でいない。


 練習自体はチーム毎に各責任者がいるのでその者が指示を受けているのだが、全体の指示、もしもこういった自体になった時の対処は、キサラさんが、マネージャーである円に一任している。

 

 でもその円の姿が見えない。


 そういった時は一応、円の教育係である俺が代わりをしなければならないのだが……。


 まあ、取り合えずそんな切羽詰まったような、喧嘩でも始まっているような状況でも無いので俺はまず着替えようと更衣室に入ると、俺の後を追うように灯ちゃんが入ってくる。


「き、きゃあ!」

 俺が服を脱いだ瞬間扉が開き灯ちゃんが入って来たので、一応悲鳴を上げた。


「……あ、あ先輩そういうのいいですから」


「いや、一応男子更衣室なんだけど」


「いや、それよりも大変なんです!」

 女子高生が、男子更衣室に入るよりも大変なことってなんだろうか?

 

「ま、円さんが来るなり只野さんが円さんに円さんが只野さんに? まどただ? ただまど?」


「とりあえず落ち着け、まど〇ギみたいになってるぞ?」

 わけがわからないよ?


「と、とにかく二人がただならぬ雰囲気で部室に入って行ったんです!」


「えっと……マジか……」


「なんか……今にも殴り合いでもしそうな雰囲気だったんで、私が間に入ろうかって、言ったら只野さんが大丈夫って」


「そ、それで二人は?」


「わかんない、鍵かけちゃってて、外から様子を伺ってるんですけど、何も聞こえないんです」

 部室は無駄にお金をかけているので防音がしっかりしている。

 その為に時々キサラさんが中で変なことを……いや、多分昼寝だよね……てか、現実逃避してる場合じゃない。


「先輩……どうしましょう」


「どうするって、言われても」

 ドアを蹴破って突撃するわけにも行かないし。

 そもそも昨日の今日なのだから、恐らく原因は俺なわけだし。

 でも、これじゃまるで浮気相手に突撃した正妻みたいな感じだし。

 俺は浮気なんてしてないし。


「ああ、いったいどうなってるんだ?」


「こっちが聞きたいですよ! あ! せ、先輩……まさか、只野さんと浮気でもしたんじゃ?!」


「……」


「なんで黙ってるんですか?! まさか本当に!」


「し、してないにょ」


「噛んでるし、声裏返ってるし! うわああああ、ま、まさか本当に!」


「だからしてないって」

 俺は手と首を、ブンブンとちぎれそうになるくらい降った。


「な、なんで只野さんなんですか! 浮気なら私がいるじゃないですか! 円に飽きたなら次は私でしょ?!」

 灯ちゃんら一歩踏み出し俺の胸に手を当てうるうるとした瞳で上目遣いで見つめてくる。


「いやいや、違うから、飽きたとか言うな! 次なんてあるわけない! ああ、ほら皆こっちを見てるから!」

 やめてえ、ただでさえ円とあんな風に付き合うことになって、皆に迷惑かけてるのにい。

 折角女にだらしないという汚名が、疑いが、ようやく晴れかけているのにい。


「じゃあ何でこんなことになってるんです?!」


「し、知らないよ!」


「先輩、諦めて言った方が身のためですよ? 怒らないから言ってみて下さい」 


「そ、そんな懐柔しようとしても、知らないったら知らない!」


「出てきたら只野さんに聞きますけど、いいですか?


「昨日只野さんとカラオケに行きました! ごめんなさい」

 俺はあっさりと口を割った。

 だって体育会系の上下関係を考えたら灯ちゃんはまだしも、上級生から聞かれたら只野さんは絶対言うでしょ?


「あ゛?」

 俺がそう言うと灯ちゃんは文字変換出来ないような声を上げた。


「違う、カラオケに行っただけで、何もして無い!俺は無実だ!」


「先輩……ギルティ」

 灯ちゃんは親指を自分の喉元に突き刺し横に引いた。


「な、なんでだよ!」


「当たり前でしょ?! 付き合って何日目ですか? それはもう浮気超えてますよ! 妊娠中の嫁ほったらかしで他の女とホテル行くやつぐらい極悪ですよ!」


「えええ! そうなの!?」

 俺そんなレベルで極悪だったの?!


「当たり前でしょ? もうクラッカーぐらい昔から当たり前でのことですよ!」


「よくわからないけどなんか昭和ぐらいから当たり前なことを俺はしてしまったらしい……」

 ヤバイ、ヤバすぎる……何がヤバいのかわからないくらいヤバすぎる。

 どうしようか迷っていると、後ろからさらに聞き覚えのある声が俺に話しかけて来る。


「かーくん、なんか噂になってるよ?」


「おお! な、夏樹!?」

 声でわかっていたけど、でも思わずびっくりしてしまう。


「あのね、なんか他の部でかーくんが1年生を手籠めにしたって言ってたんだけど、どういうこと?」


「……先輩?」

 夏樹のその言葉に俺は絶句し、そして灯ちゃんは信じられないというような顔で俺を見る。


「……て、手籠めって」

 昭和どころか江戸時代か? って言葉が俺の耳に飛び込む。

 いや、江戸時代にそんな言葉があったかは知らんけど。


「それだけじゃないよ……白浜 円に手を出して、生徒会長とその妹、私とそれに顧問のキサラ先生にもって……陸上部がかーくんのハーレム化してるって噂を聞いたんだけど」


「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 頭が追いつかない。

 意味が全くわからない。


「まあ、私とは幼馴染だから眉唾だけど、会長とは結構仲いいし、今だって灯さんとイチャイチャしてるし」


「イチャイチャしてねえ!」

 どういう事だ? どうなってる?

 俺は突然窮地に追いやられてしまった。


 これか……円が言っていた面倒なことって……。

 

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