第198話 ママと変わらない自分


「橋元君?」


「や、やあ」


「どうしたの?」


「いや、今日試合だったから」

 そういえば甲子園の予選会、そろそろ大詰めのはず。


「勝った?」


「あ、ああ」

 どうしたの? と聞いて試合だったからという返事に違和感を感じつつも、甲子園出場するかも知れないという期待と好奇心でそれを打ち消す。

 

 それほど興味の無い私でも知っている甲子園。さらによく知ってる人が出るかも知れないとなると応援したくなる。


「あと何勝?」


「えっと、次が準決」


「おお、あと2勝かーー」

 強いというのは聞いていたが、そこまでとは思いもしなかった。

 自分の高校が出場できるかも知れない。

 学校愛なんてさらさら無い。この学校にいる理由はひとつひとつだけ。

 それでもこんなに嬉しい気持ちになるのは橋元君のせいだ。


「あ、ああ」

 私の笑顔に少し照れる橋元君。

 橋元君は翔君の事で真摯に相談に乗って貰った。

 なのでクラスでは翔君以外で唯一話せる存在になっている。

 まあ、クラス内で話す事は無いけれど。


「……えっと、それで今日は?」

 彼は何か歯に物が挟まったかのような、そんな表情をしている。

 そう思えば、相談をした時から常にそんな表情をしていた。


「あ、えっと……あいつと、宮園と付き合い始めたんだって?」


「あ、うん、そう、あははは、結構知れ渡ってるのねえ」

 改めてそう言われると思わず照れてしまう。

 でも、彼は……橋元君は何故かそんな私を見ると、怒りに満ちた表情に変わった。


「俺なら……」


「え?」


「いや……」

 そして彼はそのまま顔を伏せ何かを考え始める。

 そして、異を決したような表情で私を見つめながら言った。


「さっき……試合帰りのバスから見えたんだ……その……あいつが、宮園が女の子と手を繋いでカラオケ店に入っていったのが」


「え? だ、ダレトデスカ?」


「あ、えっと……た、確か……陸上部の1年だったような」


「……へえ」

 そうえいば今日翔君はやたらと只野さんを見ていたような気がする。

 ひょっとしたら只野さん?


「言おうか迷ったんだけど、でも、俺……」


「ううん、言ってくれてありがとう……ところで、そのお店は……どこ?」

 私は笑顔で彼にそう聞いた。でも、笑顔で聞いたはずなのに何故か彼は私の表情を見て怯えたような表情に変わった。


「駅前通りの地下の店」


「駅前ね……ありがとう行ってみる」


「い、行くのか?!」


「勿論、翔君は彼氏だからね」


「……そか……あ、あのさ……甲子園出場が決まったら、ちょっと話したいことがあるんだけど」


「え? 何?」


「いや、その時で」


「うん、いいよ、じゃあ……ありがとね」

 私はそう言って彼に手を振りながら駅に向かって走り始める。


「あ、ああ……」

 彼はまた何か言いたげにそう返事を返した。


 私は駅に向かって走りながら橋元君の事を考えていた。

 何故だろう……何か気になる……。

 男嫌いな私が唯一話せる男性二人のうちの一人が彼だ。

 

 彼の義理のお兄さんが有名なプロ野球選手。

 そして翔君の足の怪我と非常に近い怪我をした。

 プロの選手にわざわざホテル迄来て貰い話を聞かせて貰った。

 3年前には無かった手術の技法、そしてリハビリ、有名な先生にアポを取って貰ったりもした。


 でも、何故かそのあと彼とは会話が無くなってしまった。

 それ以前も無かったので、特に気にはしていなかったが、今日話しかけられ改めてそう思った。

 

 甲子園出場が決まったら何を言ってくるのだろうか?

 とりあえずその事は、彼のことはあとで考えよう。


 それよりも今は翔君と只野さんの事だ。


 それにしても一体どういうつもりなんだろう?


私は駅に向かって走る。

 でも、行ってどうなるの?

 只野さんは一体何を考えているの? 私と翔君が付き合っていることは知っているはず。


 そして翔君の考えもわからない……例え誘われたとしても、簡単についていくような人じゃない。

 別にホテルに行ったわけじゃ無いけど、でもあの奥手の翔君が二人きりでどこかに行くなんて……。

 ひょっとして、周囲の乱雑さが嫌になった?

 自分でいうのもなんだが、わたしと付き合うなんてめんどくさいことをよく選んでくれたって思う。


 一緒に歩けない、デートだってろくに出来ない。

 だから只野さん? 普通の女の子の方がいい?


 涙が出そうになるのを堪えた。

 でも、はっきりさせたい。


 何も言わずに身を引くような、そんな柔な恋じゃない。

 翔君に拒否されるなら、そうするかも知れないけれど……。


 浮気なら……って、いや違う! もしも浮気心でそんな事してるのなら、おもいっきり投げ飛ばして首閉めて落としてやる!


 そんな人じゃないのはわかってる。わかってるはずなのに、この込み上げるような不安はなんなんだろうか?

 私って……こんななんだ。


 ママを見て呆れていた。男の人にあそこまで依存出来るなんて……って、そう思っていた。

 好きになったら仕事も放り出し海外迄追っかけていく……でも、飽きたら直ぐに別れてしまう。


 私もママと同じかも知れない。


 

 そうこう考えていると、駅前のカラオケ店に到着してしまう。

 どうする? どうやって……。

 私は考えた、そして看板から眼鏡を取り出し装着、帽子も取り出し髪を中に入れる。

 簡易の変装だけど薄暗い場所ならなんとかなる。

 私は意を決して店に乗り込んだ。



 ビルの地下にある小さなカラオケ店。

 受付では暇そうなお兄さんが一人座っていた。



「あ、すみませーーん、只野さんと待ち合わせなんですうう」

 アイドル時代宜しく、私はおもいっきり可愛くそう言うと、そのお兄さんはめんどくさそうな態度から一転慌てて立ち上がると、PCの画面で直ぐに調べてくれた。


「あーー205号室っすね、お姉さん可愛いね」


「ありがとうございますうう、料金は後でいいですか?」

 

「あ、はい大丈夫っす、ごゆっくり」


 そう言われ素性がバレないように素早くその場を後にした。

 そして、翔君と只野さんのいる部屋の前に、もしも中で……。


 そうなったら……そんな現場を見たら……私はどうなってしまうのだろうか?

 自分を抑える自信がない。


 でも……いかなくては……。

 私は一度深呼吸をすると……そのままノックもせずに扉を思いっきり開いた。






『あとがき、というか現状報告』

私ごとで申し訳ありませんが二週間前辺りからとある場所が痛みだし、3連休で痛みが増し増しになりもがいていました。

そして本日病院で小手術、しかも傷口を閉じれないそうで、寝たきりなってます(笑)

入院はしてませんが、しばらく寝たきりが続きます(。´Д⊂)

とりあえず今回の話はほぼ書き終わっていたので、なんとか更新しましたが続きをいつから書けるかは現在不明です。

痛くてカクヨムコン用の新作プロットも全然進まない状況に、二重に泣きたいです

う。

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