第197話 最悪な貴方と最低な私
いったいどういうつもりなのだろうか?
円さんとあんなに劇的に付き合う事になったのに。
突然翔先輩にデートに誘われ、私は戸惑った。
何故今このタイミングで?
何か理由があるのだろうか? 私は先輩のことを信じてその誘いに乗った。
そしてそれは見事に裏切られた。
まさか手に先輩に付き合ってくれなんて言われるなんて、思いもしなかった。
ファーストフード店を出て、繁華街を一緒に並んで歩く憧れの先輩を見て……私は昔を思い出していた。
先輩のことを初めて見た時の第一印象は純粋な人だった。
そして雑誌やテレビのインタビューを見て、陸上に真摯に取り組み、努力を惜しまない……そう思った。
その後交通事故に遭い走れなくなったと聞いて、私は泣き崩れ、そして落ち込んだ。
あの走りが見れなくなってしまった……あの美しい姿が見れなくなってしまった。
まるで大好きなマンガが突然打ち切られたような、ううんそんな物じゃない、大好きだった人が死んでしまったような、そんな思いになった。
でも、一言でいい、先輩と話したい。好きだったと伝えたい、そう思った私は必死で勉強して先輩のいるこの学校に入学した。
そして……そこで二つの事実を知る。
一つは先輩が復帰したということ……先輩が手術とリハビリを乗り越え走れるようになったと聞いた時、私は飛び上がる程嬉しかった。
そしてもう一つは、女の子にだらしない、事故の原因も夜中に遊びに出掛けていたせいだって……そう聞いた。
噂話……陸上部以外の人の話を聞いて、私は初め信じられなかった、
そもそも、復帰したといっても3年以上走れなかったのだから、一度頂点にたどり着いた人だから ただの復帰では意味がない。
多分、もう……先輩は……やっぱり先輩は可哀想なんだと、そう思っていた。
何か私の出来る事は無いか? 少しずつそう考え始めていた。
でも、先輩は……全然可哀想なんかじゃなかった。
そう、先輩は何故かあのまるちゃんと、あの白浜 円と一緒にいたのだ。
それもただならぬ関係、翔先輩が付きまとっているわけじゃなく、白浜 円自ら翔先輩にベッタリとくっついていた。
さらにあんな噂が出回っているのに、陸上部で先輩は迫害されてる事はなく寧ろ周囲女の子は好感を持って接していた。
噂話はあくまでも噂と思ったが、ほぼ女子しかいない部で誰も先輩の事を悪く言わない事を鑑みると、女だらしないという噂は本当なのかもと……私はそう思った。
中でも生徒会長でもある陸上部部長、その妹の灯さん、そして白浜 円、この3人と先輩は端から見てもなにやらただならぬ気配を感じた。
その中でも特に先輩と近しい相手が白浜 円だった。
でも、あの白浜円がそんな簡単にただの高校生に惚れるのか? 私はそう疑問に思った。
でも、彼女は誰の目からもわかる熱い視線で常に翔先輩を見つめていた。
そう、あの目……あの白浜 円の目を見て私は気付かされた。
あの目はあの視線は……私と同じだって。
翔先輩は憧れ……ただのファンだとそう思っていた。
才能の無い私は翔先輩に期待していた。
純粋な人、真摯に陸上に取り込む人と勝手に決め付け、そして勝手に裏切られたってそう思っていた。
でも違った……ううん、陸上に関してはその通りだった。
あの秘密の練習で先輩は私の前で物凄いジャンプをした。
そして……もし高校記録を破ったら……円先輩に告白するってそう聞かされた。
そう、先輩はだらしなく無かった不純だったのは私自身だって、だからこれからは一ファンとして憧れの先輩として応援しようって……そう決めたのに。
そう……決めたばかりのにいいいいいい……。
隣を歩く先輩を見つめる。
円先輩という物凄い恋人がいるにも関わらず、私に告白してきた翔先輩……。
一体何故? そう考えた時、どこかで聞いたモテる人の最低なあの発言が頭を過る。
毎日高級な食事は飽きる、たまにはラーメンが食べたい……って奴なの?
私はラーメン……翔先輩にとっての……。
「うううう」
本来なら……頬っぺたを二、三発ひっぱたいてあの場を後にするべきなんだろう。
しかも、よりによってファーストフードを食べながらなんて……。
「円先輩の時はあんなに劇的に告白した癖に……」
「……え? 何?」
私の呟きに翔先輩が満面の笑みでそう聞いてくる。
「何でもありません……」
この屈託の無い少年のような笑顔……これで実はチャラいとか、ああ、もう悪魔よ悪魔……。
そして……私はその悪魔に魂を売った。
今私の中で優越感がふつふつと芽生えている。
あの白浜 円の恋人……高校記録保持者と付き合う。
普通で平凡だった私なんかが……。
……もう2番目でもいい……ラーメンでもファミレスでもファーストフードでも何でもいい。
普通の私にとってそれは夢のような出来事なのだから。
もうこうなったらとことんまで行ってやる。
私は翔先輩の手をそっと掴む。
「早く行きましょう!」
「え? あ、ああ、うん」
先輩が一瞬戸惑う、私はその表情に違和感を感じたけれど、もう後戻りは出来ないと先輩の手を握り、カラオケ店に入った。
◈◈◈
今日から翔君は一人暮らし……えへへへ、押し掛けちゃおうかなあ。
翔君の家でお泊まりとかしちゃったり?
部活の帰り、私はそんな事を考えつつマンションに向かっていると……
「円……さん」
突如後ろからそう声を掛けられる。
振り向くとそこには野球部のユニフォームを着た大柄な男性が立っていた。
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