第167話 絶句


「……………………」


 言葉が出なかった、俺の前に並ぶ新入部員を前に……俺は絶句していた。


 いや、まあ……俺は2年生だけど、同じく新入部員の俺が声をかける必要なんてないけど。


 今日から新入部員の勧誘が解禁となった。

 とはいえ、ドラマやアニメ等で見られるお祭り騒ぎのような事はうちの学校では行わなう事はない。掲示板に貼り紙をする程度だ。


 なぜなら、新入生の殆どが中等部からのエスカレーターでの入学、当然部活もそのまま同じ部に入る事が普通だからだ。


 中等部から見ているのだから、敢えて部活を紹介する必要は殆ど無い。


 殆ど、と言うのは高等部からの外部入学組がいる事。そして高等部にしか無い部活がある事。少数だが高等部では違う競技をしたい生徒が少なからずいるからだ。


 しかし、6年間という長い先輩後輩の付き合いもあって、内部進学組はよっぽどの事が無い限り、部活を変える者はいない。


 よっぽどの事……例えば悪名を轟かせている先輩が高等部にいる……とか。


 ちなみにその影響で男子陸上部はほぼ消滅とも言える事態になっていた。


 まあそれは、今日に始まった話ではない。


 その辺の事は既に会長から聞かされている。


 じゃあ、何故今俺は絶句しているかと言うと、目の前に並ぶ新入部員のせいなのだ。


 新入部員は……4人……中等部から入って来た者は既に春休み中から参加している為に、ここには含まれていない……。



 まず一人目は円だ。

 キサラ先生の陰謀? の為昨日からここにいるが一応正式には本日から入部となるので新入部員として一緒に並んでいる。


 まあ俺は一応去年から居るような物なので古参部員と一緒に並び挨拶は無し。 勿論新人として一番端に立っている。

 そして同じく灯ちゃんも新人なので俺と一緒に端に並んでいる。

 

 ちなみに今、灯ちゃんが俺の腕をツンツンと突っついているが無視している。


「えっと……じゃあ挨拶をしてくれるかしら?」

 陸上部部長として会長がそう言う。


 すると、一番左端に立っていた円が一歩前に出ると、俺をアルカイックスマイルで見ながら「昨日から参加してます、白浜円です……宜しく……です」と言って軽くお辞儀をする。

 ちなみに目は全く笑っていない……。


 

 そしてもう一人……まあこれも驚きはしない。


 俺の最もよく知る人物……俺の本当の意味での身内……そう妹の天が……笑顔で円の隣に並んでいる。ちなみに妹は俺には見向きもせずにずっとキサラ先生に愛想を振り撒いている。


「キサラ先生に憧れて陸上部に入りました宮園 天です!」

 そう行って深々とお辞儀をする妹。

 周囲は俺と同性なので一瞬あれ? って顔をするが天が一切俺を見ない事、そして昨日入ったばかりのキサラ先生に憧れてと言う言葉を聞いてなのか、何も言わずに不思議そうな顔で見ていた。

 

 その妹とは逆に、何故かずっと俺を睨み付ける女子が妹の隣に立っている。


 どうやら外部入学の新入生らしいのだが……徹頭徹尾、グラウンドに入ってくるなり物凄いオーラを発するかのように、ずっと俺を睨み続けている。


「只野 ゆきこ! です」

 何故か名前の方を強く発音してそう挨拶をする。

 そしてまるで格闘技の試合のように目線を俺から切る事なく睨み付けたままペコリと頭を下げた。


 えっと……俺……この娘に何かした? 全く記憶が無いんだけど。


 とりあえずよくわからないけど、殺されないように気を付けておこう。



 で、俺が絶句した原因はこの娘では無い。

 次の一人、いや総合的には今置かれている状況に俺は絶句していた。



「川本夏樹です! バスケ部から転部してきました! 宜しくです!」

 元気はつらつに夏樹は俺を見てそう挨拶をした。


 ちなみに夏樹も中等部で俺と同じ期間陸上部に入っていた。

 なのでごく一部の女子は夏樹を知っているが俺の一件でかなりの人数が辞めている。

 しかし会長の人気上昇に伴い、俺達が辞めた後にかなりの人数が会長を慕って入部してきた。


 今、こうして陸上部が存続しているのは会長のお陰と言っても過言では無い。


「じゃあ、1年生への説明は……マネージャーの円さんがしてね~~」


「「え?!」」

 無茶ぶりとも思えるキサラ先生の一言に俺と会長が同時に声をあげた。


「はい」

 円は普通そう言うと「じゃあ付いてきて」と言って隣に並ぶ二人を連れて倉庫に向かって歩いて行く。


「えっと」


「ん? ああ、そうね、翔君円さんの教育係だったわね、いいわよ」


「あ、はい」

 キサラ先生が笑いながら俺にそう言う。


 俺は慌てて円と二人を追いかけた。



 とりあえず怖いのは天敵の妹なのだが、妹はキサラ先生の前では猫を被ったように大人しくなっていた。


 そしてこの只野って娘、今度は円を射るような目で見始めた。


 なんだろうか? まるで彼氏を寝取取られた彼女のような目で円を見ている。


 全く身に覚え無いんだが……なんだろうか、もう不安しかない。



 夏樹を始め部員は各々ウォーミングアップを始める。


 この二人は夏樹や中等部から来た者達とは違い、入ったばかりなので、まず昨日俺が円にしたように器材の説明や競技場の説明からしなければならない。



「じゃあ説明します」

 円は倉庫を開け二人に振り向くと、至極事務的的に淡々と昨日俺が言ったように、いや俺が説明した以上に器材等の説明を始める。


 二人は一瞬面を食らうも、真面目に入部した事を証明するように、直ぐに真剣な面持ちで円の話を聞き始めた。


 そして……。


「わかりましたか?」

 円はそう二人に訪ねると、二人は「「はい」」とそう答えた。


 ……あれで……わかったんだ……。


 その言葉を信じるに、恐らく只野さんは経験者だ。勿論妹も一応経験者……でも円は……全くに素人の筈。


 それにも関わらず、円はただ器材を説明するだけでなく、各競技の事を踏まえての説明、そしてトラックの仕様、まるで経験者、いや審判員が出来るんじゃないか? ってぐらいの説明を二人にしていた。


 そしてやや早口の説明をメモも取らずに淡々と聞き、覚えたぞとばかりに自信満々に返事をする二人。


 マジで?……そう思ったが、でも、俺は気が付いた。


 そう、この三人は揃って皆外部入学組だった事を。


 全国トップクラスの学力を有している事を。


 落ちこぼれの俺は、もう何も言えず、ただ呆然と円の能力の凄さを、そしてこの新入部員二人の頭の良さを後ろから見続けていた。



 

【あとがき】

たまには言っておこう!(*゜ー゜)ゞ⌒☆

ブクマレビューを宜しくお願い致します。

レビューは最終話の↓下から入れられます。

☆をクリックするだけなで文字の入力は必要無いので、是非に(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾ヨロヨロ

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