第144話 岬と灯と円と俺との話し合い……まあつまりは修羅場


「会長……彼が悪いわけでは」


「貴女は黙ってて、そもそもなぜここにいるの?」


「私は彼の介助をしているので」


「今は座っているのだから介助は必要無いわよね?」


「それを言ったら会長の妹さんも必要無いのでは?」

 ここは生徒会室、そこに俺は会長から呼び出された。

 円に別れを切り出す為に袴田姉妹のマンションから飛び出し、そしてそのまま俺は彼女達に何も連絡を取らなかったので、本日呼び出される事になってしまう。


「先輩、なんで帰って来ないんですかあ!?」


「いや、灯ちゃん……えっと胸が当たってる」


「当ててるんです!」


「ゴリゴリあたってる」


「ゴリゴリ言うなし!」


 とりあえず円と橋元と俺の関係は一息ついた形になった……のか?

 

 あのホテルで何があったかはもう円を信じる他ない。


 そして、その話をした事により、ホテルに入っていく円を俺が見ていたって事を知られる事になるわけで……当然そこで何をしていたかを聞かれるわけで……。

 当然俺が嘘をつくわけにも行かず、あの日あった事を全て包み隠さず円に報告したわけで……。

 

さらにその直後袴田姉、岬会長に呼び出されれば必然と円も同行する事になるわけで……。


 さらに俺と円の間には「円は俺のものだ」発言後の微妙な空気が流れているわけで……。

 俺と円の間に嘘はない、今は無い筈……そして無いからこそ聞けない事が出てくるわけで……。


 まあ、何が言いたいかと言うと……修羅場だって事である。


「先輩、こんなタレント崩れのオバサンとピチピチJCの私と、どっちが良いんですか?」


「いや、えっと灯ちゃんと円は一つしか年が、それにそれを言ったら会長は……あ、いえすみません」

 会長が射すような、いや刺すような視線で俺を睨み付けてくる。

 ああ、なんか懐かしいなあ、この視線……。


「円さん、彼の事や足の事は私達姉妹が面倒を見るって事で彼は貴方に別れ話をしにうちのマンションから向かった筈なのだけど、どうやって懐柔したのかしら?」

 会長はいつものように冷静に円に向かってそういう……。


「え?! いや、会長さん?」

 言ったっけ? 俺そんな事言ったっけ?

 

 俺は記憶を確認してみた。

 そうあの日岬会長のマンションで彼女からプレゼンを聞いた。俺の将来に関する事の。

 袴田家がバックアップしてくれる。二人がすべて手助けしてくれる。

 あのマンションに住んでもいいとまで……。


 俺なんかの為にそこまでしてくれる、どうして? そう思った。

 しかし、あの時の俺の精神状態では、そこまで考える余裕はなかった。そして、それは俺にとって魅力的すぎる提案だった。

 

 俺はそれを一旦受け入れてしまう。


 そして俺は……円と別れようって……そう思ってしまった。


 でも、でもさ、言ってないよね? 俺それを会長には言ってない筈だよね。

 完全にかま掛けてるよね?


「まあ、懐柔はしてないけど、怪獣のお二人から守った正義のヒーローって事でしょうか?」

 そんな円はそれを冗談で交わす。


「だ、誰が海獣よ!」

 会長がからかわれた事に珍しく怒りを露わにし、髪を振り乱し円に食って掛かる。

 ああ、もう文字にしないと何を言ってるのか俺にはわからない。


「せんぱ~~い、ひょっとして円さんとエッチしちゃったの? なんか二人からそんな雰囲気するんだけど~~」

 

「「してない! ません!」」

 俺と円が同時に声を出す。

 そして空気を全く読まない灯ちゃんはテーブルに肘をつき手の甲に顎を乗せ俺たちを観察するように見ながらそう言った。

 それにしても灯ちゃんてこんな子だっけ? キャラぶれてない?


「へえ、それだけ一緒にいてまだなんだ~~へえ~~」


「とにかくね、円さん、彼は被害者で貴方は加害者なわけでしょ? 通常そんな二人が一緒にいるっておかしいって思わない?」

 灯ちゃんの言葉に落ち着きを取り戻した会長は再び真剣な顔で円に尋ねた。

 こうしてみると、このツーマンセルは合っているなあって冷静にそう思う。


「そうですか? 本来はこれが正しいのでは?」


「そんな事言ったら世の中大変な事になるでしょ? 事故の加害者が被害者を直接お世話するなんて」


「思いませんが?」

 円は睨む会長から一歩も引かないでそう答えた。

 最近の俺はだいぶ慣れたがこの会長の冷たい視線でに睨まれたら、普通の人ならば蛇に睨まれるカエル状態になることは間違いない。

 それくらい怖い会長の視線。


「翔くんはいいの? あなた達の間には一生その事実が付いて回るのよ? もしも、もしもあなた達が今後恋人同士になったとして、それは怪我のせいだって、怪我をさせた同情かも知れないって、そう思うって事なのよ? わかってる?」


「……」


「だから離れた方がいいって私はそう思う、そして彼女以上のバックアップは、彼の手助けは私がやる、私達ならやれる」


「やるよ! こんなおばさんには負けない! 先輩の下半身は私が治す」

 いやそれだと俺が不能者って事に……。


「へええ、では会長さんは同情ではないと?」


「そうよ」


「じゃあ、会長さんは何故そこまで彼の為にするのですか?」

 そう、そうなのが。円は核心を突いてくる。これが……これが円なのだ。

 冷静に物事を俯瞰する力、そして先を見据えた行動。

 円の恐ろしさを俺は痛感している。


 北海道の時の事も、この間のマンションの時の事も。


「そ、それは……」

 会長が初めて口ごもった。

 それは俺も知りたい事だった。

 会長は姉妹で共闘してそしてその後に俺に選んで欲しいって言っていた。

 それは俺の介助をどっちが、岬さんと灯ちゃんのどっちにするかって意味なのか?

 それとも……。

 俺はそれをはっきりと聞いていない。


 そんなジリジリとした空気を切り裂くように灯ちゃんが能天気に言った。


「は~~い、私は先輩が好きだからで~~す」


「「っつ」」

 

「先輩の為ならなんでもするよ! エッチな事でも~~!」

 あっけらかんとそう答える灯ちゃんに、今度は円が黙ってしまう。

 いや、黙るというか呆れているのか?


「そ、そうね……妹の為にって……事にしておくわ」

 会長はホッとした表情で円に向かってそう言った。


「とにかく……彼は私を選んでくれた、それだけです! じゃあ行きましょう!」

 

「あ、うん、会長……すみません、灯ちゃんもありがとう」

 円の腕に掴まりゆっくりと立ち上がると、俺は一礼して生徒会室を後にする。

 アルカイックスマイルの会長と頬を大きく膨らませた灯ちゃんは何も言わずに俺たちを見送った。



「はあ、モテモテです事」

 円の尖った言葉が俺に突き刺さる。

 そして、会長の言った言葉が俺に深く突き刺さっていた。





【あとがき】

 新作投稿しております。

『それぞれの景色、経験豊富な箱入りお嬢様と付き合うには?』

https://kakuyomu.jp/works/16816927861147578832

なろうでは打ち切りました(笑)

カクヨムではどうなるか? (´;ω;`)ヨロシク

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