第137話 袴田岬のプレゼン


 僕は会長に取り調べ……事情を話す。


 会長が淡々と質問してくるが、僕を庇う為に灯ちゃんが被せる様に答えるので、会長は灯ちゃんに退席する様に命令した。


「な、なんでよ!」

 

「私は宮園君に話を聞きたいのよ」


「で、でも!」


「終わったら呼ぶから貴女は部屋に居なさい」

 さっきの運転手さんが、お茶を運んでくる。

 どうやら会長に知らせた斎藤さんと言うのは彼女らしい


 その斎藤さんの行動に一切文句を言わない灯ちゃん。察するにこの家での序列は、お姉さんである会長が上って事だ。


「わかった……先輩、あとでね」

 灯ちゃんは僕にウインクをして部屋の外に出ていく。


「斎藤さん、ここは大丈夫だから」


「畏まりました」

 スーツ姿の斎藤さんは、そう言うと一礼して外に出る。

 会長は白磁のカップを優雅に持ち、美しい所作で紅茶を一口飲むとアルカイックスマイルで僕を見つめる。


 そして音も立てずにカップをソーサに戻し姿勢を正す。


 学校や陸上部ではがさつな所があるけど、家ではこうなのかと感心してしまう。

 お嬢様なのを隠しているのか? それとも清楚なワンピースを着ているからなのか? 今の所はわからないけど……。


「それで、宮園君は円さんを今はどう思っているの?」


「え?」

 何か含みのある言葉に僕は思わず聞き返す。


「憎んでいたり嫌いな人と何ヵ月も一緒に居たいなんて思わないでしょ?」


「……」


「私は……貴方が嫌いだったわ、だからずっと声も掛けずに遠くから見ていた」


「……」


「でも、嫌いは好きの対語では無いとは良く言った物だわ、好きの対語は興味が無い……そう私はずっと貴方に興味があったの」


「興味……」


「宮園君は中等部の時、私に興味無かったよね……というより、貴方は誰にも興味が無かった……眼中に無かった。貴方は陸上だけ、速い選手にしか興味が無かった、だから私は貴方の視界に入ろうって、そう思って努力した」


「すみません……」


「ううん、謝る事なんて無いわ……むしろ謝って欲しく無い」


「はい」


「ふ、それがいまはこうやって、私の家で話をしているのだから……わからない物ね……じゃあ、昔話はこの辺にしてこれからの事を話しましょうか」


「はい」


「灯は貴方に興味がある、そして私もね……貴方に必要な物は多分何でも揃えられるわ……でもね、円さんもそれをずっとしていたって事……勿論両方からなんて都合の良い事は許さない」


「そ、それは!」


「わかってる、こんな所で駆け引きはしないからはっきり言うわ、貴方は私達姉妹に必要な人よ、そして円さんと貴方の歪んだ関係もなんとなくわかっている。簡単には離れられ無いって事も……そして、どちらかを選ぶ、その権利は貴方にあるって事も言っておくわ」


「選ぶ……なんて僕には」


「ううん、私達姉妹にはチャンスなの……だから今は共闘して貴方に選んで貰う、そしてその後に私達姉妹を選んで貰う……それが最善」


「私達姉妹?」


「そうよ」


「それって」

 そんなの……あまりにも都合が良すぎる。

 でも会長も……いや、岬さんもそれだけ僕の事を考えてくれているって事……今頃橋元と宜しくやってる円なんかよりも……。


「……私の話はこれで終わり、後は貴方が決める事、ああ、最後の話は灯には内緒よ」

 僕に何も言わせない会長、いや、円と袴田姉妹の間でフラフラしている僕に何も言えるわけがない。


「さ、じゃあ折角だからゆっくりしていって頂戴、今から食事の用意をさせるわ」


「いや、でも……」


「駄目よ、ついでで悪いけど合宿のお礼をしたいって思っていたのだから……それに貴方に私達を選んで貰うプレゼンになるでしょ?」


「……はい」

 僕はそれ以上何も言えなかった……勿論会長の言葉通りプレゼンを聞くなんておこがましい事を考えたりなんかはしない。


 自宅に招待されて、そこまで言われ、直ぐに帰るのは失礼だって思っただけ……。


 そして、その後は灯ちゃんと岬さんと3人で食事をして、ゲームをしたりして遊び最後に窓から見える物凄い夕焼けを眺め「夜景は今度来た時のお楽しみで」と言う、会長の少しずるいプレゼンを最後に聞き、僕は彼女達のマンションを後にした。


 車で送ると言われたが……僕はそれを丁重に断った。


 僕は迷っていた、このまま家に帰るかそれとも円のマンションに行くのか……。


 円から話を聞きたい……まだ疑いの段階だから……。


 駅のホームで立ち止まり、袴田姉妹のマンションを見上げる。

 巨大なマンション、所々に赤いランプが明滅している。


 そしてマンションの反対側遥か先に見えるのが今日、円と橋元が入ったホテルだ。

 

 二人は揃ってホテルに入って行ったけど、当然あそこにはレストランやカフェだってある。そして、見かけたのはまだ朝だ。朝から宿泊する可能性は低い……まあ、昨日からって場合もあるけど……。


 だけど問題はそこじゃない、僕に内緒で橋元に会っている時点でやましい感覚が円にはあるって事だ。


 とはいえ、僕と円は付き合っているわけではない。


 だから……だからこそはっきりさせないと、僕はこのまま先には進めない。


 

 だから僕は……。


 今日、円と決着をつける……。


 そう決め僕は電車に乗り込んだ……円のマンションに向かって。



【あとがき】

かなり色々と飛ばしました。

この話は本来もっと後に書く予定でした。

次回色々わかると思います!(*゜ー゜)ゞ⌒☆


新年にスッキリしましょう~~(笑)

それでは良いお年を、来年も宜しくお願い致します。( `・ω・´)ノ ヨロシクー

 

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