第135話 私が支える!
僕は包み隠さず全てを彼女に話した。
事故の事、円との事、北海道の事、そして今までの事。
恥ずかしい自分の思いも全て彼女に話した。
「追いかければ良かった」
「え?」
「そしたら……先輩は完全にあの女の事諦められたのに……」
「いや、諦めるも何も、僕と円はそういう関係じゃないし」
「じゃあ、もうあいつの所には行かない?」
「そ、それは」
「ほら!」
「そ、そうじゃない……僕は学校に残る為に」
「そんなの……そんなのお姉ちゃんと私がなんとかする!」
「え?」
「先輩……デートは中止……今から私の家に来て」
灯ちゃんは立ち上がると厳しい顔で僕を見る。
そして、僕に手を差しのべる。
僕は一瞬悩んだ……この手を掴んでも良いのかと、そしてそれは……将来、近い将来に、円との決別を選ぶ事になるかも知れないと。
でも、僕は一人では生きていけない……情けないけど、誰かの助けが必要なんだ。
今の僕にとって円は必要な人……でも、円は……。
同情して、僕に同情して一緒にいるだけ。
責任を取る為に仕方なく一緒にいるだけ……。
その証拠をさっき、まざまざと見せつけられてしまった。
僕は座ったまま灯ちゃんから差し出された手をじっと見つめる。
少なくとも彼スマホ表情から僕への同情は感じ取れない。
もしこの手を取って、彼女から、彼女達から助けて貰ったとしても、円との様に一方的にはならないだろう。
今の僕でも彼女達になら返せる物がある。
円も……僕の為に我慢をする事が無くなる。
こそこそと……他の男と会う必要も無くなる。
芸能界に戻る事だって出来る。
邪魔な僕さえいなければ……。
僕は……灯ちゃんの小さな手に、自分の手をそっと重ねた。
真剣な顔だった灯ちゃんの顔が一瞬ふにゃりとした笑顔に変わる。
やっぱりこの子は可愛いなって、僕はその時改めてそう思った。
「もしもし? そう、私です、予定が変わりましたので、はい、宜しくお願いします」
僕の手を強く握ると灯ちゃんはスマホを取り出し誰かと電話をする。
そして、そのまま何も言わずに僕を道路脇まで連れて来ると、ドンピシャのタイミングで目の前に黒塗りピカピカの見るからに高級そうな車が止まった。
そして中からスーツ姿の運転手らしき女性が降りてくると、扉を開け灯ちゃんと僕に頭を下げるた。
「ありがとう、先輩乗ってください」
「あ、うん」
広い席、革張りのシート……。
「自宅に行って下さい」
「畏まりました……」
そう言うと運転手さんは天井のボタンを押す。
前の席とこっちの席の間に壁が出てくる、テレビや映画でしか見た事のない光景に僕は唖然とした。
「えっと……灯ちゃんてお金持ちなの?」
そう言えば……会長はお嬢様だって誰かが言ってた……。
そもそもうちの学校は私立、しかも全国でもトップクラスの学力……それなりの地位の子供も多いと聞く。
朝こういった車で登校してくる人も多い。
「まあ、先輩を支えられるくらいには……ね」
「あ、うん……でも」
「うん、わかってる……今日はね遅くまで遊んで、最後は車で送ろうかなって思って呼んでたの……あまり家の力を使いたくなかったんだけど、でも隠すのもおかしいかなって……ただ先輩の話を聞いて……もうそんな事を言ってる場合じゃないって……」
「ごめん……」
「ううん、お姉ちゃんは知ってたんだ、先輩と円さんの事」
「いや、はっきりとは……」
事故に遭ってから今までの全ての事情を知ってるのは、円と妹だけだ……親でさえも今の円と僕の事は知らない。
「そか、だから私がいくら聞いても曖昧にしか答えてくれないんだ」
「ごめん」
「ううん、いいよ、私こそ思い出したくない事を聞いてごめん、先輩も辛かったよね」
灯ちゃんはそう言うと、僕の手をそっと握る。
その手から伝わる灯ちゃんの優しさに僕は思わず涙が出そうになった。
暫くすると車は地下に入っていく。
確かここは学校からも見える有名な巨大タワーマンション。
恐らく円のマンションの倍はある……高さも金額も……。
「ここが自宅?」
「あ、うん本宅っていうか両親が住んでるのは青山なんだけど、ここは私とお姉ちゃんが住んでるの、まあ、子供部屋みたいな物かな?」
「子供部屋って……」
お金持ちってマジで意味わからん……。
「学校から近いからね」
地下駐車場のエントランスに到着すると、運転手さんが扉を開けてくれる。
「ありがとう」
僕が先に降りると灯ちゃんは運転手のお姉さんにそう声をかけ、そのままエントランスの中に入って行く。
恐らく鞄に鍵が入っているのだろう灯ちゃんが近付くと自動ドアが開く。
円のマンションも凄く綺麗だったが、ここはそれを遥かに凌ぐ。
高級ホテルばりの綺麗絨毯、そして大きなエレベーターが目の前に。
しかも、ドンピシャのタイミングで扉が開く……鍵と連動しているのだろうか? エレベーターに乗り込むとボタンも押さずに動き出す。
きらびやかなエレベーターには今何階という表示も無い。
扉上部に付いているLEDの灯りが動いている事を示している。
多分10円玉を床に立てても倒れないくらいの静かさであっという間にLEDの
表示は一番上に到着したと僕達に知らせた。
扉が開くと、真っ正面に扉が一つ現れた。
つまりはそう言う事だ。
巨大タワーマンション最上階、その丸々一フロアが恐らく灯ちゃんと、会長の……子供部屋って事になるわけで……。
「マジか……」
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