第134話 円との関係
「先輩待ちました?」
「ちょっと?」
「もう、そう言う時は今来たところって言うのが礼儀ってもんですよ?」
膨れっ面で僕に抗議する灯ちゃん。
「コールに遅れて失格するから時間は正確に」
「あーー、もう今日は部活の事は忘れようよ!」
「ハイハイ」
灯りちゃんは黄色い柄のワンピースを着ていた。神宮外苑の銀杏の木が紅葉で色付いた様な、そんなイメージを彷彿させる。
「えっとどこ行きます?」
「……僕が決めるの?」
「えーー先輩がリードしてくれるんじゃ無いんですか?」
「いやいや、誘ったの灯ちゃんでしょ?」
「それはそうですけどお~~」
男の癖にといわれても僕にはこう言った経験が少ない。
「うーーん、じゃあとりあえず朝食にしよう」
「あーーそうですね、モーニング行きましょう」
とりあえず体育会系のデートは食べると相場が決まっている……気がする。
まあ、食事に関してなら話題が弾むから。
陸上部は基本皆よく食べる、いや食べなければ走れない。合宿だと練習だけで1日千カロリー近く消費する事もあるので食べなければハンガーノックを起こす。
こう言った場合、身体を動かす系のデートもありだけど、僕には無理だから……。
だからいきなりどこへ行くと言われても、困ってしまう。
杖をカタカタと鳴らし灯ちゃんとゆっくり歩く。
優しい灯ちゃんは勿論嫌な顔もせず僕に歩幅に合わせゆっくりと並んで歩く。
ずっと陸上陸上の毎日だった僕、円と二人で出かける事は増えたがそれでもこうやって女の子二人と出掛ける事はいまだに慣れない。
夏樹とだって二人で出掛けた事なんて殆んど無い、いつも必ず妹が漏れなく付いてくるからだ。
僕と灯ちゃんは駅中にある喫茶店に入りコーヒーとモーニングサービスのトーストを注文する。
今日はデートとは名ばかりで、陸上の話をすると思っていたが、灯ちゃんにそのつもりはないらしく、遊園地や映画等スマホの画面を僕に見せつつ色々と行き先を提案してくる。
興味のある映画は特に無い、遊園地もこの足だと乗り物に乗れるか微妙だけど、まあなんとかなるだろうと僕は遊園地に行く事を了承する。
灯ちゃんは今日はお礼も兼ねてるからと、喫茶店での支払いを済ませ二人で外に出る。
そのまま電車に揺られ、ホテル、野球場、遊園地、温泉が集まる複合施設に到着する。
競馬の場外車券場と野球観戦、そして遊園地に向かう客がごった返す中、ゆっくりと歩かなくてはいけない自分。
そんな僕にぴったりと寄り添い歩く灯ちゃんに感謝しつつ、ホテル前を通り過ぎようとしたその時、目の前に信じられない光景が……。
「あれ? あれって橋元先輩だ」
私服姿の橋元が女性と二人で歩いている。
そしてその女性に僕は見覚えがあった。
「ふわあああ、先輩先輩! なんかホテルに入っていきましたよ! なんか凄い美人さんに見えたんだけど、やっぱりモテますねえ……先輩?」
目の前にいるのは身長、体格、隠しようもなく橋元、そして多分誰も気が付いていない……一緒にいるのは間違いなく円だ。
その二人が……まさかの光景に目の前が真っ暗になる。
「先輩? 先輩! 顔が真っ青ですよ?! 大丈夫ですか?!」
灯ちゃんがうつ向く僕を覗き込む……しかしあまりのショックに身体が動かない。
「だ、大丈夫……」
「全然大丈夫じゃないよ、ちょっと休みましょう」
灯ちゃんは僕の腕を引っ張り、木陰のベンチに僕を誘う。
決定的瞬間……と、言って良いだろう……。
「先輩? 大丈夫?」
落ち込む僕に灯ちゃんは優しくそう言う。
「うん」
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっと人混みで」
「嘘! ちゃんと言って下さい」
「……」
「先輩って、何か隠してますよね、多分その足の、事故の事を隠してますよね? 私、はっきり言います! 今日の本当の目的はその理由を聞く為です! 多分お姉ちゃんも知ってる……でも私には何も言ってくれない」
「灯ちゃん……」
灯ちゃんは涙を浮かべ僕を見つめる。
「先輩が好きです、多分お姉ちゃんも……先輩は私に、私達に必要な人です! 今の陸上部に必要な人です、私一人じゃ力になれないかも知れない……でもお姉ちゃんも陸上部の皆も今は先輩の味方です!」
真剣な目で、灯ちゃんは僕に向かってそう言った。
僕は悩んだ……どうすれば良いのか……そして……。
「誰にも言わないで欲しい……」
「はい」
真剣な顔で僕を見る灯ちゃんに……僕は円との関係を、今までの事を……全部、包み隠さずに告白した。
【あとがき】
終わりの始まりです(*゜ー゜)ゞ⌒☆
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