第132話 気になるのは二人の事

 

 教室には十数人の女子が集まった。

 今僕の気分はそれどころじゃ無かったが、約束してしまった為にどうする事も出来ない。

 そもそも二人がどこに行ったかもわからない。


「せんせい~~よろ~~」

 一番前の席を陣取り菊地さんとその友達がニコニコと僕を見てそう言った。

 集まっていた女子は殆どの人が中肉中背のごく普通の体型、それでも気にして集まって来た事に僕は小さくため息をつく。


「じゃ、じゃあまずダイエットと減量の違いから話します」

 僕がそう言うと皆不思議そうな顔になる。

 同じ意味じゃないかと思うだろうけど、中身は全然違う。


 減量はとにかく体重を決まった日程で落とす事、体重制限があるスポーツとかでやる事、極端な食事制限や水分を控え、汗を出し身体を干からびさせる。

 ダイエットとは食事や運動により体型をスリムにする事。


「せんせい、違いがわかりませーーん」

 僕の説明にそう言ってからかい混じりで手を上げそう言う。


「まあ、要するに汗をかいても痩せないって事だね」


「ええええええ? マジで?」

「だって体重落ちるじゃん!」


「だからそれが減量、厚着したりサウナに入ったりとただ汗をかくだけどもじゃあ体型は変わらない」

 皆頭の上にクッションマークが浮かぶ。


「多分ね皆が求めている物は減量、でも僕はダイエットする事を提案します」

 そして僕は黒板にこう書いた。


 摂取カロリ、ー(基礎代謝)+(消費カロリー)=ダイエット


「これがダイエットの極意です」


「いや、それって当たり前じゃね?」

 そりゃそうだよね、でもそれが皆出来ていない。

「まず、体重計にはあまり小まめに乗らない事、体重ってのは1日でも細かく変化します。1キロ2キロなんて簡単に増減するから、それで一喜一憂しちゃ駄目って事、そして重要なのがここ、基礎代謝、これが重要です」

 黒板の文字を手でコンコンと叩く。

 消費カロリーを増やすのは結構きつい、これで皆挫折する。


「そもそも皆それが簡単に出来るなら、多分運動部に入るよね」

 今部活にも行かずここにいるって事は運動部に入っていない、運動が苦手だったり、他にやりたい事があったりって事だと思う。

 つまりは運動する事に時間を割けない、割けたくない人達の集まりなのだ。


「あははは……」

 僕がそう言うと皆心当たりがあるのか苦笑いをした。


「だからね、皆に、運動部以外の人達に僕のメニューを作っても意味が無いんだ」


「ええええええ!」

 それを期待していた皆は悲鳴の様な声を上げた。


 僕はそれに構わず皆にある提案をした。


「そしてダイエットするには身体を動かす事」

 そう言うとまた皆不思議そうな顔で僕を見る。

 さっき運動ば無理だって言っておいてこの提案である。

 でもこれが一番良いやり方なのだ。


 そして僕は皆に向かって身振り手振りを交えて語る。


「さあ、走るぞとか泳ぐぞとか運動するぞって気合いをいれると長く続かないんだよ、でも例えば勉強している時椅子の上で足をブラブラさせるとか寝転んでテレビを見ている時にふざけて腕をぐるぐる回したり、足をバタバタさせたり、ちょっとお腹に力をいれたりって、何気なく身体を動かす、ただそれだけで良い」


「それだけ?」


「そう何気なく身体を動かすだけでカロリーが消費して尚且つ筋力がつく、そうすると基礎代謝もアップするんだ、ちなみに食事を減らすと筋力も落ちて基礎代謝が減るから僕はおすすめしない」


「へーーーー」


 それから僕はどういう運動がいいか皆に説明した。

 ウエストを引き締めたなら寝ながら足を浮かす。ベッドの上でやると楽に出来る。勿論腹筋を鍛える為ならば効果は薄れる。でも身体を鍛えるわけではない、アスリートを目指すわけではないので問題ない。

 貧乏ゆすりの様に足を動かすとヒップや太ももが引き締まる等々。

 

 とりあえず頑張る事を止めましょう。

 そしてとにかく意識的に身体を動かしましょう。

 僕がそう言うと「マッチョにならない?」とよく言われる疑問を投げ掛けてくる。

「女子は女性ホルモンのせいで基本的に筋肉が大きくなりにくいんだ、男子の様にムキムキになる事は無いよ、一時的に多少太くはなるけど、筋肉って言うのは負荷をどんどん大きくしていなか無いと太くならないんだ、長距離選手は毎日走ってもマッチョにならないのはそのせい」

 

 皆ウンウンと頷いている。


「最後に家の手伝いとか、部屋の片付け、買い物とかで身体を動かせば、お母さんも感激してお小遣いが増えるかもよ~~」

 そう言いなんとか笑いを取って僕のダイエット講義は終了した。


 皆、僕の話を聞き終わり、半信半疑な表情で教室を後にする。菊地さんも思っていた事と違い戸惑いを隠せない表情だった。


 それでも「ありがとう」と、何度もお礼を言ってくれた。


「えっと……今度、その、ちゃんとお礼させて欲しい」

 最後にそう言うと、周囲にいた彼女の友達に茶化されながら教室から出ていく。


 嬉しい……なんだかんだで皆真面目に聞いてくれて、でも僕は今そんな余韻に浸っている場合では無かった。


 今の僕にそんな余裕はない。


 皆が教室から出ていくのを追いかける様に、僕も慌てて杖を手にすると、出来うる限りの早足で学校を飛び出す。


 向かうは円のマンションだ。


「でも、なんて聞けば良いのか」

 歩きながらそう考える。単刀直入に聞くのが一番なのだけど……もし、もしも円が誤魔化したら……。


 それは……そういう事なのだろう……。

 

 足取りが急に重くなる……円のマンションに向かうスピードが徐々に落ちる。

 そして僕は立ち止まってしまった。


 この想いはなんなんだろうか?


 僕は空を見上げた。

 空に積雲、モクモクとした夏の雲はすっかり消え、いつの間にか巻積雲、うろこ雲が広がっている。

 天高く馬肥ゆる秋。


 僕の大好きな夏が終わった。

 楽しかった……夏が……終わってしまった。



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