第100話 改革と反発


 僕は陸上部の大改革を行った。

 まず夏合宿から開始する。いつもならば炎天下の中額に汗を足らし、真っ黒に日焼けをして走っていた。


「日焼け止めはこまめに塗る事」

 僕は朝礼で皆にそう言った。


 そして長距離チームは午前中、宿舎近くのクロスカントリー場とスキー場にてトレイルランニングを命じた。

 短距離、跳躍グループは競技場に向かいそこでビデオ数台設置しフォームの撮影を行う。そして暑くなる前に早々に切り上げ宿舎に戻った。

 宿舎に戻り撮影した動画を見ながら一人一人の動作解析を行う。そして各自の問題点を僕がそれぞれに指摘した。


 そしてそのまま昼食、さらには昼寝の時間を取る。


「あ、あのちょっと良いですか?」

 各自部屋で休むように指示を出し僕は部屋に戻ってビデオの映像を眺めていると、ノックの音がした。

「どうぞ」と言うと扉が開きそこにはつかさが立っていた。

 ポニーテールの髪型、初めて会った時は赤色のリボンだったが今日は紫のリボンで結んでいる。


「なに?」

 僕は座ったまま少し面倒そうにそう訪ねる。


「一体今日の練習はなんなんですか?」


「何と言われても」


「草の上とか、未舗装地とか、怪我をしたらどうするんですか?!」


「怪我をしないように慎重に走れば良いのでは?」


「そういう事を言ってるんじゃありません! そもそも先輩は長距離選手じゃ無いじゃないですか?」

 絶対服従と言ったのにいきなりこの文句、まあ、でもこういう疑問を持つのは悪い事では無い。

 僕だって間違える事はある。僕よりも知識があるなら教えて欲しいとさえ思っている。陸上の練習方法なんて星の数ほどあり、時代によって変化する。だからこういう文句は大歓迎だ。


「長距離を走っていないからって、知らないとは限らない、少なくとも走る事に関しては君よりは詳しいと思うけど?」


「じゃ、じゃあ、午前中の練習の意味、それに日焼け止めや、この休み時間は一体なんなんですか?!」

 

「──未舗装地のランニングはバランス感覚を得るのに最適なんだよ、どんな角度でも対応できるように足を運ぶ、さらにはコンクリートと違って地面が柔らかく怪我の防止に役立つ、今日のコースは木陰もあって暑さ避けにもなっているしね」


「夏合宿なのだから暑いのは当たり前です、それに競技場はタータン、ゴムじゃないですか、走りやすい方が怪我しにくい筈です」


「まあ、捻挫はしにくいけど、競技場は怪我をしやすいよ、ゴムと言っても下はコンクリートだからね、衝撃はかなりある。それに暑さの中で頑張って走るのは愚の骨頂だね、意味の無い根性練習だよ、日焼けもそう、太陽光の日焼けは害しかない、あれはただの火傷だ、無駄に体力を消耗するだけだよ」


「じゃ、じゃあ、この時間は」


「まだ日が高く今日は特に気温が高い、加えて湿度もある。この辺りは夕方から一気に涼しくなる。心配しなくてもこの後沢山走らせてあげるよ」

 僕はそう言うと彼女に午後の練習メニューを渡す。

 

 『インターバルトレーニング

 1000m×6本、80%、200mjog1分』

 1000mを6本、80%の力で走る。インターバルは1000m走った後に200mジョギングをして再び1000mを走る。

 主に心肺機能の強化を目的とする昔からある練習方法の一つだ


「……7000m以上も……それに、こ、このタイムは何ですか?」


「そのまんま、インターバルのタイムだよ」


「そ、そんな、インターバルの時間指定なんて……しかも6本も」


「ちんたら走っても意味が無いからね、短い時間でさっさと終わらせるのが僕のやり方だから。午後気温が下がってから初めて夕方日が沈む前に全部終わらすにはそうやるしか無いよね?」

 心肺機能、特に中長距離は心臓の強化、そして短距離と違い有酸素運動が必要な競技だ。

 一般の人の心拍数は平均で1分間で70前後、アスリートの心拍数は60を切る。

 つまりスタート時点でそれだけ差がある。

 そしてレース時の最大心拍数は200近くまで上がるので、平常時の心拍数が少ないとそれだけ余裕が生まれる。

 今回のインターバルトレーニングでは、1000mを80%で走り心拍数を最大近くまで上げ、間のインターバルで心拍数を落とす。そしてまた上げるを繰り返す事により心肺機能を高め、さらは耐乳酸と筋力アップも同時に行える。

 簡単に言うとこんな感じだがこの練習方法についての論文は昔からかなりあるので、もっと詳しく知りたければそれを読んで欲しい。


「そ、そんな今までと一切やり方が違いすぎて苦情が出ています!」


「ははは、そんなの君がねじ伏せればいい、この合宿中は僕の言う事を聞くって言ったよね? そんな意味の無い苦情に関してはつかさが説得してよ、部長なんだからさ、どうしてもダメなら直接僕に言いにくればいい、もっともな理由ならば再考するよ」


「そ、そんな……」


「君は僕を悪者にすればいいだけ、他には?」


「……いえ」


「そ、じゃあ、午後の練習はメニュー通り、僕は短距離を見ないといけないから宜しくね、タイムの読み上げは先生に頼んだから」


 そう言うと彼女から目線を外し僕は円に買って貰ったタブレットを見つめる。

 午前中に撮影した動画を一人一人確認し、練習メニューを変更する。


 つかさは暫く僕を見つめていたが、僕が一切無視をして作業に没頭している為に諦めたのか、とぼとぼと部屋を後にした。




『あとがき』


 100話達成!

 お祝いよろ(笑)( `・ω・´)ノ ヨロシクー


 呪って! いや違った祝って!(O゚皿゚O)

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