第99話 1年後の野望
僕の話を聞いて全員が唖然とする。
今日は軽い練習の後、食事やお風呂を済ませ、始まった長めの夜の全体ミーティング。
合宿のオリエンテーションを会長がした後に始めた注意事項と言う名の僕から全員に対する説教。
僕は合宿前に陸上部の練習を見学した。
そしてそこで見た無駄な事を全て指摘する。
特に1年生の練習終了後、居残る先輩の応援という意味の無い事を断罪する。
さらには全体ランニングの声だし、準備運動の少なさ、練習の合間の無駄なお喋りの時間、練習中の応援や声だし、クールダウンのいい加減さ、その意味の無い悪しき慣習を全て全否定する。
「準備、片付けは出きるだけ全員で、先輩後輩とか関係なく手の空いている者は全て協力して行動する事、合宿においてもそう、後輩が先輩の面倒を見る必要は無い、自分の事は自分で行う事」
僕がそう言った瞬間1年生の顔がパッと明るくなり、2年生は困惑した表情に変わり、3年生は怒りに満ちた表情に変わった。
「応援とか準備とかは良いとして、じゃ、じゃあ、マッサージとかどうするんですか?」
陸上部の悪しき慣習の一つ、後輩が先輩の身体のケアをする。
「あははは、君は1年生にマッサージして貰って、優越感に浸りたいって言ってるんだよ?」
「いや、そんな事を言ってるんじゃなく……」
高等部3年の確か飯野だっけかな、今年の3年生は受験でほぼ全員が引退を選んでいた。その中で残ったのは3人、その3年生の内の生意気そうな顔の一人が僕の意見に口を出す。
「中等部でもやっていたかも知れないけど、入って半年の、ろくにやり方も知らない者にマッサージして貰って、優越感に浸りたい以外になんの意味があるのか聞かせて貰えますか?」
僕は丁寧な口調で彼女に向かってそう言った。
「で、でも伝統で」
「あーーうん、自分もやったんだから、やって欲しいですよねえ、でもそれって強くなる為になんの意味があるんです?」
「そ、それは……そう、マッサージの仕方を教えるって意味で」
「ああ、ハイハイ、それに関しては、明日から夜に僕が講習会を開きます。効果的なマッサージのやり方を教えるのでその必要ありません。他に何か理由はありますか?」
「……いえ」
「今回の合宿から自分の生活、そして身体のケアは全て自分でやる、それは1年生であろうが、3年生であろうが関係ありません。そして明日からの練習はかなりハードになるので、修学旅行気分で深夜までお喋り等せずに自分の身体のケアに努める事。良いですか?」
「……」
「返事は!」
「「はい」」
「それではリーダー以外は解散してください」
何か言いたい事があればいつでも受けて立つ、僕は今のやり取りでそう皆に伝える。こんな事をすれば益々嫌われるだろう、でも誰かが嫌われなければ改革なんて出来ないのだ。
そして部長二人と長距離短距離のリーダーと、一応居残る『おかま』先生を交えての会議。
各リーダーとの話し合いという名目なのだけど、実質は僕の指示を伝えるだけで今日は終わらせた。
反論は一切させない、まあ、高等部はそんな変わった指示は出していないので反論は出ない。
でも、中等部の部長と長距離のリーダーは困惑の表情で僕を見ていた、
そう、今回の合宿のメインは中等部だから。
僕と会長は来年度の高等部陸上部での強化を画策していた。
中高一貫校の強みは中等部から育成出来るという事にある。
現状高等部では会長が全国のキップを掴んでいるだけ。
そして僕の見た所、高跳びの1年生が一人光っていいたが、それ以外は今年はあまり期待出来ない。
以前にも言った様に、現状陸上部は宝の持ち腐れ状態。
高校の部活ではあり得ない機材と競技場を持っているも、今年全国に出られる選手は会長と灯ちゃんの二人しかいない。
その二人に関しても恐らくはトップ10にも入れないだろう。
さらには特に、男子のやる気の無さにはあきれて物が言えない程だった。
私立の運動部は学校の広告塔の役目も担っており、これだけの施設を抱えるもたいして活躍していない陸上部は学校のお荷物と化していた。
それを打開しなくてはならない。
この元凶を作ったのは僕なのだから。
陸上は突出している才能でも無い限り積み重ねていくしか無い。
全国トップクラスの選手を何人も1年で輩出するなんて出来ない。
ましてや僕のように全国で1位なんて夢のまた夢。
ただし、それは個人の話だ。
そう陸上にもチーム競技がある。
それはリレーと駅伝。
来年灯ちゃんが入れば会長と合わせ全国レベルが二人になる。
僕の見た所、他にも数人今後伸びそうな走りをしていた者がいた。
来年、400mリレーで日本一を取る。
僕は会長にそう伝えた。
そしてもう一つ、全国に出れる可能性が
テレビでも放送される高校駅伝。
中等部女子3年にはつかさを含めて数人かなり速い長距離選手が揃っていた。
高等部にも数人全国まではいかないが、それなりに速い選手が揃っている。
来年、都大路を狙えるかも知れない。
僕はそう思った。
見学を終え資料を精査した後、会長にそう伝えすると会長はいつもの美しい所作はどこへやら、その場で腹を抱えて大笑いした。
「あははははは、いいわ最高、やっぱり貴方は最高だわ」
目を爛々と輝かせ彼女は僕を見つめ笑った。
僕も真っ直ぐに会長を見つめ返す。
やるしかない、今の僕に出来る事はこれだけだから。
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