第91話 ドルオタ


 私には夢中になってた物が二つある。

 一つはお兄ちゃん。


 自慢の兄、日本一の兄、私のお兄ちゃんは日本一足の早い小学生だった。


 そして、とても優しいお兄ちゃん、小さい頃からいつも私と遊んでくれた。


 でもお兄ちゃんはどんどん陸上に夢中になり、毎日真剣に取り組み始めていった。  

 だから私はそんなお兄ちゃんの邪魔をしたくないと、一人でよくテレビを見ていた。


 そして、そこで見つけてしまった。


 底辺アイドルを発掘する番組に出演していた『P_ミニオン』というアイドルグループを……。


 5人組のそのアイドルグループは他のアイドルグループとは全く違っていた。


 まあ、一言で言えば……乱暴? 傍若無人?

 特にセンターにいたマドカという名の少女は圧巻だった。多分私と同じくらいの小学生の女の子、なのにその暴れっぷりは凄く、舞台を笑顔で縦横無尽と駆け回り、体操選手の様に軽やかにバク転や宙返りを決め、さらにはスタンドマイクをヌンチャクの様に振り回す。


 他のメンバーも同様に暴れ回る。


 正直引いた、なんだこいつらってそう思った。

 でも、そのグループはキラキラしていた……宝石箱の様に煌めいていた。


 走っているお兄ちゃんの様に。


 その他に類を見ない圧倒的なパフォーマンスに私は夢中になった。でも、女の子がアイドルに夢中になるって恥ずかしい……そう思い誰にも言わずこっそりとイベント等に赴いた。


 生で見た彼女達は……テレビで見た時以上だった。異常と言っても良いだろう。


 でも、それなのに、私はどんどん惹かれていった。そして私が夢中になると同時に『P_ミニオン』も少しずつ有名なっていった。


 しかし、『P_ミニオン』はこれからという時期に解散してしまう。

 まだまだマイナーだったのでそれほど騒がれる事は無かった。なので解散理由とかはわからない……でも私は気になりネットで調べた。そして見つけてしまった。某掲示板に書かれていた解散理由を。


『白浜 円』の母親の意向で解散になった。

 初めからマドカを売る為だけのグループ、ただの踏み台、「円も、もうそろそろいいかな」って言っていた等々……。

 恐らくメンバーの一人と思わしき者の暴露話として書き込まれていた。


 そして圧力なのか? それはあっという間に消されてしまう。


 知らなかった……マドカちゃんが白浜縁の娘の白浜円だったなんて……。


 いや、そんな筈無い、こんなのただの噂話だ……そう思っていた……。


 でも……解散直後、白浜円は本名を名乗り、白浜縁の娘として直ぐテレビに出演、そしてみるみると有名になっていく。

 事務所も白浜縁と同じ事務所に移り、『P_ミニオン』の事務所は消滅した。


 その為に他のメンバーは全員引退、事務所を移った円だけ芸能界に残る事なった。


 仲間がいなくなったと言うのに、なんで? なんでこんなにヘラヘラと笑ってられるの? テレビには屈託なく笑う白浜円がいつも出ていた。


 白浜円を見る度に裏切られたって……そんな気分になっていた。


 でも……芸能界なんてそんなもんだ……私は仕方ないと諦めた直後……あの事故が、お兄ちゃんの事故が起きた。


 白浜円が原因って、そんな偶然あるの?


 そんな思いでお兄ちゃんの元へ、そして出会った。白浜 円の母親、大スター白浜 縁に。

 弁護士を携えお兄ちゃんの元へ来たそいつは、弱っているお兄ちゃんに、もう走れないお兄ちゃんに口止めを要求、ううん、脅迫をしてきた。

 

「ちょっと! あんたいったい何様なの!」

 病室の外で帰ろうとしていた白浜 縁に私はそう言った。


「──ガキは嫌いよ……あと宜しく」

 白浜 縁は私を一瞥すると、弁護士のスーツを着た女性の肩をポンと叩き、そのまま行ってしまった。


 でも見た、私は確かに見た。

 あの目、白浜縁の目は、私を見る目は……一般人の事なんて、ゴミとしか思っていない……そんな目をしていた。


 そして円も、テレビでヘラヘラ笑う円の目も、白浜縁と同じ目をしていた。


 やっぱりそうなんだって……そう思った。あの掲示板は正しかった。


 白浜 円は、私の希望を二つも踏みにじった。

 自分の為ならなんでも簡単に切り捨てる裏切り者。


 そして今、また大事な物を私から奪っていこうとしている。


 どうせまた裏切る気だ……何が責任だ! 

 あいつは自分に酔っているだけ、芸能界に飽きただけ。


 また裏切る、アイドルグループを裏切った様に、メンバーを切り捨てた様にどうせまた裏切るつもりなんだ。


 私はあいつを許さない、あいつを絶対に信用しない……。

 

「どうせここに飽きたら、お兄ちゃんに飽きたらまた芸能界に戻るつもりなんだ」


 絶対に許さない、絶対にあいつを信用しない……来年必ず城ヶ崎に入学して、あいつの本性を暴いてやる。あいつの正体をバラしてやる。


 そして、今度は絶対に勝つ、あいつを倒す。


 絞められた首を擦りながら……私はそう心に誓った。

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