第89話 裏切り者?


「このビッ○、なに変なもん見せてんのよ!」

 リビングのソファーの前、蔑むように私を睨みながら汚い言葉を私に投げ掛ける。

 

「あらごめんなさい、一応清楚な格好を心掛けて来たから、貴方は可愛らしい格好ね」

 白のブラウスに花柄のロングスカート、さっきついつい本気になってスカート姿なのを忘れ足を高く上げてしまい彼女に下着を見られてしまった。

 

 でも大丈夫、ちゃんと可愛い新品を履いてきたから、ちなみに天ちゃんは中等部のジャージ姿。その緑のジャージを見て改めて思う。うちの中等部のジャージって格好悪いわね~~www、良かった外部入試で、あんな姿を翔君に見られるのはちょっとねえ。


「うっさい! 今日は1日家で勉強するつもりだったからいいのよ!」


「あら? 勉強なら私が見て上げましょうか? お兄ちゃんのように兄妹まとめて面倒みるわよ、それくらいの甲斐性はあるし」


「うっさい! うっさい! うっさい! 私はあんたの世話になんか、ならない!」

 そう言うと天ちゃんはいきなりしゃがむと、私の足目掛けて蹴りを繰り出す。

 さっきは狭い廊下でお互い直線的な攻撃しか出来なかった。

 今は広いリビング、天ちゃんは左足を中心にして遠心力を使う様に回し蹴りを入れてくる。

 そんな大きなモーションで蹴ってくる程この娘は素人ではない。

 でも虎穴に入らずして虎児は得られない、私は飛び上がり蹴りを避けると彼女は待ってましたとばかりに、着地する私の足を自らの足で蟹バサミの様に絡めに来る。


 そう来たかと、私は瞬時に判断し着地と同時に側転してかわす。


「ちっ」

 天ちゃんは悔しそうな顔で舌打ちする。

 蟹バサミで転がして、マウントを取りに来て締め落とすつもりだったのか? 天ちゃんの本気がうかがえる。

 そして、一体何故そこまで嫌われたのか、いくらなんでも怒り過ぎなのでは?

 

 いくらお兄さんを走れなくした要因だとしてもここまで怒りを持続するのは不思議でならない。

 これが本人ならば……私を殺したくなっているかも知れない、でも彼女は妹なのだ。

 表面だけなのかも知れないが、翔君は私を許すと言ってくれている。


 なのに何故天ちゃんはここまで私を憎むの?


 数発殴られるだけじゃ彼女の怒りを鎮める事は出来ない。

 ならば徹底的にやるしかない……。


「ふうううううう」

 天ちゃんは息を深く吐くと左手を前に右手を脇に添え、空手の正拳つきの構えをする。

 私はリラックスするように両手を下げ、彼女の攻撃を向かえる準備をする。


 もう平手打ちなんて甘い攻撃は来ないだろう……彼女は私を倒しに来る。

 

「ふうううううう……」

 吐く息が止まると、間合いを一気に詰め彼女は私の身体の中心付近に拳を繰り出す。

 避けられない、いえ……避けてはいけない。

 腹筋に力を入れ、私は彼女の拳を身体で受け止める。

 ズドンと鈍い痛み、そして同時に息が止まる。


 でも……そのお陰で私はガッシリと彼女の右腕を掴んだ。

 私の握力は男子並み、一度掴めば絶対に離さない。


「な!」

 彼女は二発目を入れようと腕を引くが私がガッシリと掴んでいるので引く事が出来ない。

 無理だとわかった彼女は残っている左手で私を叩こうとするが、右手よりも威力がなく私は難なく両手を掴む。


「は、離せ!」

 こうなるともう蹴りを放つしかない、そしてそれは私の思う壺だった。

 膝蹴りを入れて来るタイミングで私は彼女の軸足を狙い足を払う。

 柔道でこんな技があるかは知らないけど、片足状態で足を払われ彼女は床に尻餅をつく。

 それと同時に私は彼女の背後に周り片腕を決めたまま首に腕を回してガッチリと天ちゃんをホールドした。


「は、離せ!」

 ジタバタと足をバタつかせる天ちゃん、でも私が離さない限り攻撃は出来ない。


「さ、さあ、ちょっとお話しましょうか?」

 

「うっさい! 話す事なんてない!」


「えーー、私は話したいなあ」


「うっさいうっさいうっさい! 裏切り者と話す事なんて無い!」


 彼女はそう言って残っている左手で私の髪を掴んだ。

 しまった……彼女の言葉の意味を考えてしまい隙が生じてしまった。


 裏切り者? どうして?

 女同士の喧嘩での常套手段、髪の毛を掴まれるとどうにもならない。


 さっきお腹を蹴られたダメージで、私はもう立ち上がることが出来ない。


 仕方ない……これはやりたくなかったんだけど……と、最後の力を振り絞り、私は彼女をそのまま締め落とした。


 彼女の手からパラパラと私の髪が落ちていく……あーーあ、何本抜けたのかしら……。

 気を失う彼女の横に限界だった私も寝そべった……。


「えーーん、頭痛いよーーお腹痛いよーー翔くーーん」

 今頃会長と楽しく過ごしているだろう彼をほんの少し呪った。


「コーヒーにガムシロを入れた時、少しだけ手についてペトペトして気持ち悪くなれ~~」

 と言って翔君に微妙な呪いをかけた。


 それにしても、手強かった……。

 とりあえず彼女の胸を見て上下しているのを確認する。

 とりあえず息はしている……。


 私は彼女が気が付く前にのそのそと起き上がる。


 負けず嫌いが負けを認めるか? 認めれば少しは話を聞いてくれるかも……そんな期待をしながら、彼女の横にへたり込み天ちゃんを見下ろし目覚めるのを待った。


 理由を聞きたい……裏切り者ってどういう意味なのか?

 それがわかれば、少しは変わるかも知れない。

 

 彼女も翔君と同様に私が償わなければならない、責任を取らなければいけない対象なのだから。


 まあ……彼同様にコロコロしそうになっちゃったけどね! てへ!


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