第86話 バトル開始!


「灯! 何してんの!」

 スリッパ片手に灯ちゃんを睨み付ける会長。


「おおおお、お姉ちゃん!」


「いいから、とりあえず服を着なさい!」

 光り輝く金髪を靡かせ、灯ちゃんの姉、そして我が校の生徒会長様が目の前にいる。

 その会長が何故かうちにいるというこの状況に、この不思議な光景に、僕は現実逃避したくなるのを堪え、とりあえず会長に理由を聞いてみる。


「か、会長!? なんでここに?!」


「はあ……、こんな形で貴方の家に来たくなかったわ……」

 残念そうな顔の会長は、僕を見て軽く首を振った。

 結局ここにこれた理由は不明のままなので、僕は会長の後ろにいる妹に『天が会長を家に呼んだのか?』と、目で聞いてみた。

 

「……さっき通報したのよ」

 僕の目から言葉を読み取った妹、さすが兄妹以心伝心だ……まあ、このタイミングで他に聞く事なんて無いんだろうけど。


「通報って会長に?」


「ううん、会長さんの連絡先とか知らないから、とりあえずなっちゃんに通報したの。そしたらなっちゃんが会長に連絡しておくって」


「さっきの電話はそれか!」

 本当に通報はしてないだろうと思っていたけど、よりによって夏樹に電話していたとは……。

 確か夏樹は今日試合で遠征している筈、多分帰ってきたら怒られるんだろうなあ……またマッサージで誤魔化すか。


「灯! あんたは全く、もうすぐ高校生なんだからね!」

 僕と妹のそんな確認事項に構う事なく、会長は灯ちゃんに説教をし始める。


「だ、だってええええ」


「だってじゃない! まあいいわ、帰ってからじっくりお説教よ、とりあえず今日の記録に免じて、この事はお父様には黙っていてあげる」

 

「ひ、ひう!」

 灯ちゃんは会長の「お説教よ」か、「お父様には黙っていてあげる」という、どちらか、若しくは両方のワードを聞き、一瞬で真っ青になった……。

 どっちなのか若干気になる所ではあるが、ここでそんな事を聞く程僕は空気を読めないわけではない。


「外に車を待たせているから、先に乗ってなさい」


「は、はいいいいいぃぃ」

 灯ちゃんは、慌てて脱いでいたトレーニングウェアを着ると、僕に一礼をして大きなバッグを抱え素直にリビングから出ていった。


 会長は灯ちゃんが出ていくと「はああぁ」と、深いため息をつく。

 そして僕に視線を移し取り繕う様に、ついてもいない埃を払う様に、軽く服を叩く。

 慌てて来た割りに会長は凄く綺麗な格好をしていた。


 肩まで露になった水玉柄のノースリーブ、胸元には大きなリボンがあしらってあり、金髪と相まって何かお嬢様らしさに拍車がかかっていた。


「灯が世話になったわね」

会長が少し複雑そうに笑いながら僕を見てそう言った。


「いえ、別に」

 僕がそう返事をすると……。


「あ、灯が……世話になったわねええ!」

 今度は美しい顔が台無しになる程、怒りに満ちた表情で同じセリフを同じと、思えない言い回しで言った。


「い、いえええ、べ、別にいいぃ」

 会長の顔を見て、ガクガクブルブルと震えそうになるのを抑え、僕はもう一度そう返事をする。


「ふん、私の頼みは断っておいて妹のトレーニングをしていたってのは腑に落ちないんだけど、でもまあ、最高のタイミングだったわ……灯には嫉妬しちゃうけど」


「タイミング?」

 トレーニングって言える程の事をしたわけじゃない。

 それよりも会長の言うタイミングという意味がよくわからなく僕は聞き返した。


「ふふ」

 会長は何も言わずに、女神の様な笑みを浮かべ僕を見つめた。

 美しい顔、美しい髪、美しいスタイル、一つ一つの所作もため息が出る程に美しく僕は思わず見とれてしまう……。

 

「──それじゃ、いくわね」

 会長はそう言うとこれもまた綺麗な所作で僕からクルリと背を向けた。

 キラキラと輝く金色の髪がフワリと宙を舞う。

 いや、見とれている場合では無い僕は会長に言わなければいけない事を思い出す。


「あ、あの会長! そ、その、この間のお礼に、その僕と」


「勿論行くわ!」

 さっきまでの女神の様な振る舞い、天使の様な表情はどこへやら。

 会長は少し転びそうになりながら再び振り返ると、これでもかと言うくらいの満面の笑みで被せる様に僕を見ながらそう言った。

 なんだろう……あまり躾されていない犬の様な、餌を前にしたゴールデンレトリバーの様なイメージだ。


「いや、まだ全部言って無いんですけど」


「誘ってくれてるんでしょ!? 行くわ!」

 尻尾をブンブンと振っているかの様な会長のその姿に、僕は思わず笑ってしまう。


「こ、こほん、ち、違うの?」

 僕が笑うと少し自分を取り戻そうとしたのか、会長はわざとらしく咳払いをするが、以前犬の様な態度は変わらず、上目遣いで寂しそうな、お預けと言われた犬の様に僕を見る。


「まあ、そうなんですけど」

 そう言いつつ僕は会長の後ろにいる妹を見る。


 妹は僕が会長を誘った事を喜んでいるのか? ウンウンとにこやか笑っていた。

 てか、本当に円以外なら誰でもいいのな……。


「私も……話したい事があるし丁度いいわ、行ってあげるわ」

 

「あれ」

 僕の言質を取り安心したのか? 急に上から目線になった会長、まあ、そもそも年上だし、会長だし上からでいいんだけど……なんだろうか、昔からあまり先輩って感じはしないんだよねえこの人。


「何よ?!」

 僕のそんな考えを読んだのか? 会長はキッと僕を睨みつけた。


「いえ、じゃあ夏休み初日が丁度日曜日なんでその日でいいですか? 多分陸上部の練習も休みですよね?」

 円との勉強も日曜日は休み


「わかったわ! えっと……詳しい事は、その、連絡するって事で、その……」

 モジモジとしながら会長は高級そうなバッグから、スマホをそっと取り出す。


「あ、はい、じゃあえっと」

 僕もポッケからスマホを取り出し、その場で会長とメッセージソフトのアドレスを交換をした。


 



 そして夏休み初日、会長との待ち合わせ場所のとある駅前、会長は僕の思い描いていたイメージとは全く違う服装で待っていた。


「ねえねえ、お嬢ちゃんこんな所でなにしてんの? 俺らと遊びいかない?」

 そして、その服装ゆえにか? いきなりベタベタなチャラい男子3人に囲まれていた会長……。


「キモいので離れて頂けるかしら!?」

 無視すれば良いものを、元来の気性の荒さがそうさせたのか? 会長は3人組の一人に向かってそういい放つ。


「は? なんだこの金髪!」

 3人組の男が会長を取り囲む。


「マジか……」

 僕は一つため息を付くと、杖をつきながら、ゆっくりと会長と3人の男達に近付いて行く。

 

 はああ、夏休み早々、めんどうな事に巻き込まれたなあ……。




◈◈◈



『ピンポーン』

 夏休み初日、翔君は会長さんとお出掛けとの事……。

 そしてご両親は転勤先に行っているとの事。

 妹さんは勿論勉強中、夏期講習はまだ先と言っていた。


 とりあえず、翔君と会長さんの事はおいといて、夏休み初日の今日この先の予定を立てるべく、一番面倒な事を片付けようと私は呼び鈴を鳴らす。


 インターホンを押すと暫く待つ「どちら様?」の声に返事をする。

 カメラは付いていないタイプ、でも私は満面の笑みで言った。


「うふ、私よ~~来ちゃった♡」


 すると、中からドタドタと大きな音がする。

 そして……壊れるかと思う様な勢いで扉が開いた。

 中からは、真っ赤な顔で、怒りに満ちた顔で鬼が、いえ、翔君の妹の天ちゃんが勢いよく出てくると……。


「しいいいらああああはああああまあああああ、まあああどおおおおおかあああああああああああああああああああ!!」

火を吐く勢いとはこの事か、と思える形相でそう叫びながら私に向かってくる天ちゃん。


『カーーン』

 私の頭の中でゴングがなり響いた。

 今、戦いの幕が切って落とされる。




【あとがき】

 以上で2部1章終了となります。

 昨日から、ようやくブクマが増え始めました。

 引き続きブクマ、レビューを宜しくお願いいたします。

 レビューは最終話↓下より入れられます。

 星☆を★にするだけですので、是非とも宜しくお願いいたします。(-ω-)/

 

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