第57話 僕の物語を終わらせる為に……。


 翌日、晴天の北海道を僕と円は満喫した。


 昨夜円とあれから少しだけ話をした。

 円は僕のやりたいようにやってと言ってくれた。


「今度は二人で叩かれようね。妹さんに」

 気軽に笑いながら僕にそう言う。そんな物で済めば良いんだけど……今から気が重い。


 まあ、そんなわけで直ぐに帰りたいって気持ちにはならず、色々と覚悟やら準備やらが必要なのと、せっかくの北海道……そしてもう週末、今さら慌てて学校に行ってもと思い、完全に晴れやかな気分になったわけじゃないけれど、せっかく北海道に来たのだから何もかも忘れて1日は堪能しようと、僕はそう提案をして円と北海道観光をして回った。



 まあ、それはいずれどこかで(SS)で話すとします。



 そしてたっぷりと夜まで遊んだ僕達は、そのまま札幌のホテルにチェックインして、結局昼過ぎまで寝てしまった。

 やはり例の事で疲れきっていたのか? 円も僕もまたぐっすりと寝てしまった。


 こっちに来てから既に5日も経ってしまっている。

 流石にそろそろ帰らなければならない。

 

 僕達はホテルで少し遅いランチを取り、そして部屋に戻ると円に言った。


「5日も無断で休んでたら、ヤバいよねえ……」

 母さんは、週明けまで単身赴任中の父さんの所にいるので、妹がわざわざ言わなければ多分今回の事は知らない。いや、知った所で元々放任主義なので特に何も言わないだろう。


 妹も恐らく僕が円の家に入り浸っていると思っている筈、まあ、そう思っているなら、妹の怒りはいまだに続いている……どころか、増幅しているまである。


 だとすると、本当に殴られるだけじゃ済まなさそう……。


 弱気な気持ちが、逃げたい気持ちが沸き起こる……でもそんな僕の様子を見ていた円はあっけらかんと言う。


「ああ、とりあえず、病欠届けは担任に出しておいたから」


「え?」


「まあ、とりあえずね~~」

 部屋に備え付けのコーヒーメーカーで作ったコーヒーを口にして、円は姿勢を正しながらにこやかに僕を見ている。


 いつの間に? いや帰る事まで見越してた?

「……どこまで……わかってたの?」

 僕は円に率直に聞いてみた……この子はどこまで知っていたのかと、どこまで僕の事をわかっていたのかと……どこまでが……この人の予想だったのかと……。


「うん? 全然…………ううん、違うか……ずっと1年以上そっと貴方を見続けて、翔くんの過去を見続けて、私は貴方の事を知った気になっていただけだった」


「……」

 僕の隣に座る円は飲んでいたコーヒーをテーブルに置くと、僕の手の上にそっと自分の手を乗せた。


「うん、でもこうして会って、こうやって話して、ずっと一緒にいて、今の貴方と、こうやって触れあって、貴方の温もりを感じて、知らない事だらけだなぁって実感した……だから何もわからなかった」


「知らない事だらけ……」


「うん……ただね、私実はね……一つだけわかってる事がある……貴方の本当にしたい事、ううん、これからやろうとしてる事も……」


「僕の……したい事って……」


「ううう! その手伝いが出来ないのが悔しい! ああ、本当……ずるいなあ……」

 円は残念そうに、そして悔しそうに僕を見る。

 本当にこの人はって……僕はどこまで彼女の手のひらの上なのかって、更に疑ってしまう。


「翔くんの本当にしたい事……そして……それで……終わりにするんだよね?」


「……うん」

 僕は円に言われ、徐にスマホをポケットから取り出す。

 そして、この旅の間ずっと電源を入れていないスマホの電源をOnにする。

 二度と見る事は無いって思っていたスマホの画面、待ち受け画面を目にする。


 画面上にズラリと並ぶメッセージをとりあえず無視して、僕はある人物の連絡先を表示した。


 そして……一度円を見る、円は僕を見ずに冷静な表情でコーヒーにまた口を付けていた。


 僕は覚悟を決め、その人に電話をする。


 僕の恋を終わらす為に、僕の物語を終わらす為に……。



「…………会長、突然すみません、お願いあるんですが……」




【あとがき】

 まもなく(残り4話)1部終了となります。

 現状読者様の反応があまり宜しく無いので、2部は次回のカクヨムコンの時に更新しようかなと思っております。m(_ _)mカンガエチュウ



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