第58話 北海道に行った理由
学校が終わると私はお兄ちゃんの高校に向かった。
来年私が入る高校に……でも、今はそんな気持ちになれない。
あいつのいる学校になんて……行く気になれない。
5日間全く勉強していない……ギリギリなのに一切、課題に手を付けていない。
一体お兄ちゃんはどういうつもりなんだろうか?
あいつの家に入り浸って、学校にも行かずに何をしているのだろうか?
「もう……私なんていらない……の?」
追いかけて来なかった……あいつの方を選んだ……。
あんなに一生懸命面倒見たのに……酷いよお兄ちゃん……。
ずっとそんな思いが頭の中でぐるぐると渦巻いている。
もう……お兄ちゃんとは……。
元の関係には戻れない……私もお兄ちゃんも……あの仲の良い兄妹には……。
涙が溢れそうになるのを抑えつつ、重い足を引き摺りながら、私はお兄ちゃんの高校の見慣れた校門の前に到着すると、既になっちゃんが校門の前で私を待っていた。
「やっほ!」
いつも通りのテンションで、いつも通りに声をかけられる。
「う、うん……」
「……大丈夫? まだ具合悪い?」
「だ、大丈夫……」
「……そか、これ来賓バッチね」
「あ、うん」
お兄ちゃん荷物運びで何度か入った事のある私立城ヶ崎学園、ここに来る度に来年入るぞって、そんな思いになっていたが、今はとてもそんな気になれない。
「……会長さんが待ってるから行こっか」
「……うん」
一体何の用なんだろう? 私に聞きたい事って……。
「なっちゃん……何でわざわざ、私は呼ばれたの?」
「うーーん、多分、色々と詳しく聞きたいって事なんだろうねえ? 事故の事とか私もこないだ初めて知ったし」
「……ごめんね」
「ううん、口止めされてたんならしょうがないよ、私も聞かなかったし」
予め用意してくれていたスリッパに履き替え校舎内に入る。
帰宅する者と部活に行く者で廊下はひっきりなしに生徒が行きかう。
チラチラと視線を感じながら、私はなっちゃんの後に付いていく。
高等部の校舎に入るのは初めて……やはり中等部とは雰囲気が違う。
頭の良さそうな人達……そんな印象を受けた。
もっともっと頑張らなければ……ここには入れない……でも、今私はそんな気に全くなれないでいた。
職員室を通り過ぎ、生徒会室と書かれた部屋の前にたどり着く。
なっちゃんは一呼吸置いて、扉をノックする……が、返事がない。
「あれ? おかしいな……さっきいたのに」
なっちゃんは一度立ち寄ってから私を迎えにきたらしい、その短い間にいなくなる筈はないと再度ノックをしてから、ゆっくりと扉を開けると。
「貴方のお願いならなんでも聞くわ、それよりも今どこにいるの? 病気じゃないの? 北海道! な、なんでそんな所に…………え? そんな……駄目よ!そんな馬鹿な事! そ、そう……とりあえず良かった……それで……お願いって……」
会長が電話で誰かと話していた。
噂には聞いていた、金髪の生徒会長……聡明そうな綺麗な人、窓から差し込む日の光に髪が照らされキラキラと輝いている。
私達が入って来ると会長は軽く手を上げソファーを指差す。
テーブルにはすでにコーヒーが3つ置かれていた。
「うん……、そんな……出来るわけ……うん、うん……わかったわ……うん、じゃあ、明日の昼に、はい、うん……必ず帰って来るのよ! あ、今、丁度妹さんが来てるの……私が呼んだの……うん、わかったわ……じゃあ……」
ソファーに座り会長さんの電話を待っていると、会長は最後に私の事を電話の相手に伝えた。
私となっちゃんは顔を合わせ、同時に会長を見つめる。
会長は、困惑した表情で電話を切った。
「会長! いまのって」
私よりも先になっちゃんが切り出す。
会長は自分を落ちつかせる様にゆっくりと私たちに歩み寄り、美しい所作でソファーに座ると、まずは一口コーヒーを飲む……そして、前に並んで座る私達を見つめ、目を瞑って言った。
「……宮園……翔くん、今、北海道にいるって……」
「そう、言ってましたね……」
「妹さん……」
会長さんは目を開くと真剣な顔で、でも少し怒っているかの様に私を見つめる。
「あ、天です」
「……天さん、今日来てもらったのは事故の事を詳しく教えて欲しいと思って、でも、その前に……貴女彼に……翔くんに、何をしたの?」
「え?」
「翔くん北海道にいるって……死ぬつもりだったって……」
会長は私を真っすぐに見つめてそう言った。
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