第48話 傷痕


 円はソファーから立ち上がると、いきなり札幌で買って、そのまま着ていた花柄のワンピースをスルスルっと脱いだ!


「ひ、ひゃ!」

 色気も素っ気もなく、いきなり下着姿を露にする円に僕は思わず声をあげて目を反らす。

 見てしまった……はっきりと……白のフリル付き……。


「もう、相変わらず奥手だなあ、そうだ翔くん脱ぐの手伝おっか?」


「ぬ、脱げる、自分で脱げるから!」


「そう?」

 

「た、頼むから、とりあえずタオルだけ巻いて、そうじゃないと」

 

「えーーでも隠し事無しでって言ったし」


「しないから、本当、じゃないと、一緒にとか無理……」


「あはは、可愛い、ハイハイ」

 円は笑いながらトントンと足音を鳴らし裸足で浴室の方に向かって歩いて行く? 僕は目を反らしたままなので音で想像するしかない……だから多分としかわからない……。


 しかし、そんな簡単に脱ぐなんて……ドMで露出狂? 爛れた芸能界? そんな言葉が次々と頭を過る。


 円はひょっとして、経験者? そんな事が頭に浮かぶと何故か胸がギりっと痛む。


 とりあえず扉が開き浴室に入っていく音がしたので、僕は目線を戻し……って!

 そうだった……浴室はここから、いや部屋のどこからも丸見えだった……なんて部屋だ!

 

 扉の向こうには円の背中が丸見えで、かろうじて浴室の手前に置いてある棚のおかげ? でお尻は見えなかったけど……。


「だーーかーーらーータオル巻いてってえ!」

 顔を背ければ声が聞こえないから、今度は目をつむって円にそう怒鳴った。


「……ハイハイ~~、早くおいでよ気持ちいいよお」

 さっき窓を開けたのだろう、ザバザバとお湯が溢れる音が聞こえてくる。

 

 とりあえず見ない様に、僕は浴室に背を向け、のそのそと服を脱いでいく。


 落ち着け、落ち着け……そうだ円も、妹や夏樹と同じって考えよう、そうすれば一緒にお風呂だって平気だ。

 

 僕はパンツ1枚になると棚に置いてあるバスタオルをしっかり腰に巻き、覚悟を決めてパンツを脱いだ。覚悟してパンツを脱ぐって一体……。

 そして、部屋の温度調整の為だけで全く中を隠していない露天風呂の扉を開ける。


「あ、やっとき……あ! ご、ごめんなさい!」

 身体にバスタオルを巻き、お風呂に半身浸かり庭の景色を見ていた円は僕が扉を開くと笑って振り向いた。

 

 でも、よろよろとよろけながら風呂場に入ってくる僕を見て、慌てて立ち上がると、こっちに走り寄って来た。


「だ、大丈夫……」

 バリアフリーの部屋、でもさすがに風呂場には段差があり、手摺を掴みつつ、壁で支えつつ、僕はよろけながら中に入る。

 

「ご、ごめんなさい気が付かなくて」

 円は僕の腕を取ると支える様に身体を密着させた。

 バスタオル越しに円の身体の柔らかさが僕の腕に伝わる。

 や、柔らかい……。


「……あ、ありがと……」

 そのなんとも言えない感触を誤魔化す様に、僕は円にお礼を言った。


 それにしても、このドキドキは、高鳴る心臓の音、密着している円にバレるだろ!

 落ち着け僕! 女子の裸なんて妹と夏樹で見慣れてるだろ! そう自分に言い聞かせる。

 

「ゆっくりね……」

 円はそう言って僕の腕を支えたまま浴槽まで導いてくれる。

 ヒノキの浴槽、半露天風呂、外は中庭になっていた。

 ホテルで1室だけしない特別室、その部屋からの景色の為だけに整えられた庭。


「ここに座って」

 そう言われ、ヒノキ風呂の浴槽の縁に腰掛け、足だけ湯の中に浸けた。

 左足から温泉の温もりが伝わる、少し低めの湯温……でも右足からは殆んど伝わらない……僕は右足だと、高い温度でも、火傷をしても殆んどわからない。


 なので風呂に入る時は手で温度を確認して、さらに左足から入らなければいけない。


 僕が左足を動かしお湯の温もりを確かめていると、円は僕の下半身をじっと見つめたまま、僕の目の前に立っている。


 濡れたバスタオルが身体にピタリと張り付き、円の細く美しい身体の造形がはっきりとわかる。

 肩と首、そして太もも、バスタオルから出ている部分の肌はとにかくきめ細かく白い。

 その姿は名陶が作った白磁の陶器の様で、僕は思わず見とれてしまう。


 でも円はそんな僕の目線を気にする事なく僕を、僕の半身をじっと見つめている。

 一体どこを見てるのか? と、少し恥ずかしくなって来たその時、円の目からポロポロと涙がこぼれだした。


「え?」


「ふ、ふええええええええん」

 円はさらにボロボロと涙を溢れせ、大泣きし始める。


「ごべんね、ごべんねええ」

 所謂ギャン泣きって奴だろうか? もう、べそべそと泣きわめく円に僕は何事かと驚いていると、円はザブンと腰までお湯に身体を浸けそのまま僕の腰に抱きついて来た。


「へ?」

 タオルを巻いているだけの僕の腰に顔を埋め、泣きわめく円……でもこれって端から見たらまるで……って言えるか!


「そうだよね、ごめんなさい……」

 そのセリフを聞いて僕はようやく円が泣いた理由を察した。

 僕の腰から下には多くの傷や手術痕が、特に右足には大きな傷痕がある。


「……大丈夫だから」


「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 僕の腰に手を回し、僕のお腹に顔を埋めそう呟く。


「良いって」


「そうだよね……私こんな事になってるって……想像もしなかった……最低だよね」


「ううん」


「痛かったよね、苦しかったよね……辛かったんだよね、わかってたつもりだった……でも、こんなにって思わなかった。気付かなくて、ごめんね、ごめんなさい……」

 円は腰に抱きついたまま顔を上げ僕を見つめそう言った。

 その円の顔を見て、その言葉を聞いて、僕も思わず涙が込み上げてくる……。


 すると円は再び顔を下げ、そして……僕の右足の太ももにそっと口づけをした。


 その姿に僕は思わず震えた。そして涙が溢れる。


 僕は彼女を、円の事を少しだけ信用してもいいって……この時初めて、そう思えた。



【あとがき】

これで3章終了です。

続いて最終章、この結末は如何に?!(笑)


そして毎度毎度で申し訳ありませんが、ブックマーク、レビュー、感想、なんでもいいので反応をお願いいたします。


得意の妹ものではなく、そして重い話なので出来ればブクマ、レビューポイントや、感想等で教えて頂ければ幸いです。 つまらないと思えば☆1でも構いませんので是非に(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾ヨロシク


間違いなく、最終章までは更新いたしますので、引き続き応援宜しくお願いいたします。

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