第46話 檻の中の自分
「あははは、あはははは」
円は買い物袋を二つ手に持ち、くるくると公園の芝生の上を……馬鹿みたいに回っていた。
円の後ろには、テレビで見た事のあるマンションと鉄塔、そしてそれを放送していたテレビ局が見える。
「思ったより小さいんだな」
広角レンズで撮っているのだろうか、もっと大きいイメージがあったが、思ったより小さい。
まあ、都内の公園よりも大きいは大きいんだけど、北海道では街中にある小さな公園って感じがする。
「撮って、撮って~~」
「え? いや……」
円に言われポケットのスマホを取り出そうとして、僕は躊躇した。
電源は入れたくない……妹からのメッセージが怖い。
「じゃあ、私ので、はい!」
円は小走りで近付き、僕に自分のスマホを渡す。
そして、再び元の位置に戻ってクルクルと回りだす。
写真なんて撮って意味があるのだろうか? だって、それを見るのは……僕たちではない。
起動されているカメラモードで、何枚か撮る。
やっぱり、円は僕と一緒に行くつもりは無いんだろうか?
だとしたら、この旅はいつまで経っても終わらない。
いや、僕が隙を見て、円から離れれば。
でも、逃げる足も、そしてお金もない僕にはそれが出来ない。
どこかで、見極めないと……。
僕はそう思った。
「はあああ、満足~~」
額に汗して円は満足そうにそう言った。
「それで、次は?」
まあ間違いなくこれで終わるわけはない。
僕がそう聞くと、円は少し考え、そして……。
「ペンギン!」
「……は?」
「やっぱペンギンでしょ?」
「なんで?」
「え? 北海道って言ったら寒い、寒いって言ったらペンギンでしょ?」
「それ、どういう理論?」
「よし! 旭川に行こう!」
「……はい?」
つきあうと行った手前断るわけにも行かない、そして僕は帰る事も彼女を振り切る事も出来ない。
ただただ流されるだけ……。
タクシーを捕まえ、札幌に、そこから特急に乗って1時間半、旭川の駅からまたタクシーに乗って某有名動物園に到着する。
平日でもそれなりに人がにぎわっている。 近くの小学生や、幼稚園の遠足なのだろうか? 子供が多数ゲートの前にいた。
「すごい年間パスポートだって、2回入るならこっち買った方が特だよ!」
「2回……」
なんで2回? 来るの? 本気で言ってる? さすがに困惑の表情を浮かべると、円はテヘと笑って誤魔化した。
「はははは、じゃ、じゃあ行こっか、ペンギンペンギン~~」
一応念のため札幌で買った帽子に眼鏡で変装している円、でもその可愛さは隠せなく、周囲の人がチラチラと見ている。
ただ、隣にいるのが僕なので、何かの間違いなのかと、声を掛けられる事は無かった。
まあ、そう思うよね……あまりの釣り合わなさに、周囲の人達は、脳が違うと判断しているのだろうか?
「あははは、鹿でした! だって」
「凄い、白熊さんがプールに飛び込んだ!」
「きゃわわわ、ペンギンの行進!」
円は僕の手を握り、園内を回る。 そして目的だったペンギンの行進を見て歓喜している。
でも、……ペンギンが目の前を通り過ぎると、円は寂しそうにポツリと呟いた。
「私ね……動物園って実は嫌いなんだ……」
「……どうして?」
「自分を見てる様で……」
どういう意味かと聞こうと思ったが、円の表情を見て、僕はなんとなく察した。
「でも、ここには少し来たかったんだ……行動展示って知ってる?」
「聞いた事はあるかな?」
「自然に近い状態、その動物の能力や生態を誘発させて見せる……それが行動展示、ここが有名になった理由」
「そうなんだ……」
「それでも、檻の中には変わらないんだけどさ……」
「まどか……」
何か声をかけるべきか、でもなんて言っていいか、今の僕にわかる筈もなく、そんな余裕も無い。
そのまま何も喋らずに、僕達は暫くその場でボーッとしていた。
「そろそろ出ようか」
そしてどれだけの時間が過ぎたのだろうか? 円は寂しそうな顔から、さっきまでの笑顔に戻すと、僕の手を掴んだままそう言う。
「え? ああ、うん……えっと、次はどこへ?」
「……うーーん、そろそろ今日の宿を決めないと……ああ、昨日のお風呂じゃ狭かったよね? そうだ! 温泉入りたいな、今探すね」
円はスマホを取り出すと、宿泊サイトから検索をかける。
そして……。
「おお良い部屋、部屋にお風呂だって、最高~~ちょっと遠いけど、良い?」
「……うん」
もう、ただただ流されるだけなので何も考えずにそう返事をする。
でも、さすがに僕は思った、このまま流されていたら何時まで経っても……って、だから今夜きちんと話そうって、円は本気なのか? って、僕は今、そう決めた。
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