第26話 僕は彼女の事を殆んど知らない
「学食か……」
その後妹と話し合いをし、朝ごはんはお互い必要なので毎日一緒に食べる。
朝の登校は妹の学校への分かれ道まで、夕飯は週の半分にし、メニューを減らしたり、翌日も食べられる物にする。
場合によってはスーパーにお惣菜や、出前を取ったりする。
そういった感じで、出来るだけ妹の負担を軽減する事になった。
そして、もう一つ……昼食も今まではお弁当を作って貰っていたが、それも止める事にした。
つまり昼は学食等になるの──だが……。
「どした?」
相変わらず僕が困っていると必ず声をかけてくるイケメン野球部員の橋元は、坊主頭を光らせて僕に近付く。
「いや、学食に行こうかなって」
でも僕が行くと色々目立つのであまり行きたくない……と躊躇していた。
「へーー珍しい、じゃあ一緒に行くか?」
僕よりも頭一つ以上抜き出ている長身の橋元は、僕を見下ろしながら爽やかな笑顔を振り撒く。
うう、眩しい……頭じゃないよ、オーラが眩しい。
でも、そんな橋元の気の使いが結局裏目に出る。
「うわ橋元とあいつが一緒に」
「はっしーが汚れる」
「何であいつなんかと?」
「橋×宮」
「宮×橋でしょ?!」
食堂の喧騒の中そういった声がチラホラと聞こえてくる……誰だ腐ってるのは?
入学早々は聞こえたが、クラス内ではこう言った声は最近聞こえて来ない。
ただそれは面と向かって言えないだけ。
SNSと一緒だ。誰ってわからない様に、皆こそこそと言う。
それは仕方ない事なのだろうって最近諦めているが、ただ気分の良いものでは決して無い。
「なんか、すまん」
「いいって」
とりあえず並んでいないので、一番安い蕎麦にする。
食券を買い、真顔で黙々と蕎麦を茹でている学食のおばさんから蕎麦を受け取り、そそくさと端の空いてる席を陣取る。
橋元は一番長い定食の列に並んでいた。
「のびちゃうし先に食べるか……」
一緒に来る意味無かったなと思いつつ、僕は久しぶりにシンプルな薄味の蕎麦を啜った……まあまあかな。
半分程食べた辺りで、橋元がいわゆる漫画盛りの様な大盛ご飯を携え、しょうが焼き定食を持って僕の前に座った。
「凄い量、さすが体育会系」
「よく言う、昔は俺より食ってたくせに」
「まあ……ね」
運動量は半端じゃない陸部あるあるで、部員はとにかく食うのだ。合宿なんかはとにかく食べる、食べて食べただけ走る。そうしないと直ぐにエネルギー切れ、いわゆるハンガーノックを起こす。
過去の話に橋元は一瞬しまったという顔をするが、そこで謝るのも変だと思ったのか、苦笑いだけしてガツガツとご飯を食べ始める。
そんな橋元の気の使い方を知った僕も、敢えて何も言わずに残りの蕎麦を啜った。
「ところでさ、白浜ってどう思う?」
「ぶ、ぶふぉお! え?!」
「何を焦ってる?」
「いいい、いや別にい、し、白浜 円がどうした?!」
「なんだ? ああいうのが好みか?」
「ええ!」
「へーー意外に面食いなんだな、でもあれは手強いぞ」
橋元は持っていた箸を横に振りながら呆れ顔で僕を見る。
「手強い?」
「ああ、何度か話しかけたけど、目も合わせない、完全に無視された」
ははは、と笑いながら再びパクパクとしょうが焼きを口に放り込む。
「そう……なんだ」
「ああ、ありゃ誰も寄せ付けないって構えだ、ただなあ」
「ただ?」
「じゃあ何で学校に通ってるんだろうってな、芸能界を辞めてまで何でこの学校に来たんだろってな」
「……勉強するためじゃね?」
「勉強するだけだったら何も学校になんか通う必要無いだろ?」
「まあ……」
「仮に大学行く為だとしても、それだけなら高校に行く必要は無いだろ? 大検とか受けた方が手っ取り早い、ましてや、うちの学校は外部入試は難関だしなあ……そもそも売れっ子だったんだろ? それを捨ててまで、この学校に来た意味がなあ……わからん」
「──そ、そだね」
「まあ、せっかく同じ学校の同じクラスになったんだから、ちょっとずつでも打ち解けてくれれば良いのになあ、ってな」
「……うん」
白浜さんは僕の為にこの学校に来た、でも僕の為にその事を知られない様にしている。
でも、それって彼女自身はどう思っているんだろうか?
そこでふと思った。
そう、僕は彼女の事を何も知らない……僕はテレビの中の彼女しか知らないのだ。
出合ってから2年以上、苦労に苦労を重ねてこの学校に入ったという事実以外は、何も知らなかった……。
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