第18話 神の手?
終始ご機嫌の妹と一緒にご飯を食べ、僕は夏樹の家に行く準備をする。
部屋から数種類のボトルをバッグにいれ、バスルームに向かう。
「タオルはなっちゃんの家にあるけど、とりあえず持ってくか……」
「むふふふ」
「なんだよ」
タオルは鏡の上の棚に置いてある。そしてその鏡に映る妹はこっちを見てニヤニヤしていた。
「い~~~え~~~楽しそうだなあ~~って」
「めんどくさいだけだよ」
「でも、してあげちゃうんだから、お兄ちゃんやっさし~~」
「日頃世話になってるし……」
口止め料金だし……。
「あ~~~私も勉強のし過ぎで肩こっちゃったなああ~~」
妹は肩を自分で揉み出す。
「白々しい」
器用に片足でバランスを取りながらタオル2枚にバスタオル1枚を取り出し置いてあるバックに放り込み、そこでようやく妹に振り返ると眉間に皺を寄せながら妹を睨む。
「今度私にもしてね~~」
そんな僕の表情を気にする事なく妹はにこやかに笑った。
「全く……今度な」
「でーーもお、い~~な~~~なっちゃんに会えて、最近勉強勉強でなっちゃんと遊ぶ暇無い~~」
「てか、お前も来ればいいだろ?」
「え~~~~でもお、私は勉強があるし~~お邪魔だし~~」
何か気色悪い言い回しで妹は唇に指を当てウインクする。
「邪魔って……」
「まあ、頑張って、たっぷりとなっちゃんの色んな所を揉んできてください~~」
「言い方!」
全ての準備を終え、満面の笑みの妹に見送られ隣に住む夏樹の家に向かう。
出る直前に夏樹にメッセージを送っているので、夏樹は鍵を開け玄関で待機していた。
「やっほ~~」
「あいよ」
勝手知ったる夏樹の家、自分の家の様に遠慮なくあがる。
夏樹にバッグを渡し、支えられつつゆっくりと階段をあがり、いつもの夏樹の部屋に入る。
一見男っぽい性格で、見た目もボーイッシュな夏樹だが、実はかなりの少女趣味で、部屋はピンクで統一されており、カーテンや枕カバー等には必ずひらひらした物がついている。
そして極めつけはぬいぐるみの数、大小合わせて百は越える。
「またぬいぐるみ増えてね?」
「うん! 最近お気に入りはこれ~~」
そう言ってピンクのタコ? いや、クラゲか……そのぬいぐるみに笑顔で抱き付く夏樹……いや、どこで売ってるのそれ?
「まあいいや、そんじゃやるか」
「いやん、やるって~~」
「ああ、そういうのいいから」
「もう~~相変わらずの塩だなあ」
夏樹はそう言うと、着ていたトレーナを脱ぎ、下着姿になる。
と言っても、スポーツブラに、見せても良い様な黒いパンツ姿、オイルを使うので多分汚れてもいい物を着けているのだろう。
普段はヒラヒラピンクの下着を好んで着けているので、今日は色気も素っ気も無い。いや、まあ仮に際どい下着でも、いや裸でも……特に問題はない。
だから特に感想は無い……まあ、あえて言えば……全体的に細く手足が長く犬で言えばボルゾイの様なシュッとしたイメージとしか?
いや、だってそもそも夏樹は僕にとって妹と一緒なので興奮なんてしない。 するわけがない。そして勿論それは夏樹もだ。
「風呂入った?」
「うん、ちゃんと浸かったよ」
「おっけ、はいよ」
僕はバックからビニールシートとバスタオルを取り出して夏樹に渡す。
夏樹は慣れた感じでベッドにそれぞれを敷くと、そのままそこに寝転んだ。
下着姿の少女がベッドに寝転び目を閉じる……いや、大丈夫、相手は夏樹なので、何の心配もいらない……等と誰かに言い訳をしている自分に思わず苦笑する……。
「あ……」
そう言えばと、僕は部屋の窓に近付く……窓の向こうには明かりの消えている元僕の部屋が見えている。
なので……カーテンを閉めた。
「ぎゃあああああ」
なんかどこから悲鳴の様な声が聞こえたが無視をして、夏樹がベッドの脇に用意してくれた椅子に座る。
「んーーじゃいつもの様に足からしよっか」
「ほーーい」
夏樹は足をひょいと持ち上げ僕の膝上に乗せる。
僕は持ってきたボトルの蓋を開け香りを嗅いだ。
バニラの香り……少し懐かしい香りがする。
ボトルを傾け手のひらに溜まる程垂らすとそのまま夏樹の脛に塗りつけた。
「ほう……」
夏樹はため息の様な声を上げる。
少し冷たかったのか?
僕は温める様に、暫く手で脛を上下に擦り、オイルを馴染ませる。
たっぷりとオイルの付いた手で、脛の筋肉、前脛骨筋からマッサージを開始した。
久しぶりに触った夏樹の足……何だろう……以前と触り心地がちがう。
手の平に吸い付く様な肌触り……絹の様な決め細やかさ。
あれだけのバネ、さぞかし筋肉の塊なんだろうと思うかも知れない、でも、夏樹の足は細くて美しい。
脂肪の全くついていない太ももに引き締まった足首、サラブレッドの足を彷彿させる。
上質で柔らかい筋肉、夏樹の足は芸術品と言える。
その芸術品とも言える夏樹の足をマッサージしていると、僕の中で、今まで無かった感情、抱かなかった思いが沸々と沸き上がってくる。
羨ましいという感情が浮かび上がる。
羨望と言って良いだろう……僕にはもう……手の届かない存在……夏樹の美しい足……が凄く、愛しく思えてくる。
愛すべき物……愛していた物……自分には……もう……無い物。
そう思った途端何か喉の奥にツンとした感覚が僕を襲う。
「ふ! ふぐ……ひう!」
そして更にその瞬間、夏樹が妙な声を上げ出した。
「あ、ごめん痛かった?」
「ち! 違う、な、何今の?!」
夏樹は唐突に跳ね起きるとオイルまみれの僕の手を掴んだ。
「え?」
「……な、なんか……変なのも……別に無いね……」
「変?」
すると今度は僕の手を自分の鼻先に持っていき、クンクンと匂いを嗅ぎ出す。
「バニラの匂い……」
「うん、アロマオイルだから」
「……も、勿論普通の奴だよね?」
「ん? そうだけど?」
普通じゃや無いオイルってなんだろう?
「えっとなんだろう……今の……えーーー? うーーーん、でも普通マッサージだし、相手はかーくんだし……触り方もマッサージも普通のやり方だし……」
「大丈夫?」
「うーーん……気のせいか……じゃあ続きよろ」
夏樹はそう言って再び仰向けに寝転ぶ。
僕は疑問に思いながらも、気を取り直し今度は夏樹のふくらはぎ、ヒラメ筋を揉みほぐす。
スポーツマッサージは決して強く押してはいけない、強く押すと筋繊維が断裂してしまうから。
血液の流れを良くする様に、筋肉をほぐす様に、絶妙な力加減で……揉みほぐしていく。
プルンプルンとした夏樹の豊満なふくらはぎを、絞る様に揉みほぐす。
「ふ、ふ、く……ん……」
また? な、なんだろう……夏樹の声が益々変な感じに……。
「だ、大丈夫?」
以前と同じ様にやっているのに……夏樹の反応がどこか艶かしい……。
「だ、大丈夫だから……続けてえ……」
夏樹はそう言って側に置いてある枕で顔を覆った。
「大丈夫かな?」
僕はそのまま続けるも、夏樹は何か必死に堪えている。
夏樹の肌がはほんのりとピンクに染まり時折身体全体がビクビクと震え出す。
一体どうなってるんだ?
僕は疑問に思いつつもそのままマッサージを続けた。
そして……。
足の施術が一通り終わり、そう告げると、夏樹はそっと枕から顔を出す。
「……はあ、はあ、はあ……終わった……の?」
真っ赤な顔で、瞳をうるうるとさせた夏樹が僕を見ている。
え? これ……夏樹? 見たことの無い夏樹の表情に僕は思わず生唾をごくりと飲み込んだ。
「……う、うん……えっと……次はどこをやろっか?」
「……ひ! ご、ごめん……もう……むりいいぃぃ」
「へ?」
「きょ、今日は足だけで……充分だから……だ、大丈夫……あ、ありがと」
夏樹はニッコリと笑うが、なんだかいつもと違い、ぎこちない。
「良いの?」
「う、うん……ごめん、今日は送れない、後片付けは……やっておくから……ありがと……」
モジモジしながらそう言う夏樹、僕はそんな姿を見て、何か早く帰ってくれって言っている様な気がした。
「あ、ああ、うん、じゃあ帰るね」
理由は定かじゃ無かったが、そんな空気を読み、言われるがままベッドの上でぐったりしている夏樹をそのままにして、僕は自宅に戻った。
◈◈◈
「お帰りお兄ちゃん!」
家に戻ると目を爛々と輝かせた妹が玄関先に立っていった……。
「あ、ああうん、ただいま」
なぜだかいつも玄関にいる妹。
「どうだった? どうだった? JKになった、なっちゃんは?」
「JKって……いや、別に……」
「えーーーなんか感想とか無いの?」
僕は妹からそう言われ……自分の両手を見つめる。
タオルで拭っただけなのでまだオイルでテカテカの手。
あの夏樹の反応は何だったんだろう? と、僕はその手を伸ばし、正面に立つ妹の……胸を掴んだ。
「…………お兄ちゃん?」
「……なんともない……か?」
妹の反応に少し安心した僕は手を洗いに洗面所に向かった。
「は? ちょっと、え? な、何? 何で私の胸掴んで、なんでホッとしてんの? な、なんなの? キモ! ちょっとお兄ちゃんキモい~~~!」
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