第17話 一人ヴァル〇ラコンビ
「おかえりお兄ちゃん、遅かったね」
笑顔で出迎えてくれる妹に僕はほんの少し罪悪感を感じつついつもの様に鞄を手渡し玄関を上がると妹はその鞄を持ちながら僕の脱いだ靴を揃え直す。
「ちょっとね、ああ、帰りになっちゃんにあって今夜行って来るから」
「へーー何しに行くの?」
鞄をもって嬉しそうに僕の後を着いてくる妹。
「な、なんか部活で疲れてるから……マッサージしてくれって」
「へ~~~~~~~~~~」
その妹の感嘆とした声に振り向くと……。
「なに? その顔……」
ニヤニヤと不敵に笑う妹……。
「え~~~~お兄ちゃんの~~~~エッチ」
「は?」
「なっちゃんの身体を、JKの身体を蹂躙しにいくなんて、妹になんて恥ずかしい事を言うのよ~~」
「は?」
「い~~え~~あんまり妹に仲睦まじい姿を見せ付けないでねえ~~」
妹はケラケラを笑いながら僕の部屋に入って行く。
うちの家は2階建てのこじんまりとした建売り住宅。
隣に住む夏樹の住む家とほぼ同じ間取り。
以前は僕のいた部屋と夏樹の部屋が窓一枚挟んだ、よくあるラブコメの幼馴染ポジションだったんだけど、僕が怪我をして階段を上がるのが結構大変な為に、今は1階の部屋に移動している。
なので以前の様に窓越しで話したりする事はないが、まあ、最近はスマホのメッセージソフトもあるし、特に困る事はない。
僕は前に天才なんていないって、そう言った。
でも、恐らく天才が存在するならば、それは夏樹だって思っている。
僕と夏樹と妹は幼い頃から3人で、いつも一緒に遊んでいた。
いつも家の周囲を駆け回っていた。
そして一番やっていた遊びは坂ダッシュ。
近所に一の坂、二の坂、三の坂という名称の坂があり、そこを3人でいつも競争していた。
一の坂は緩い傾斜で距離も比較的短い。二の坂は一の坂よりもキツイ傾斜で距離も長い。三の坂は途中に階段がある最も傾斜のキツイ坂だった。
よく言われる様に女の子の方が成長が早い、妹より一つ上、僕と同い年の夏樹が一番成長していたせいもあってか、初めは全部の坂で僕と妹に圧勝してた。
でも、僕たち兄妹揃って負けず嫌いな性格から、二人でなんとか夏樹に追いつくべく画策した。
走り方からペース配分、夏樹に隠れて練習し、やがて短い距離の1の坂は僕が、2の坂は持久力の勝る妹が勝つようになった。
でも、最後まで3の坂では夏樹に勝てなかった。
夏樹は天才的なバネで跳ぶように3の坂を登っていく、いくら頑張ってもそれだけは追いつけなかった。
◈◈◈
陸上の中で天性の素質が必要な競技が一つあるって僕は思っている。
100mもそうなんだけど、それよりも必要だと思っているのが、走り高跳びという競技だ。(あくまでも主人公の主観です)
バネ、いわゆる跳躍力という物は持って生まれた物の比率が高い。
さらに腰の位置が重要で、モデルの様な長い足も必須だ。
その証拠として、当初走高跳ははさみ跳びという跳び方が主流だったが、腰の位置がより高くなるベリーロールや背面跳びが主流になっていった。
そして……夏樹は、そのバネを生かし、僕と同じ陸上のハイジャンプの選手になる。
天才的な高跳びの選手として夏樹は注目されていた。
そして、僕と同じ学校に入学し、同じ陸上部員として共に練習を重ねた。
しかし僕が1年で全中出場を決めたあの時、夏樹は地方予選で足のタイミングが合わず、記録0で終わってしまった。
一度も飛ぶ事なく、バーを続けて落としてしまいあっさり敗退した。
それは……練習でなら目をつぶっても跳べる高さだった。
いつも明るく、いつも元気で、いつも僕の前を走っていた夏樹が、あの時わんわんと泣いていた。
そして、その後僕の事故……僕が走れなくなり陸上部を退部した時、夏樹も同時に陸上を辞めた。
理由を聞くと「いやあ、あんな所で予選落ちしているようじゃダメダメだからさ~~才能ないんだよ、身長も、もう伸びそうもないし」と言っていた。
でも、本当の理由は……多分僕のせいだって……そう思っている。
夏樹はその後持ち前のバネを生かしバスケットボールに転向。
類い稀なる運動神経と、その陸上時代のバネと脚力を生かし、あっさりとレギュラーになった。
夏樹の高い位置からのレイアップシュートはダンクと見間違う程に華麗だ。
最近では、城ヶ崎の神〇駿河って言われているとか……。
以前ダンクできる? って聞いたら「頑張れば?」って言っていたが……まあ、冗談って事にしておこう。
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