1部2章 進展
第16話 幼なじみと僕
「じゃあこれ」
アドレスや電話番号等を交換し、また明日の放課後会う約束をした。
とりあえず今日は遅いので、色々な話はまた明日にって事で僕は帰る事にしたが、その帰り際に白浜から高級そうなカードを渡された。
「……なにこれ?」
「ん? この家の鍵」
「え?」
ちょっと待って、またこの娘なんか言い出した。
「このマンション宮園君の為に買ったんだ」
「へ? お母さんは?」
「んーーん、居ないよ、宮園君と私の二人だよ?」
白浜は笑顔で首を振った。
「…………だから重いってばああ」
てか、高校生でマンションって買えるの?
◈◈◈
僕はエレベーターに飛び乗り、そのまま白浜の家を飛び出た。
やっと会えて話せたと思ったら、責任を取らせろと、まるで押し売りの様に僕に売り付けてくる。
遠くから猫だと思って近付いたらライオンだったみたいな? そんな感じがした。
でも、初めて触れた彼女は甘い香りがして、とても柔らかかった。
そしてずっと見たかったあの笑顔……テレビで見せている笑顔とは全く違う、あの笑顔、初めて会った時と同じあの笑顔を見れて、なんだか心の中がポカポカと暖かい気分になった。
白浜の家を出ると、もう辺りはすっかり暗くなっていた。
ゆっくりとしか歩けない僕、でもそろそろ妹が心配するだろうと急ぎ家に向かっていると、突然後ろから背中に衝撃を受ける。
「ヤッホーかーくん!」
そう言いながら誰かが僕を後ろから叩いた。
「いってええええ」
「あ、ごめん」
振り向くと、てへぺろをしている幼なじみの川本夏樹がそこにいた。
茶髪で短髪、昼は赤く見えるその髪も夜だと黒に近く、一瞬誰だかわからない……わけはなかった。
その姿、声、夏樹の事は嫌って程知っている。
妹の次に知り尽くしている女の子。
「相変わらずの馬鹿力」
「うるさい馬鹿とか言うなし、私頭良いもん」
あっかんべーをしながら夏樹は僕の鞄を引ったくる。
自分の鞄と大きなスポーツバッグを抱えているにも関わらず、更に僕の鞄を持ってくれる……。
「……ありがと」
「いーーえーー」
そう言って、僕の前をゆっくりと歩き出す夏樹……。
どうしても夏樹には、夏樹と妹には甘えてしまう。
ゆっくりと歩いていると、夏樹は思い出した様に僕に向かって後ろ歩きしながら言った。
「そうそう、かーくんのクラスに白浜 円が居るんだって?」
「ひょ!」
「……何変な声出して」
「……いや、何でも」
「どんな感じ?」
「何が?」
「いや、有名人が居るって」
「いや、別に……喋ってないし」
教室では……喋って無いから嘘では無い。
「ふーーん」
夏樹は残念という顔をして、再び前を向いて歩き出した。
ま、まずい……夏樹に白浜の事を知られてしまった。
ちなみに夏樹も僕と白浜の関係を知らない。事故の事も含めて僕は一切を言っていない。
恐らく妹も言ってない筈。
「あ、あのさ、なっちゃん……
「ん? なんで?」
「いや、ほら、あいつ白浜 円の事、超嫌ってんじゃん? まさかさあ、受験する学校にそんな人がいたらモチベーションが下がるって言うかさ、今大事な時期だしさ」
「んーー、そう言えば、あまっちって 白浜 円嫌いだよねえ、でも、なんでだろ?」
「……さ、さあ……」
「ふーーん、まあいいや、いいよ」
「本当に?」
「うん…………そうだ、ただし! 私の頼みも聞いてくれる?」
夏樹は丁度家の前に着いたタイミングで僕に鞄を押し付け、そしてニヤリと悪巧みをした悪代官の様な笑みを浮かべて言った。
「久々にかーくんにマッサージして欲しいな」
「え?!」
「高等部練習きつくてもう身体痛いんだよお、いいでしょ?」
「いや、でも……それって」
「あーーエッチな事考えてる? いやん、かーくん大人になったのね」
「か、考えてねえ! いいよ、わあったよ」
「やった、じゃあ今夜ね」
「あ、ああ……」
隣に住む夏樹は手をブンブン振ると嬉しそうに自分の家に入って行った。
「マッサージ……ねえ……」
陸上に関する事は何でもやった。
スポーツ関連の書籍を読みあさり、人体に関する事や、栄養学なんかも調べ捲った。
そして、その一つがマッサージ、自分だけでなく、妹や夏樹を使って練習をしたりしていた。
当たり前だけど、勿論やらしい意味なんて全く無い、スポーツの一環、身体のケアもスポーツ選手としては大事だから。
怪我をする前迄は何度かやってあげたりしたけど、ここ2年位は全くやっていない。
まあ、でも、夏樹なら……別にいっか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます