風が冷たい
風が冷たい。今日は晴れているのに、北風の影響で肌を刺すような寒さを覚える。
先日買った手袋が活躍したのは今日が初めてだ。今まではカイロを2つ持っていてコートの両ポケットに突っ込んでいたから、ちょっとスマホを触るとき以外は何の苦労もなかったのに、遂に箱で買っていたカイロも底を尽きてしまった。これから買い足すには、年始と言うこともあって、営業している店や、営業時間も限られてくるから何だか面倒だ。いつも行く店が閉まっていたら他の店を探しに行くことになる。それなら、手袋で我慢してみよう。そう思った。
私は手袋が好きではなかった。安物になると大体スマホが使えないし、細かい作業をするのには向かない。
大学から寮までは大した距離はないけれど、寒さに堪えながら通学していると、普段より若干遠く感じる。私は、去年の春から大学生になって、今は大学の寮で生活をしている2回生だ。第一志望に合格して、遠方から引っ越してきた。初めは一人暮らしをしようかと考えていたら、心配性の母から「一人暮らしは不安だから」と言われて寮に入ることに決まった。
私は人と関わるのが苦手で、いわゆる人見知りだから、寮で生活するなんて無理なのでは? と不安に思っていたけれど、いつの間にか友達もできて、寮だからこそできる生活を送っている気がする。
今日の講義は午前中だけで、その後に用事もない。半休とか全休を作れるのは、大学生の醍醐味なのかなぁ、と思う。高校のころは1日中学校にいるのが当たり前で、学校に半日しかいなくて良い日があるなんて、昔は考えもしてなかった。
帰りがけにコンビニにでも寄れば良かったかもしれない、と少しだけ後悔する。最近、私の好きな系統のチョコレートで、新作が出たらしいから買いに行けば良かった。
寮に着いた私は、風で乱れた髪を簡単に整えて、部屋に戻る。荷物をその辺に投げ捨ててベッドにダイブした。あぁ、疲れた。布団に包まって天井を見る。見慣れていて、落ち着く風景だ。
年末は地元に帰省していたせいか、妙な気疲れが残っている。久しぶりに見た母の顔が、時々寄越してくる電話や仕送りに添えられた手紙と違って、少し頼りなく見えた。去年は忙しくて帰省できていなかったから、家族と会うのは2年ぶりだっただろう。電話や手紙には、私がまだ実家で暮らしていたときのような、母特有の頼り強さがあるけれど、実際に会って、頼りなく見えてしまったのは、背中が小さくなった、と、そう感じるせいもあるかもしれない。それでも、父と弟は相変わらずで安心した。弟は今年で中学2年生になる。私とは年に差があるので、今まで喧嘩をしたことはなく、仲の良い姉弟だ。
母と弟が夕飯の買出しに行ってから、年末の番組で腹を抱えている父が、ソファーに座ったまま、こちらも見ずに呟いた。「母さん、寂しがってたぞ」
父の呟きに、私はどう答えればいいか分からなかった。謝るのは、何か違う気がするし。買出しから帰って来た母は、夕食の準備をしていて、弟は父の横に座ってテレビを見ていた。私は、テーブルのところからテレビを見たり、スマホをいじっていた。大晦日ということもあってか、夕食はやはり豪華だった。母の料理の味も、久しぶりで、何故か泣けてくる自分がいた。私が「美味しい」と言うと、母は嬉しそうに笑って、「良かった、久しぶりだし、いっぱい食べてね」と言った。これから、母の背中はどんどん小さくなっていくのだろうか? それでも、母の料理の味と優しさはいつまでも変わらないでいてほしいと思う。
年が明けて、親戚も交えて初詣に行った。おみくじは吉。悪くないならそれでいいと思った。私が帰るときに、母はいろんな料理をタッパーに入れて持たせてくれた。部屋の隅に目をやると、大量のブラックサンダーとみかんもあった。そう言えばそうだった。
何となく時計を見ると13時を回っている。布団から出た私は、母が持たせてくれた料理を電子レンジにかけて、炊飯ジャーからご飯をよそって昼食の準備をした。
昼食を食べ終わった後に、みかんを食べながら母にラインを送った。
「次はお盆に帰ります」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます