無題
息苦しい。
加奈は胸が詰まるような感覚を覚えていた。
彼女は今、学校での授業の最中だ。教師が英文を読み上げている。少し騒がしい教室は、生徒同士のグループワークから発生した談笑のせいだろう。
4月。彼女は新年度から中学二年生になった。新しいクラスに新しい担任。グループは既に出来つつあるのだが、どこにも属せないまま、独り。
彼女はそんな教室の中で、一番騒がしさを感じている。一見、誰かと話すこともなく、真面目に授業を受けているように見えるが、彼女の中では、まるで体から飛び出すのではないか、と言う程に酷く心臓が荒ぶっていた。
「(もうすぐ、私が発表する番だ。もしも間違えたらどうしよう)」
グループで答えを出さなくてはいけなかった。彼女のグループは、彼女一人を除いて皆で楽しそうに話していて、答えを出そうともしていない。加奈ちゃん答えてよ、その一言だけを掛けてそれからは自分らの会話に夢中だ。
加奈は周りの目を気にし、失敗に怯えている。他の人だったら、分からないのならそう言って終わるようだが、彼女の場合は違う。出来ない、分からない、そんな言葉を発することで、周りの人間に貶される気がして、グループの人たちに恥をかかせる気がして、考えもしていなかった癖に責められる気がして、とても言うことは出来なかった。
間違えたらきっと馬鹿にされるだろう。一人だけ、苦しい思いをするのは、恥ずかしい思いをするのは、嫌だ。
加奈は英語が苦手だった。しかし、英語の教師と仲が良いものだから、グループワーク以外でも人一倍当てられるのは間逃れなかった。
加奈は、いわゆる優等生だった。中学にあがってからも、勉強に生活面も、人よりも良く努めていた。なかなかの温室栽培な小学校出身であった彼女は、中学も同じ要領で過ごしていける、そう思っていた。
彼女の住む市は、地方都市と呼ぶにも難しく、少子高齢化問題を抱えた、日本の問題を、最も具現化したような場所だ。ヤクザなんかが、未だ力を持っていたりして、時々問題になる。駅付近は少し栄えているけれど、全盛期と比べれば町全体は廃れて、シャッター街も今じゃ彼女の中では観光地だ。
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