第23話 冷静に話をしよう!

今朝もメイドさんに体を揺すられて目を覚ましたが、ラナさんと違い他のメイドさんでやはり何か違う。


ラナさんが専属のメイドになる話が決まり、シア達を迎え入れる為に準備を始めて5日ほど経った。


昨日からシア達は待機所で生活を始めて、ラナさんは面倒を見る為に、待機所で泊まってもらっている。


ハロルド様とレベッカ夫人は、冒険者ギルドから回収した書類を調べ始めたら、予想以上に不正があったのだと言って、連日遅くまで書類の確認をしているようだ。


夕食も一緒に食べることも少なく、急いで用意した『ミント健康ドリンク』のウォーターサーバーを追加で3台納品したのは良いが、毎日3樽以上の『ミント健康ドリンク』が消費されているのに、彼らの疲れが癒されている雰囲気は無かった。


朝食はハロルド様とレベッカ夫人も一緒に食べてるが、やはり疲れが残っているようである。


「アタルさん、この後少しお話をさせてもらえるかしら?」


レベッカさんに聞かれたので答える。


「ええ、問題ありません」


快く返事をしたのだが、レベッカ夫人は少し難しい顔をしている。


また、私が何かやったのか!?


正直心当たりがない。


このところ午前中は素材採取に行き、午後は賢者区画の開発をして、夜は必用な物を製作し、魔力や素材が無くなるまで量産しているだけだ。


木材やスライム溶液が全く足りていないので、予定より開発が進んでいないが、苦情を言われるほど遅れている訳でないし、元々苦情を言われる事でもない。


不安に思いながら朝食を終えると、いつものように応接室に移動する。


何か応接室に行くのが怖くなってきたぁ。


トラウマのように応接室に行くと説教されると思ってしまう。


応接室に着くと、朝早くからアランさんと騎士と思われる人が待っていた。


「お、おはようございます」


先日のアランさんを見てから、あの時の事を思い出し、会うと緊張してしまう。


「おはよう、朝からすまないね」


アランさんは気軽に挨拶してくれたが、隣の騎士は不満そうな顔で頭を軽く下げるのだった。


「彼は騎士団の副団長で、1番隊の隊長をしているサバルだ」


彼は紹介されても、相変わらす不満そうな顔で頭を軽く下げるだけだ。


「アタルです」


理由は分からないが、そこまで不満そうにされてはこちらも面白くはない。


レベッカ夫人の指示で彼らの正面に座る。


ソファに座るとレベッカさんの方を見て質問する。


「お話とは何でしょうか?」


そう質問すると、レベッカ夫人はアランさんを見て、それに気が付いたアランさんが話し始めた。


「アタル殿は、あの壁の中に女性騎士専用の施設を建ててると聞いたのだが、本当だろうか?」


女性騎士専用? どこからそんな話に!?


「え~と、それは間違った情報だと思います」


「嘘をいうんじゃない。調べはついているんだぞ!」


な、なんだぁー!?


この人は何で怒り始めてるんだ?


「よせ!」


「ですが、」


「よせと言っている!」


「すみません……」


アランさんがサバルの発言を止めたのに、更にサバルが発言しようとして、アランさんがきつく諌めると、サバルはアランさんに謝罪をした。


私はなぜ嘘つき呼ばわりされたのか理由も分からず、戸惑ってしまう。


「アタル殿、申し訳ない。私の次男が取り調べの時にそういった話をして、それが騎士団の中で広まって問題になっているので、アタル殿のお話を聞きたいと伺ったんです」


何となく理由や気持ちはわかるが……。


いきなり怒鳴られるのは納得がいかない。


「そうですか、……説明するのは構いませんが、話を聞くような感じではないと思いますが?」


私はレベッカ夫人の方を向いて質問する。


「なっ」


サバルが驚いて少し声が出ているが無視する。


「ごめんなさいね、アタルさん」


レベッカ夫人は頭を下げて謝罪した。それに合わせてアランさんも頭を下げたのだが、サバルは驚いた顔のまま頭を下げなかった。


レベッカ夫人はアランさんを見て話をする。


「あなたから事情を聞いて、私も詳しい事が分からないから、一緒に話を聞くのは了承しましたが、碌に話も聞かずに詰問するのはどういうことかしら?」


レベッカ夫人もいつもの優しい感じではなく、厳しい表情で質問する。


やっとサバルも不味い状況だと認識したのか顔色が悪くなっている。


「申し訳ございません」


アランが立ち上がって謝罪すると、サバルも慌てて立ち上がって頭を下げた。


「謝るのは私にかしら?」


「アタル殿、申し訳ありません」


アランはすぐに私に頭を下げて謝罪すると、サバルも頭を下げている。


突然の事で腹も立ったが、これ以上は止めておく。


「わかりました。謝罪は受け入れます」


ホッとした雰囲気がその場に流れる。


「では、先程の質問に答えますが、宜しいですか?」


「よろしく頼みます」


アランさんが代表して返事してくれた。


「間違った情報と言ったのは、女性騎士専用という話です。女性優先と言ったのです」


そういうとサバルは怒りの表情を見せるが、さすがに発言はしてこない。


「それは、……どういった理由で?」


アランさんも少し不満そうではあるが、冷静に質問してくる。


「まあ、きっかけは女性騎士の待遇が、能力でなく女性だからといって待遇が悪いと聞いたことですね」


サバルが何か言おうとしたが、アランがすぐに質問してくる。


「確かに待遇は悪いかもしれませんが、実際に危険な任務に就くのは男性騎士が殆どです。それに我が領では他領よりましな待遇をしています」


へぇ~、そうなんだ。やはり世界観の違いがありそうだなぁ。


「そうなんですね。私としては他領の事は知りませんし、領の為になると思って考えたのですが……」


ここぞとばかりサバルが発言する。


「何も分からずに勝手な事をしてもらっては困る。それに専用と優先だとぉ。詭弁ではないか!」


気持ちは分かるが、全部話したわけでは無いのに断定的に言われるのは……。


「サバル!」


「あっ、すみません」


アランさんが顔を真っ赤にして怒っているのに気付いたサバルは、即座に謝罪する。


「確かに私は事情を分かっていないのかもしれませんが、感情的に発言されては困ります」


「同じような事を何度も申し訳ない。サバル、話をするときは冷静に話せ。次から発言してよいか私に確認してからしろ!」


アランさんも相当に怒っているようだ。


こんな人が副団長で大丈夫なのか?


「わ、わかりました」


サバルは少し不満そうにしながらもアランさんに返事する。


「今度は無い。これ以上主家の人の前で恥を掻かせたら、私がお前の首を切り落とす」


アランさんは静かだが怒りの籠った声でそう告げる。サバルの顔色は真っ白になっていた。


いやぁ、とっくに首を切られても良い状況だよね。


この世界だとそんな気がする。


しかし、自分がきっかけで首を刎ねられるのは見たくないかな。


もう少し自分の考えを伝えて、誤解を解きたいので、冷静に話をしようよ。

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