第22話 例のメイドさん
冒険者ギルドで何が起こっているのか知らずに、アタルは孤児院でモフモフ天国を楽しんでいた。
ハロルド様やアランさんを怒らせると恐いなぁ~!
先程まで見ていた尋問と言う名の拷問を思い出しながら、彼らを怒らせにないようにしようと思っていた。
それと同時に自分が人を傷つけたことにショックを感じながら、キティの尻尾をモフるのであった。
「アタル様、先程レベッカ様がいらして、シア達をアタル様に雇って頂けることになりました」
孤児院の院長が嬉しそうに話す。
そう言われて、レベッカさんが院長と話をすると言っていたことを思い出すのであった。
「すぐには無理ですが、準備は大体整っていますので、近日中には話が進むと思いますよ」
そう答えると、院長は嬉しそうに笑顔を見せてくれる。
「もうすぐお姉ちゃんとお別れでしゅ」
私にモフられていたキティが、悲しそうにそう話す。ケモミミがぺたんと折れ曲がり、尻尾が垂れ下がる。
「大丈夫よ。すぐ近くだし、お金が貯まったら迎えに来るから。少しだけ我慢しなさい!」
カティが妹に言い聞かせるように話しているが、カティも寂しそうな顔をしている。
「わかっているでしゅ。一緒にねれなくてもがまんするでしゅ」
キティが目に涙を溜めて、我慢するように話す。
それを見てあまりの可愛さに抱きしめたくなるが、必死に堪えて両脇に手を入れて持ち上げる。
「それじゃあ、一緒に来れば良い。その代わり色々お手伝いして貰うぞ。給金は払わないけど一緒に暮らせるぞ」
「そ、そんなのダメです。無理に雇って貰うのに妹まで……」
カティは悲しそうにそう話すが、本当は嬉しいのがわかる。
「キティ、がんばってお手伝いするでしゅ!」
「あんたなんかまだ何も出来ないでしょ!」
健気に手伝うというキティと、本当は嬉しいが、申し訳ない気持ちできつく妹に話すカティ。
「キティには大切なお手伝いを、お願いをします」
「はい。なんでしゅか」
話を聞いている皆が注目しているのがわかる。
「疲れた時に、こうやって私を癒してください」
そう言いながら、キティをモフりまくる。
周りの皆の視線が呆れた感じだが、そんなの関係ねぇ!
モフモフは最優先事項だ。
「おまかせくだしゃい!」
モフられながら、キティが返事する。
「という事で決定したよ」
そう言ってカティを見ると目から涙が溢れ出している。
クレアさんが近づいて来て訊いてくる。
「アタル様は二人を一緒にしてあげる為に、そんな理由にしたんですね」
「えっ、そ、そう、そうだよ」
焦って返事したが、なぜか周りの皆からジト目で睨まれてしまった。
◇ ◇ ◇ ◇
子供たちが昼の事を忘れて、楽しそうにしているのを見て安心すると、食料を置いて屋敷に戻った。
ハロルド様達の事も気になるが、色々な事があったので夕飯まで部屋で休むことにする。2階に上がって行く途中で、クレアさん達がレベッカ夫人と控室に入って行くのが見えた。
今日はレベッカ夫人に報告するのかな?
部屋に戻ると精神的に疲れたのか、いつの間にか寝ていたらしい。例のメイドさんに体を揺すられて目を覚ます。
「アタル様、夕飯の準備が出来ております」
「あ、ありがとうございます」
自分がいつ寝たかも覚えておらず、予想外の時間に起こされて焦ってしまった。
夕食に行くとハロルド様も帰っていたようで、一緒に夕食を食べた。ハロルド様は食事しながら、冒険者ギルドの事を簡単に説明してくれた。
本当にギルドマスターが事件の背後に居たが、脅すだけの予定だったらしい。
ギルドマスターも含め皆素直に話したとハロルド様は言うが、なんで渡したポーションを全部使ったのか。
絶対に怪しい!
「いやぁ~、アタルのお陰で、冒険者ギルドの悪事がボロボロ出て来て、明日から忙しくなりそうじゃ。わはははは」
聞いても仕方ないし、具体的に話を聞くのが恐ろしい。
夕食を食べ終わると、逃げるように部屋に戻るのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
今朝も例のメイドさんに体を揺すられて目を覚まし、朝の
朝食を食べ終わると、今日はレベッカさんから話があると言うので、いつもの応接室に行く。
例のメイドさんがお茶の準備をしてくれた。今朝は普通にメイドさんが出て行かずに、レベッカ夫人の近くに立っていた。
それほど複雑な話じゃないのかな?
内容的に重要な場合や秘密にしたい場合は、話を始める前にメイドさんが出て行くことが多かった。
「アタルさん、孤児院の子供を雇う話なんだけど、……住まいは問題ないのよ。でも、夜に子供たちだけと言うのは少し問題があるのよ」
言われてみれば、あと少しでシアが成人すると言っても14歳だ。確かに問題があるのかもしれない。
「では、私もあそこに住むようにしますよ」
そう答えるがレベッカ夫人の表情があまり良くない?
「それはそれで問題があるのよ。ほぼ成人している女の子を雇って一緒に暮らすというのは、誤解される可能性が高いわ。それにアタルさんがあそこで住むと言えば、シャルちゃんやミュウちゃんも一緒に住むと言い出すと思うし、独身の男性が子供も含めて多くの女の子たちと一緒に住むのはねぇ」
確かにそれは危険な気がする。
特に変な事をしなくても、一緒に住んでいれば変態ロリコン認定される可能性は高いし、あの子たちの発言も危険な気がする。
「そこで提案なんだけど、彼女に子供たちの面倒を見て貰うのはどうかしら?」
レベッカさんはそう話すと例のメイドさんを指差す。
えっ、もう起こして貰えないのぉ~!?
不謹慎だが最初にそれが思い浮かんだ。
「彼女の名前はラナ、家のメイドの中では一番優秀かもしれないわ」
やはり彼女は優秀なメイドさんだったんだ。
「でも、そんな優秀なラナさんにお願いするのは……」
さすがに申し訳ない。
「それは気にしなくても大丈夫よ。アタルさんがあの屋敷に住むことが決まってから、彼女にはアタルさんの屋敷のメイドとして、働いてもらうつもりで話をして、彼女の了解は取ってあるからね」
そんなこと頼んでは申し訳ないよね?
「え~と、ラナさんは大丈夫なんですか?」
「ラナとお呼びください。私はそのつもりで準備してましたので、大丈夫でございます」
申し訳ないが、屋敷のメイドさんになってくれたら、毎朝起こして貰えるのかぁ。
いやいや、そう言う事じゃない。
「う~ん、でもラナさんと呼ばしてください。あまり大人の女性を呼び捨てにしたことが無いので、暫くはそれでお願いします。
それと仕事に不満があるようでしたら遠慮なく言ってください。出来るだけ仕事をやり易いように考えます」
「はい、よろしくお願いします」
ラナさんは綺麗なお辞儀をしてくれる。
「あっ、給金はどれくらい払うのが普通でしょうか?」
「それは私に任して大丈夫よ。アタルさんに支払う分から、これまでと同じ額を彼女に渡すわ」
レベッカ夫人はそう言ってくれるが……。
「では、多めに渡して貰えますか。これまでと違う仕事になりますし、暫くは泊まり込みになるので。そうですねぇ、……倍ぐらい渡して頂いて構いませんよ。足りなければ頑張ってポーションを作りますので」
「ふふふっ、アタルさん大丈夫よ。倍払っても全然余裕だから。それより倍は止めてくれないかしら。その話を聞いたら我が家のメイドが全員、アタルさんの屋敷に行っちゃうわ。そうねぇ、1.5倍にしましょうか?」
「レベッカ様、それでも多すぎます」
ラナさんは焦った表情でそう訴える。
「でもアタルさんがそう言っているからねぇ」
レベッカ夫人が微笑みながら俺を見る。
「それでは1.5倍という事で。ラナさん、今日は時間ありますか?」
ラナさんはオロオロしている。しっかりしている彼女には珍しいのではないだろうか?
「は、はい、大丈夫です」
「それでは住む場所を見て頂いて、足りない物を確認して貰えますか?」
「わかりました」
おお、もう立て直している。やはりラナさんは優秀みたいだなぁ。
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