第14話 魅了スキルでしょ!

今朝もメイドさんに体を揺すられて目を覚ます。


起こしてくれたメイドさんを見ると、例のメイドさんだった。彼女の起こし方が優しくて自然に目が覚める感じで大好きだ。


朝の日課ルーティンをしながら、昨日の夜の事を思い返す。


昨日は無事に屋敷に戻って来れたが、夕食にハロルド様とレベッカ夫人は同席しなかった。セバスさんは疲れて早めに寝たと言っていたが、何故かセバスさんの息が酒臭かったのを不思議に思っていた。


真面目なセバスさんが早い時間からお酒を?


もしかしたらハロルド様とレベッカ夫人も、セバスさんと一緒に酒でも飲んだから早く寝たのではないかと考える。


私の愚痴とかで酒盛りをしたとかではないよね?


不安に感じていると、メイドさんが朝食に呼びに来たので食堂に行く。

いつものメンバーで朝食を食べているが、ハロルド様とレベッカ夫人明らかに二日酔いの雰囲気だ。


スマートシステムのキッチンを使って、失敗モモンポーションを薄めて水筒に入れると、セバスさんハロルド様とレベッカ夫人に飲ますように言い水筒を渡す。


すぐにセバスさんが、新しいカップに失敗モモンポーションを入れて持ってきた。何となくセバスさんの体調も良くなった気がする。


毒味の確認でもしたのかな?


出された失敗モモンポーションの入ったカップを見て、二人は不思議そうな顔をしたが、セバスさんが頷くと、二人は一口飲み驚いた顔になり、残りを一気に飲み干した。


明らかに体調が良くなった二人は、私の方を嬉しそうに見てくるのだった。



食事が終わりお茶を飲みながら、ハロルド様にお願いをする。


「孤児院の子供たちを正式に雇い入れたいと思っているのですが、手続きはどうすれば良いですか?」


この質問にハロルド様が不思議そうに尋ねてくる。


「住む所はどうする? 大賢者の屋敷はまだ人が住めないのじゃろう?」


「待機所の2階に一時的に住ませる予定です」


「「待機所?」」


二人には待機所と言ってもピンとこないようだ。クレアさんから多少の報告はされていると思うが「待機所」と報告されていないのであろう。


「壁の中で作業するときに、護衛の人達が休憩できる部屋があると良いと思いまして、今の入口の辺りに小屋と言うか家を建てまして、その2階を住めるようにしました」


二人はお互いに顔を見合わせている。


あれ、全く報告されていない?


一昨日戻って来てから、クレアさんはハロルド様に報告をしていたはずである。


「そうだよ、あっと言う間に建っていたよ。それに入口はミュウが目印なんだよ!」


ミュウが嬉しそうに答えると、シャルがミュウにあの目印は私だと言っている。


「そう言えば聞いていた気もするのぅ。アタルの事は色々あり過ぎて、頭が追い付いていないようじゃ」


「そうですわねぇ」


ハロルド様とレベッカ夫人が、納得?してくれたようだが、何故かまた疲れた顔をしている。


「今日は儂も一緒に行く予定じゃったから、その時に確認させて貰うとしよう」


「私も一緒に行って確認しますわ。問題ないようなら孤児院に話にいきます」


何故だろう?


話が早くて助かるが、二人がまるで仕方が無いといった諦めの雰囲気なんだ。



   ◇   ◇   ◇   ◇



元々、ハロルド様は一緒に行く予定だったので、すでに馬車の準備が出来ていたので、すぐに移動を始めた。


なんで私には6人も護衛が居て、ハロルド様とレベッカ夫人はそれぞれ二人しかついていないんだよ。


くだらない事に不満を感じていると、すぐに壁の入口に到着する。


カルアさんと護衛2名、それにシャルとミュウも一緒に水筒を持って孤児たちの所に向かう。それを見送ると、クレアさんに扉を開けて貰う。


ハロルド様とレベッカ夫人は興味津々で扉を確認している。


「これは簡単に作れるのか?」

「どこでこんな技術を?」


ハロルド様とレベッカ夫人が連続で質問してくる。


「う~ん、難しくはないですね。この技術は大賢者の屋敷の結界の鍵を参考にさせて貰いました」


「アタルの難しくないは、信じられんからのぅ」

「簡単に大賢者の技術を参考に……」


うん、何も聞こえナーーーイ!


「二人が出入りできるように登録しておきますね」


二人の魔力紋を登録して試してもらう。


「これなら鍵を無くす心配はないのぅ」

「この技術は色々と使えそうね」


扉だけでこんなに時間が掛かっては何もできなくなる。


「レベッカ夫人は建物の中を確認してください。ハロルド様はクレアさんと魔力の件の確認をされては?」


「そうじゃった。クレア行くぞ!」


ハロルド様は待機所の中を通り抜け、奥の扉から出て行く。私の護衛とハロルド様の護衛もついて行き、人数が減ってホッとする。


「あなた達も行って良いわよ」


レベッカ夫人は自分の護衛二人にも気軽に進める。護衛の二人がどうしようかお互いに顔を見合わす。


そ、それはダメだーーー!


レベッカ夫人の護衛まで行ってしまったら、レベッカ夫人と二人っきりになるのは困る!


「レベッカ夫人、護衛が護衛対象を置いて離れられる訳ないじゃないですかぁ」


微妙に護衛に牽制を入れる。護衛の人は少し残念そうにしたが諦めてくれた気がする。


「あら、この中には他の人間は入れないし、この区画に入ろうとする人などいないから護衛は要らないはずよ」


そう言う話じゃナーーーイ!


人妻が簡単に男と二人っきりになるのは良くないのぉ。

ただでさえ一緒にいると良い匂いがしてきて大変なのに、2階の寝室に案内して、


「このベッド柔らかくて良いわね」


「ええ、柔らかくて、寝ると体を包むような感じで最高です」


「あら、なら寝てみましょうか」


ベッドに寝転がるレベッカ夫人。


「本当に最高ね。でも、……二人で寝た感じを確認したいから、アタルさんここに一緒に寝てくれるかしら?」


「はい、喜んで確認のお手伝いを、」


ちがーーーーーーーーーーう!


な、なんだ、変な妄想が勝手に!


やはり魅了スキルだよね! そうだよね!


「レベッカ様、それでも護衛が離れる理由にはなりません」


年配の護衛がそう言ってくれた。もう一人は残念そうな顔をしている。


「そう、なら仕方ないわね」


レベッカ夫人は、どうでも良いのか簡単に話を撤回する。


レベッカ夫人の周辺にいる人は大変だなぁと思う。

本人に悪気は無いのだろうが、周りは勝手に誤解したり期待したりして、振り回されているのではないだろうか?


年配の護衛はすぐにそれに気が付いて対処して、もう一人は少し若いから振り回されてしまったのだろう。


見た目も魅力的で、いや、非常に魅力的でありながら周りを振り回す。悪気もないし、相手の事を考えた結果であるから文句も言えない。


小悪魔的な行動とサキュバス的な容姿で、純粋で知的なやさしさもった女性。


惚れてまうやろぅーーーーー!


気が付くと、レベッカ夫人と護衛が二階に上がって行くところだった。


カウンター横に置いてある椅子に座り溜息を付く。


まだ朝なのに疲れたぁ。


カップをストレージから出して失敗アプルポーションを入れて飲む。精神的な疲れだったが、飲むと何となくスッキリして元気になった気がする。


あっ、そうだ、昨日作った物を設置しよう。


立ち上がると部屋の壁際まで移動するとストレージから昨晩作った物を設置する。


取り出したのは、全体が木製で上に樽がのった形のウォーターサーバーである。地球の会社では当然のように設置されていた物である。


その横に樽を3個程重ねて置き、反対には専用の棚を設置する。


樽には状態保存の効果を付与してある。

中にはミント風味のポーションを薄めて入れてあり、孤児たちにいつも渡している水筒の元気の出る飲み物と同じようなものだ。地球のウォーターサーバーのように簡単に飲めて、水筒にも補給できるようになっている。


横の棚には下の二つの扉を開けると水筒が入っている。

自動洗浄の効果が中に付与されているので、使った水筒を入れておけば綺麗になるはずだ。


上の二つの扉の中にはカップが入っていて、同じように自動洗浄の効果が付与されているので、いつでも綺麗なカップで飲むことが出来るだろう。


カップを一つ出して設置して、コックを手前に倒すと想定した通りに、カップにミントポーションが入る。適当な量が入ったところでコックを元に戻して止める。


カップのミントポーションを飲むと、スッキリとした味わいで飲みやすく、体の疲れが取れる気がする。


このミントポーションはポーションと言うには効果が低すぎるし、怪我を治す感じではない。だから『ミント健康ドリンク』と呼ぶことにしよう。


ニヤニヤとウォーターサーバーの出来栄えと、『ミント健康ドリンク』の命名に一人で喜んでいると、2階からレベッカ夫人が駆け降りて来て、私の方に向かってくる。


なんか見たことのある光景だ!


レベッカ夫人は掴みかかるように私に近づくと訊いてくる。


「あのトイレは屋敷にも設置できる? ベッドのマットは屋敷のベッドのサイズでも作れる?」


昨日のクレアさんやシアとはまるっきり違うよぉ。


む、胸が当たってますぅ~。


私はレベッカ夫人の魅了スキル?に負けて、取り敢えず近日中に一つずつ納品する約束をしてしまった。


「あら、これはなに?」


ウォーターサーバーに気が付いて訊いてきたので、腰を引きながら説明をする。


護衛の二人は気の毒そうに私の事を見ていたので、経験があるのか同じ様な事を見たことがあるのだろう。


「これもお願いするわ。朝飲んだのとは味が違うけど、効果は同じなのよね?」


私が頷いて答えると、嬉しそうに微笑んだレベッカ夫人を見て、魅了スキルは本当に存在していると思うのであった。

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