第13話 幼女ハーレム!?
壁の中の解体を3分の1ほど終わらせた頃に、孤児院の子供たちがやって来た。たった一日しか経っていないのに、既にこの場所を怖がる雰囲気は無い。
最近の子供たちは、最初に見た頃より随分と元気になり、僅かしか経っていないのに少しだけ肉が付いた気がする。
そんな子供たちが嬉しそうに納品する姿を見ると、アタルも嬉しくてにやけてしまう。
「ねえ、アタル兄ちゃん、本当に私達を雇ってくれるの。もうすぐシアは孤児院に居られなくなるよ?」
フォミが積極的に訊いてくるが、シアも納品しながら気にしているのがまるわかりだ。
「う~ん、それが住む場所の準備が間に合いそうにないんだよなぁ」
シアが露骨に落ち込んでいるのがわかる。
フォミとカティもシアの方を心配そうに見ている。あのタウロでさえ心配そうにシアを見ている。
「そこで提案なんだが、昨日話したとおり暫くここに住むのはどうかな?」
シアも含めて子供たちが、言っている意味が分からず困惑している。
「ここの2階を住めるようにしたから、専属の従業員として働かないかと相談したんだけど……」
反応が無いので、やはりここでは怖いのか?
「えっ、ここ、ここの2階に住んで、雇ってくれるの!?」
最初に反応したのはフォミだった。
フォミが私に尋ねてきたので、シアとカティもやっと言っている意味が分かったのか驚いている。
「雇うから、ここの2階に臨時で住んでもらおうと考えたんだよ。」
少し訂正して説明すると、カティが跳びついてくる。
この子はいつも跳びついてくるなぁ。
「本当、本当の、本当に!?」
訊き方も毎回同じだよ。
「本当だよ。もう住めるぐらいにはしてあるから、後は住んでみて問題があれば相談して対応することになるかな」
ここまで話すとシアも前に出て訊いてくる。
「に、2階を見ても良いですか!」
「えっ、全然良いよ」
そう答えた瞬間に子供たちがカウンターの中に入って来る。
既に家具やベッド、生活用品もある程度作って用意してある。今日から泊まることもできそうなくらいになっているはずだ。
え~と、なぜ子供たちだけではなく、護衛のみんなも2階に上がって行くのかな?
クレアさんまで行かなくても……。
私は途中で投げ出された納品物を収納して、片付けるのだった。
暫くすると、先にクレアさん達が降りてきて、何故か私に詰め寄ってくる。
「あのベッドは宿舎にも用意してもらえるんですか?」
「ベッドの下に引いてある、ぽよぽよは何ですか?」
「あのトイレは誰が作ったんですか? 宿舎にも用意してくれるんですか!」
驚くほど真剣に詰め寄って質問してくる。
それにクレアさんまで、トイレのことを訊いてくるのですかぁ。
「待って、待って、待って、同じものは作りませんよ」
襲われそうな雰囲気に腰が引けながらも返答すると、驚くほど落胆している。
クレアさんまでぇ~!
「ここは仮の住まいで、急遽作ったからもっと良いものを用意しよ、」
「ほ、本当に!」
ク、クレアさん、く、首が閉まっ……て。
「た、隊長!」
「ハァ、ハァ、ハァ、し、死ぬかと思った」
カルアさんが、クレアさんに私が首を絞められているのに、気が付いてくれたから良かったけど、そうでなければ、あの馬鹿女神とまた会うことになりそうだった。
『誰が馬鹿女神じゃ! あっ!』
あっ、じゃねえよ!
「す、すみませんでした!」
クレアさんは一直線タイプで、気を付けないと危険かも……。
「だ、大丈夫です。つ、次からは気を付けてください」
恥ずかしそうに、もじもじするクレアさんにキャップ萌えしそうだ。
子供たちも降りてきた。
シアは先頭で私に向かってくる。
必死に私の胸の辺りの服を掴むと、真剣な目で訊いてくる。
「本当に私を雇ってくれるのですか? 何時からですか? 条件はありますか?」
体格的にクレアさんみたいに殺されそうにはならないが、必死さはそれ以上だと思う。
「ま、まだ孤児院に居ることができるなら、急ぐことはないと思うけど」
「いえ、一人でも孤児院から減れば、食事も多くなるし、寝る場所も広くなるから、少しでも早く出たほうが……」
最後のほうは声が小さくなったが、言いたいことは分かった。
子供がそんな風に考えないとダメな世界は嫌だなぁ。
「じゃあ、ハロルド様と孤児院の院長に話をしてからだね。それでも2、3日は掛かると思うよ」
そう答えると、私の服を掴んでいた手が緩み、シアは泣き出してしまったが話をする。
「よ、よろしくお願いします。アタル兄ちゃん、…アタル様が望まれる事なら何でもします。夜伽でも喜んでやります!」
それは要らないからぁーーー!
クレアさん達からはジト目で睨まれる。
フォミやカティだけじゃなく、他の子供たちも夜伽するとか騒ぐんじゃねぇ!
「雇うのはシアとフォミとカティだけだよ。それ以外の子はすぐには決められない。それから仕事は薬草などの採取の管理が基本だけど、食事の準備なんかは協力してもらう。
それからハッキリしておくけど、夜伽とか2度と言わないでね」
これ以上誤解されては大変である。
「あっ、す、すみません。内緒にします」
まてぇーーーーーい! さらに誤解されるでしょうがぁ!
クレアさん、軽蔑の眼差しで見ないで下さい!
「内緒とかじゃなく。そんなことしなくて良いんだよ。そういう事は好きな人や愛する人ができた時にしなさい」
ふんすっ、大人の貫禄で遠慮させて頂きます!
「なら、私はアタル様のことが大好きだから問題ないよね」
ちょっ、問題ありまくりです!
助けを求めてクレアさんを見ると、冷たく視線を逸らされたぁ。
「シア、そういう事は、もっと大人になってから、改めて考えてね。クレアさん今日はもう遅いので終わりにしましょう」
必死に幼女ハーレムの話を逸らして、早くこの場から立ち去りたいアタルだった。
◇ ◇ ◇ ◇
その頃、商業ギルドでも悲惨な扱いを受けたワルジオは、教会に戻るとポーション作成の責任者の助祭に激怒して文句を言う。
「ポーションの効果が減るとは聞いていたが、ポーションじゃない薬草水を作って渡したのか!」
「あ~、そうなりましたかぁ。だから言いましたよね。水で薄めると薄めた以上に効果が落ちるし、予想出来ない不具合が出ると」
助祭は悪びれもなく返答する。ワルジオは助祭の態度に怒りが爆発する。
「貴様は奴隷落ちだ! 私に恥を掻かせてタダで済むと思うなよ!」
「なっ、いい加減にしてくれ! 私は何度も水で薄めるのは止めるように話したではないですか!」
あれ程警告したのに、無理やりポーションを薄めるように指示してきたのはワルジオであった。
助祭は問題が起きたら、責任を自分に被せようとされては堪らないと思うのだった。
「黙れ黙れ! 効果が少し落ちると聞いたが、薬草水になるなんて聞いていない!」
ワルジオは自分の都合の良いように話を聞いていた。また都合の悪い話は、聞き流していたのである。
「効果が大幅に落ちると言いましたし、予想できない不具合に、ポーションの効果がすぐに無くなってしまう可能性も含まれています。だから何度も警告を、」
「黙れ黙れ! 私はそんなことは聞いていない!」
子供の戯言のようなワルジオの発言に、助祭も近くでポーション作成していた錬金術師たちも唖然とするしかなかった。
「何を騒いでおる」
そこに司教がやって来た。司教の後ろにはポーション販売担当の助祭がいる。
ワルジオは2人の助祭に嵌められたと思ったが、実際には欲をかき過ぎて自分で自滅していただけである。
「司教様、私は2人の助祭にだまされ、」
「黙りなさい! 事情は2人の助祭に聞いています。ポーションを水で薄めるのは絶対にしてはいけないと、ポーション担当のあなたは知らなかったのですか?」
「し、しかし、ポーションの数が、」
「数が足りないというだけの理由で、教会が定める規則を破ったのですか?」
「………」
ワルジオとしては教会に利益をもたらせば出世して、もっとおいしい思いができると単純に考えただけであった。
司教はワルジオが最近は増長して、自分の事を軽く見始めていたので、面白くないと思っていたところに、大変な失策をして教会の信用を失墜させたことで、ワルジオにすべての責任を取らせようと考えていた。
「ワルジオを地下牢に入れておきなさい。ポーション作成については正常に戻しなさい」
「はい、しかし薬草の入荷が少なくて作成できる数は少なくなります」
ポーション作成の助祭は、薬草の数が足りない問題が何も解決していない事を伝える。
「ポーション作成時の薬草を少し減らしなさい。効果は減らした分は落ちますが、それは仕方ありません。それでも作成できる数が減りますから、丁寧に作成すれば効果の低下は抑えられるはずです」
司教も昔はポーション管理部で仕事をして司教にまでなったので、ワルジオより手札が多く狡猾だった。
「あなたは冒険者ギルドに行って、薬草の調達を増やすようにお願いしてきなさい。多少価格が高くなっても元は取れます」
ポーション販売担当の助祭は頷いたが、司教に尋ねる。
「冒険者ギルドへの依頼は問題ありませんが、エルマイスター家と商業ギルドはどうされますか?」
司教は少し考えて答える。
「……エルマイスター家は私が対処します。ポーションを減らすのではなく、買取を無くすということは、なにかしら予想外の事が起きているかもしれません」
エルマイスター家の対応は教会の事に不満を持っていたとしても、あり得ない対応である。
他からポーションを手に入れることは、ポーションを教会がほぼ管理しているので困難なはずだ。それでもとなると……、ポーションを作成できる人間を確保した可能性が高い。
「しょ、商業ギルドは司教様が説明に来なければ、大司教様に抗議すると言っています。今日の感じでは説得が難しいかと……」
「それぐらい何とかしなさい。ワルジオを更迭したと話せば何とかなるでしょう!」
司教としても、大司教に抗議されるのは困るのだが、商業ギルドの支部に文句を言われたからと、簡単に司教が説明や謝罪に赴くつもりはなかった。
「わ、わかりました」
助祭もワルジオが更迭されて、地下牢に入れられたと話せば何とかなると軽く考えているのであった。
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