第2章 エルマイスター領

第1話 領都プレイル

予想より立派な城壁に、驚いてキョロキョロとしていると、自分と同じようにシャルとミュウもキョロキョロとしているのに気が付いて、お互いに苦笑いをして少し落ち着いて来る。


城門では兵士が検問のように入場者の確認をしていたが、領主一行なのでヨアヒムさんが先行して門番と何か話すと、敬礼して通してくれた。


シャルとミュウは兵士の敬礼を真似しながら門番の横を通り過ぎる。


街中に入ると、中世ヨーロッパのような石造り中心の街並みを見て、異世界転生の鉄板だなと感心してしまう。

馬に曳かれた馬車が行き交っていたが、臭いが殆ど気にならないので下水設備が整備されているのかと考えたりした。


街中を歩く人にも興味を引かれる。

シャルやミュウとは違う、ケモミミや尻尾がある人がいるので、ドワーフやエルフは居ないかと探してみたが見つからなかった。


そういえば女神様に女性の比率が高いと聞いていたが、見かける人々の8割以上は女性だった。それに比率も高いがレベルも高いと感心するのだった。


「アタル殿、どうじゃ我が領都は?」


「思っていたより大きな街で整備も良くされており、辺境とは思えない街並みですねぇ」


ハロルド様は嬉しそうに頷くと教えてくれた。


「この街は200年以上前に大賢者様がお造りなられたと伝わっておる。我がエルマイスター家のご先祖も街造りに協力したようじゃ。その功績でこの地の領主になったそうじゃ」


200年以上前にこれほどの街並みを造った大賢者とは、凄い人物だったのだろうと感心する。


暫くすると内門を通って行く。

そこにも兵士がいて敬礼して通してくれる。中に入ると雰囲気が変わり少し上品な感じがする。街並みも小さいながら庭のある家が多くあり、広い敷地を持つ屋敷のような建物も僅かだがあるようだ。


正面には大きな砦のような建物があり、その前は大きな広場になっているようだ。


一行はその広場に入ると右側に向かっていく、そして右側から広場につながる道に入っていく。


アタルは先程の砦のような建物が、領主の住まいだと思っていたので戸惑っていた。


それに気付いたハロルド様が、


「あそこの建物は役所と兵士の駐屯所に基本的にはなっておる。あそこで客を迎えることもあるが、仕事がらみの場合だけじゃ。

最初はエルマイスター家も領主としてあそこに住んでいたのじゃが、すぐに屋敷を別に建て普段はそこに住んでいるんじゃ」


と説明してくれた。アタルはなるほどと思って頷く。


すぐに大きな庭のある屋敷に一行は入って行き、そのまま屋敷の玄関の前に馬車を止める。


「皆の者!今回は色々あったが無事に戻って来れた。お疲れ様じゃ!

ヨアヒム、皆と片付けと報告を頼む。騎士団長に今回亡くなった者の家族に明日儂が直接顔を出すと伝えてくれ。

御者は馬車をいつも通り頼む。用事が終わったら体を休めてくれ!

アタル殿は儂と一緒に来てくれ」


アタルは頷いて付いて行こうすると、ヨアヒムさんに声を掛けられ預かっていた荷物を幾つか出して渡す。


遅れて玄関から屋敷の中に入ると、中は広いロビーになっており正面には階段がある。


ちょうどメイドとアリスお嬢様が階段を上がって行くのが見える。何故かシャルとミュウも一緒に行動をしている。


辺境伯様はたぶん執事だろう老年の男と何か話していた。

アタルはその老年の男をみて、執事だとするとやはり名前はセバスチャンかセバスが似合うなと何気に考えていた。


「アタル殿、暫くは我が家に滞在してくれ。客室の準備をするので少し応接室で休んでくれるか?

セバスは客室の用意と応接室にアタル殿を案内するように他の者に指示してくれ。

あと昼食を食べてないので簡単に食べられる物の準備も頼む。

儂は着替えをしてくる」


「お任せください」


ハロルド様はそこまで話すと、すぐに階段を上がって行った。


セバスと呼ばれた執事は、アタルの方に近づくと綺麗なお辞儀をする。


「アタル様、この度は主人であるハロルド様とアリスお嬢様をお助け頂きありがとうございます。

私はエルマイスター家の執事長をしておりますセバスチャンです。アタル様もセバスとお呼び下さい」


本当に執事で名前がセバスチャンだったので、笑いを堪えながら質問する。


「セ、セバスさん、こちらこそよろしくお願いいたします。案内の前にお聞きしたいのですが、お預かりしている荷物があるのですがどうすればよろしいですか?」


「お荷物? それでしたら私がお預かりして主人にお渡しておきますが?」


アタルが何も持っていないので、不思議に思いながらもセバスさんはそう答えた。


アタルは少し考えてから荷物の一つをストレージから出した。


「アタル様は収納スキルお持ちなんですね。では私の方でお預かりします」


「では全部出しますね」


そう言うとアタルは預かった荷物を次々出していった。

笑顔で見ていたセバスさんだが途中で驚いた顔を少しさせたが、すぐに笑顔を浮かべ出し終わるまで待ってくれる。


「これでお預かりしていた荷物は全部です。あとは亡くなった騎士のご遺体と討伐したウルフの魔物もあります」


「荷物は私にお任せ下さい。それ以外は私には判断できないので主人と相談していたければよろしいかと思います」


セバスさんはそう話すとメイドに少し指示を出し、アタルを応接室に案内する。

応接室は玄関の左側に扉があり、セバスさんが扉を開けて中に入るように促してくれた。


中に入るとそこは30畳ほどの大きな部屋で、中央には10人以上は座れそうな感じで、コの字型にソファが並んでいた。

これのどこに座れば良いのだと考えていると、


「ごゆっくりとお寛ぎ下さい。すぐにお茶をお持ちします」


そう言うとセバスさんは扉を閉めて出て行ってしまった。


如何しようかと思いながら左側の窓辺に歩いて行く。

窓にはガラスが使われているようだが、地球とは違い色は濁っていて、磨りガラスのような色をしており、歪みのようなムラもそこら中にあった。


それでもガラスはあるんだと感心していると、先程入った扉とは違う扉をノックしてメイドさんがワゴンを押して入って来た。


「お茶をお持ちしました」


「あ、ありがとうございます」


先程から何人もメイドは見ていたのだが、この時に初めて『リアルメイド』だと感心してしまった。

日本のメイド喫茶のような感じではなく。スカートも長く足元まであり、髪には何もつけていない。


それでも洗練された振舞いに感動して、思わず目で追ってしまう。


う、動きが流れるようで素晴らしい。


窓側のソファの丁度真ん中辺りのテーブルにお茶を準備してくれる。


そこに座るのかぁ、端の方が落ち着くのに……。


お茶の準備が終わると、仕方ないのでそこに座る。


アタルが座るとカップにお茶を注いでくれる。そして少し移動すると、正面を見て無言で立っている。


凄く居心地が悪いよぅ~!


ハッキリと言えば居心地が悪いと思ったが、仕方ないと思いお茶を飲み始めるアタルだった。

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