第2話 レベッカ夫人
のんびりと紅茶を飲みながら、一緒に出されたサンドイッチを食べていた。
サンドイッチのパンは休息所で食べた黒パンとは違い柔らかかったが、パサついていて水分がないと辛い。
具は葉野菜とキュウリのような野菜に肉が挟まっていた。
味は肉の旨味と野菜でバランスも良かったが、マヨネーズやからしも使われていないようで少し味気なかった。
しかし空腹だったこともあり、4切ほどあった大きめのサンドイッチを美味しく頂いた。
喉が乾くのですぐにお茶を飲み干してしまう。
カップにお茶が無くなるとすぐにメイドさんが注いでくれる。気遣いなのかメイドさんは自分からは視線を外しているのだが、お茶が無くなるとすぐに注いでくれるので、プロのメイドだと感心してしまう。
食べ終わって少しすると、セバスさんが20代後半ぐらいの美しい女性を連れて応接室に入って来た。
女性はアタルの向かいに座り、メイドさんが女性にもお茶を出すと、セバスさんはメイドに部屋を出るように指示をする。
メイドさんが部屋を出て行くのを確認すると、その女性が話を始める。
「突然紹介もなく来てごめんなさいね。私はアリスの母親でレベッカと申します。本来ならお義父様に先に紹介して頂くのが普通なのですが、娘とお義父様を助けて頂いた方に早く挨拶をしたくて、来ちゃいましたわ」
アリスの母親という事であれば、ハロルド様の娘か息子の嫁になるのかな?
でも母親に見えないぐらい若く綺麗だが、顔はやはりアリスに似ていて、髪もアリスと同じ赤茶色をしている。
でも、ハロルド様とは似ていない。ハロルド様は間違いなく肉体派だが、レベッカ夫人は知的な感じがする。
うん、息子の嫁の可能性が高いな。
知的な感じだが冷たい雰囲気なく、何処か暖かい雰囲気のある女性だ。
「私はアタルと申します。助けたと言われると照れくさいですね。たいしてお役には立てなかったと思いますし、本当は逃げ出そうと考えていたのですが、一緒に居た少女が先に向かってしまい、仕方なくお手伝いをしただけですので」
「ええ、先程娘と一緒にいたシャルちゃんとミュウちゃんにも話は聞きましたわ。でも、シャルちゃんからミュウちゃんの命を救い、娘からクレアの命を救ったと聞いていますわ」
おぉ~、シャルとミュウはやはりアリスと一緒に行動してるみたいだ。
「偶々ポーションを持っていて、提供しただけですよ。目の前に大怪我をした人が居れば、誰でも同じことをすると思いますよ」
そう答えると、レベッカ夫人は何か考える素振りを見せ、それから話を続けた。
「……高価なポーションを、誰とも分からない相手に対価も求めず提供する。それは、あなたが自分でポーションを作れるからで、たぶんアタルさんはポーションの価値も理解していない。そうじゃないかしら?」
ええっ、レ、レベッカ夫人は鋭い!?
ポーションを作れることを聞いているようだし、ポーションの価値かぁ…。
「あのぅ、ポーションはどれくらいの価値があるんでしょうか?」
いまさら知ったかぶりをするのも無理がある。素直に聞いて少しでも常識を知っておいた方が良いよね。
「教会からはポーション1本あたり金貨3枚で購入しているわ」
確か生命の女神様からは金貨100枚が100万円ぐらいの価値と聞いていたはずだ。
そうなるとポーション1本3万円かぁ。
あの効果を考えると3万円が高いとは思えないが。
それより、1本はどのくらいの量?
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と言うし、
「あ、あの、ポーション1本と言うのはどれくらい?」
そう聞くとレベッカ夫人がセバスさんを見ると、セバスさんが懐から小さな瓶のようなものを出してテーブルに置いた。
えっ、ええええっ! こんな小さな瓶1本が3万円!
そこには地球でも見たことのある滋養強壮薬の瓶に似た小さな小瓶で、思ったより綺麗な形をした、茶色のガラスと思われる小瓶だった。
手に取って鑑定をすると『下級ポーション(劣)』と表示された。さらに一度ストレージに収納して解析をする。
[下級ポーション](劣):
不純物が多く含まれているため腐りやすく、品質も悪いので通常の下級ポーションの4割程度の効果しかなく劣化も早い。内容量50ミリル
自分の作ったポーションは『下級ポーション』なので通常の下級ポーションだと思われる。
水筒の容量は500ミリルより少し多いぐらいなので、水筒1本でポーション10本分だとすると、30万円相当、金貨30枚分の価値があるという事かぁ。
効果まで考えると金貨50枚以上の価値が……。
ストレージから先ほどのポーションを出してテーブルに戻すと、大きく溜息を付いてしまう。
「娘達から、アタルさんはバンブの水筒にポーションを入れていたと聞いたのだけど、宜しければ見せて頂けないかしら?」
竹はバンブと言うのか。地球からの転生者が名前を付けたのかな?
そんなくだらない事を考えながら、今さら隠しても仕方がないので、ポーション入りの水筒をストレージから出してテーブルに置く。
「こ、こんなに大きいの!」
レベッカ夫人は水筒を手に取りながら、驚きの声を出す。
え~と、その表現はなんか卑猥な感じが……。
持ち方も気になるぅ~。
「中にたっぷり入ってるわ」
両手でニギニギしながら言わないでぇ。
栓を抜いて臭いを嗅いでいる。
変な想像はするな。平常心。平常心。
「少し青臭いけど、嫌な臭いはしないわ」
はい、イカ…ゲフン、嫌な臭いはしません!
「お金は払うから、少し飲んでも良いかしら?」
「お金は別に……、試して感想を聞かせて貰えれば」
「そう、じゃあ、お言葉に甘えて」
そう言って直接飲もうとしたが、セバスさんに止められ、カップに少し入れて飲む。セバスさんも同じように試して飲むと、目を見開いて驚いている。
レベッカ夫人も驚きの表情をしてから、笑顔になり唐突に話し出す。
「アタルさん、アリスを嫁に貰ってくれない。あっ、お義父様がクレアを嫁にすると言ったのよね。う~ん、お義父様としては珍しく素晴らしい提案だけど、やはりアリスを嫁にしたいわね……。
クレアと早めに結婚させて正妻にして、アリスを婚約者にして数年後に結婚でも良いわね。うん、それで構わないわ。
ねえ、アタルさん、クレアと結婚してアリスと婚約でどうかしら?」
先程までの知的なレベッカさんはどこへ……。
「え~と、あの、なんでなのか、ちょっと、あの、」
混乱しまくっていると、突然奥の扉からハロルド様が入って来た。
「待たせしてすまんな、はっはっは」
おぉ~、良いタイミングで来てくれました~。
「い、いえ、お茶と食事をして、その後はレベッカ夫人が話し相手をして下さいましたので大丈夫です」
あからさまにホッとしている私を見て、セバスさんが笑いを堪えているのが見えていたのだった。
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