第3話 異世界転移!だが断る!

アタルは頬にひんやりと硬い何かを感じて、少しずつ意識が覚醒するのを感じていた。

薄っすらと目を開けるとその硬いものが真っ白な石の地面だと分る。


その地面に手をついてゆっくりと体を起こすと、まだ少し焦点が少しぼやけていたが、正面に白っぽい服を着ているだろう2人の人影が見えた。


「目が覚めたかアタルよ!」


人影の小さい方がそう言った。


それを聞いて意識も更に明瞭になり視界もハッキリとしてきた。


声を出したのは中学生ぐらいの少女で、非常に可愛らしい顔立ちに気の強そうな目、ぺったんこの胸を強調するように胸を張りこちらを見ている。


隣にはナイスバディな26歳ぐらいの女性が、すべてを包み込むような優しい微笑みを湛えながらコチラを見ていた。


その視線を感じて少し顔が火照るのを感じていると、


「お主はこの世界ノバの転生の女神である妾により、ノバに転生する栄誉を与えられたのじゃ。感謝するが良いのじゃ!」


(何言ってんのコイツ!よくわからない話を上から目線で!)


少しカチンとしたアタルであったが、状況がよくわからず何も答えずキョロキョロと周りを見る。

部屋はまるですべて大理石で造られたような真っ白で、正面の少し高い所に先ほどの二人が立っていた。更にアタルの左右には並ぶように3人ずつ女性が立っていた。


まるで現実感がないこの状況に更に混乱する。


「転生の女神様、彼はこの状況が判らず混乱しているようです。私から少し説明させてください」


「頼むのじゃ!」


その女性はこちらを向き優しそうに微笑み、目が合ったアタルが顔を赤めると更に微笑みを増して話し始めた。


アタル様、ここは地球とは違う世界、ノバと呼ばれる世界の神界にある転生の間になります。

ビルの屋上より転生の女神様と一緒にゲートを通ったのを覚えていますでしょうか?

転生の女神様が様々な条件に合うアタル様を、特別にノバの神界にお呼びさせ頂いたのです」


さすがに信じられない話であり、更に混乱するがその女性が話すとなぜか信じられると思って少し冷静になる。


「正直に言えば信じられませんが、とりあえず少し質問してもよろしいでしょうか?」


「構わないのじゃ!」


転生の女神の物言いに少しムカついたが、無視して先ほどの女性に質問した。


「まずはそちらの貧乳少女が転生の女神であるとのお話ですが、あなたも神様なのでしょうか?」


「ひ、ひっ、貧乳じゃと!」


「転生の女神様、とりあえずここは落ち着きください!

アタル様、わたくしは偉大なる転生の女神様の眷属である生命の女神です」


転生の女神は顔を真っ赤にして怒っているようだが無視して質問を続けた。


「ビルの屋上に女性はいましたがもう少し年齢が上だったと…?

そのビルの屋上から女性と転落した記憶しかないのですが?」


「そうですビルの屋上から3メートルぐらい下にゲートがあったのです。

転生の女神様はアタル様を神界にお連れするために、自らの神力を大量に消費してこのようなお姿に・・・グスッ!」


生命の女神は同情を引こうとしているのか、まったく涙など出ていない目に手をあてている。


「そうじゃ!お主のせ、」


転生の女神の話をぶった切るように質問を続けた。


「様々な条件とありましたがなぜ私なのでしょうか?」


話を切られた転生の女神は驚いて固まってしまったが、生命の女神も視線を僅かに動かしたがそのまま質問に答え始めた。


アタル様は地球でラノベ等は読まれたことはありますでしょうか?

ノバはラノベなどによくある剣と魔法のある世界です。魔物と呼ばれる生物もいます。

これまでも何人か候補の方はいましたが…、性格的に危ない方が…、

しかしアタル様は暴力的でなく、平和的な性格であると我々は判断しました。

それにアタル様ご自身が人生のやり直しをお望みであったので、我々の希望とアタル様のご希望が合っていると考えたのです」


「う~ん、確かにやり直そうとは思いましたが…、私もラノベを読んだことはありますが…、

まず根本的に私は死んでしまったのでしょうか?

転生ということは生まれ変わって子供から始めるのでしょうか?

ラノベにあるような魔王とか邪神とかいるのでしょうか?

何か使命があるのでしょうか?」


聞きたいことが次々と出て来る。


「ご安心してください死んではいません。

今回は転生というよりは異世界転移や召喚と言ったほうが良いかもしれません。ですから子供からやり直すわけではありませんし、若返ったりすることも姿を変えることも出来ません。

邪神はいませんが魔族の王という意味で魔王はいます。しかしアタル様に行って頂く大陸にはいませんし、人族よりよっぽど平和的な王です。

使命というかアタル様には文明の進化のきっかけになって頂ければ良いと考えています。

それも絶対にやらなければダメというわけではありませんのでご安心ください」


「そうじゃその通りなのじゃ!安心して転生して良いのじゃ!」


少し落ち着いた転生の女神が会話に入って来た。


アタルは言い方に少しムッとした表情をしたが、それを見た生命の女神に転生の女神は睨まれて小さくなる。


「でも安心出来るような事ではないかと…、

文明の進化といっても、ノバ《そちら》の文明レベルは知らないし…、

魔物とかもいると聞くと…、荒事は苦手だし…」


呟くように疑問を話す、アタルの引き気味の様子を見て、生命の女神は話始める。


「ラノベによくあるような中世ヨーロッパレベルの文化レベルですよ。

ノバには権能スキルがあります。過剰に授けることはできませんが、もちろん命の危険が減るように授けさせて頂きます」


「しかし中世ヨーロッパレベルということは、自分の能力や経験はまったく役に立たないと思いますが?」


「ここ1年ほどは自分で畑を造られ、料理なども昔から自分でされていたではありませんか?

更に知識に関しては非常に広範囲にお持ちなっておられます。

とりあえず権能スキルをすべて見て必要な権能スキルをご検討ください」


そう言って権能スキルの一覧を空中に表示させ、アタルの目の前にその画面を移動させた。


アタルは少し興味を持ちその画面を見始める。


不思議なことにその画面は触らずとも気になる権能スキルに意識を集中すると説明が表示され、下の方を見たいと思うだけで勝手にスクロールした。


数が多かったので一通り見るのに時間が掛かってしまったが、ラノベによくある権能スキルが多いと感じた。


見終わったと思うと画面が自動で消えた。アタルは息を一気に吐き出すと視線を上げ生命の女神と目を合わせた。


「どうでしょうか?」


「無理ですね。お断りさせて頂きます」


そう言って頭を下げた。


「なぜじゃ!なぜ無理なのじゃ!」


「理由を聞かせて頂けないでしょうか?」


転生の女神と生命の女神はそろって理由を尋ねてきた。


「確かに私は人生をやり直そうとしていました。どこまで知っているのか分かりませんがその為に3年近く準備してきたのです。

金銭的にも十分に恵まれていてノバ《そちら》の世界でやり直すメリットがありません。

先ほど魔族は人族より平和的だと話がありましたよね。ということは人族の中では戦争や諍いなどもあるんじゃないですか?

中世ヨーロッパレベルということは貴族みたいな権力者が幅を利かせているのではないでしょうか?

確かに見せていただいた権能スキルがあればなんとかなるかもしれませんが、リスクが高すぎるかと…」


生命の女神は焦ったように説明を加える。


「確かに貴族や王族など存在しますが、最近は大きな戦争はありません!

もちろんアタル様には比較的安全な所に転移して頂きますし、そこは男女比3:7となっており、すぐにでも伴侶を見つけることも可能ですよ」


最後の部分を聞いてアタルは思わず目を泳がせた。


それに気付いた生命の女神はすぐに次の話を始めた。


「ではどのような権能スキルが必要なのでしょう。新たな権能スキルを創ることも可能です」


心を見透かされたようで恥ずかしく感じて、それを誤魔化すように自分が欲しい権能スキルについて説明を始めた。


その説明を聞いた生命の女神は、


「すべてご希望を叶えられるか分かりませんが、少しお時間を頂き他の神々とも相談させて下さい。

そちらの二人はアタル様にお茶とお菓子をお出しして。

転生の女神様と他のものは私と一緒に来てください。

アタル様は暫くコチラでゆっくりしてください。

みなさんさあ行きますよ!」


生命の女神は一気にそこまで話すと逃げるように出て行く。


アタルは少し呆気に取られていた。


権能スキルは断った理由のわずかな部分でしかなく、新たな権能スキルが出来たから転生するのはありえないと思った。



転生の間から出て移動し始めると転生の女神は生命の女神に訪ねた。


「あの者は新たな権能スキルを創ったとして転生を承諾するじゃろうか?

どちらかというと転生を断ったのは、あまり権能スキルとは関係ないように感じたのじゃが?」


「確かにその通りです。ですが話していて感じたのですが、あの方は間違いなくヘタレです!

自分が要求した新たな権能スキルが完全でなくても創られたとなれば、多少の不満があろうと断れなくなり転生を承諾する可能性は高いと思います。

それに他の方法で説得できると思えません!」


「お主も悪よの~!」


「転生の女神様、その地球のネタに私は答えませんよ!」


「相変わらずノリの悪い奴じゃ!」


「それよりも他の神々に協力して頂かないと! 気合を入れて説得しましょう!」


「それは気が重いのじゃ~」

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