第2話 転生の女神と眷属の混乱

「のじゃーーー! ぴぎゃっ!」


10メートル四方の全体が白い石畳の部屋の中央に、中学生ぐらいの少女と一緒にアタルが突如現れた。


ほんの少し空中に浮いた状態で現れた為、そのまま石畳の上に落下した少女は、異様な声を発した。

アタルは意識が無く少女の固そうな胸に頭を置き腰に手を回した状態である。


そのふたりを8人の女性が丸く囲むように、等間隔で両手を抱くような姿勢で立っていた。


「転生の女神さまー! 大丈夫ですか!」


囲んでいた女性の一人が慌てて近寄り声を掛ける。

しかしそこには知らない男と淫らな格好で抱き合う転生の女神の姿があった。


「……転生の女神様! 女神とあろうものが地球むこう男子おのこを連れ込むのはっ」


「ち、違うのじゃ~!これは事故なのじゃ! こっ、こやついつまで妾の豊満な胸に顔を埋めておる!」


転生の女神は食い気味に反論しながら、じたばたとアタルの下から這い出して来た。

先ほど声を掛けた女性はジト目で女神を睨んだが、すぐに目を大きく見開き口に手を当て呟いた。


「転生の女神様、そのお姿は…?」


転生の女神はその女性が言っていることが判らずキョトンとした。


「あ~、これ私がお願いした化粧水♪」「これは私のマスカラ♪」「この口紅は私のだ~♪」


アタルの周りには買い物袋が散乱し、袋から零れている荷物に他の女性が群がって騒いでいた。


「あなた達それどころではありません! 静かにしなさい!」


「ハ、ハイ! すみません!」


女性たちは慌てて謝罪するとアタルを挟んで反対側に一列に並んだ。しかし、しっかりと自分の荷物は持って。


「転生の女神様、申し訳ございません。こんどキッチリ教育しますので。

それより、て、転生の女神様…お、お姿が…お若くなっているような…」


そういわれ転生の女神は自分の胸元に視線を落とした。


「妾の、むっ、む、胸が縮んでしまったのじゃーーー!」


それは誤差の範囲ではないかと、先ほどの女性は思ったが口には出さず、何気に自分の胸を張って強調した。


「こ奴のせいじゃ~、妾がコチラと繋がるゲートを潜ろうとしたら、妾を押し倒して一緒に潜っったせいで━━━その方らの神力では足らなくなって、妾の胸を~! 許さぬのじゃー!」


女神はアタルの頭を足の裏でぐりぐりと踏みながら叫んだ。


「たしか今回のゲートの発現場所はビルの屋上から3メートルほど落ちた場所のはず…、

この男子おのこはもしかして面識のない方でしょうか? だとするとこれは相当まずい事態なのでは…?」


その呟きを聞いた女神は、アタルを踏むのをやめ顔を真っ青にする。


「転生の女神様、一度状況を整理しましょう。

その昔、闇落ちした魔王が誕生したために4名ほど地球から召喚させてもらい魔王を討伐しました。

それからこの世界ノバでは500年ほど、地球では5年ほど経ちました。

しかし、あまりにもノバに進歩が見られないため、地球の主神様にお願いして文化交流と、進歩の起爆剤になる人間の召喚をお願いしたのが2年ほど前です」


「そ、そうじゃ!」


「文化交流としてノバの神々が地球に訪問することになり、約2年前に地球とノバの時間軸を合わせました。またその訪問費用として月に百万円ほどを地球の主神様に支給して頂いております」


「その通りじゃ!」


「起爆剤となる人間を召喚するため、それに相応しい人間を探すため転生の女神様は別途百万円を支給して頂き、頻繁に地球を訪問されていました」


「そ、その通りじゃ!」


「そして重要なのは、ただし召喚する場合は必ず本人の同意が必要で、同意してからの召喚が絶対条件だったはずです」


「そうなのじゃ~! 非常にまずいのじゃ~!」


「これは私の私見となりますが、この絶対条件を転生の女神様が破ったことが発覚した場合、最低でも1万年ほど幽閉か最悪の場合は存在の消滅もあり得ます!」


「助けてほしいのじゃ~!」


「こうなってしまうと、あそこにいる彼には何としても召喚を承諾してもらう必要があります!」


「しかしこれまで召喚の同意を取ろうとすると、『チートくれ』とか『モフモフ絶対』とか『Yes!ロリータ!』とか欲深いか変態ばかりじゃった!

あやつが変態じゃなかったとしても『チートくれ』とか言われたら、神力が必要なのじゃ!

今回事故で神力を消耗した妾は、さらに神力を使えば、胸が無くなってしまうのじゃー!」


もうとっくに無くなっていると思うが口に出さない女性たち。


「それを回避するには他の神々の協力が必要です!」


「だ・か・ら協力を得るために資産家を召喚する努力をしていたのじゃ~!」


「そうでした地球の主神様との契約で、召喚後はその召喚した人物の資産のみ文化交流の費用とすることになってましたから」


「そうじゃ、あのような時間にビルの屋上でプラプラしているやつに資産などあるものか! そのうえ妾の胸を見て襲い掛かるような変態じゃ!」


胸は絶対に関係ないと思う女性たち。


「とりあえず彼のことを確認してみましょう」


そういうと女性がアタルに手を向けると、半透明なモニタのような物が空中に浮かび上がり、そこに表示された文字のようなものを確認する。


最初は無表情に確認していたが、途中で驚きの表情になり最終的には笑顔になった。そこから転生の女神に顔を向けると親指を立て、


「転生の女神様、GJ《グッジョブ》です! 彼はとんでもなく優良物件です♪」


と言った。


「それは誠か! 本当に優良物件なのだな!」


「ハイ! それもSSS級の優良物件です。

まず資産状況ですが実質百億円を超えております!

現金の預金も多く、運用や複数の著作権なども所有しており、年間で税引き後でも億単位の収入が見込めます。

少し辺鄙な場所ではありますが住居を含む山を所有しており、文化交流の拠点にするのに理想的な物件です。住居も最新の設備が充実しており、24時間入れる浴場もあります。

本人は人生をやり直すため身辺整理がちょうど終わったばかりです!

そしてなんと、ぷぷっ、28歳で未だに童貞でぇ~す!」


「本当か! 最後の部分は逆に心配じゃが、それ以外は最高じゃ!」


「転生の女神様、絶対に召喚の承諾を勝ち取ってください!

さあ、あなたたち至急その者を転生の間に運びなさい!

転生の女神様はお着替えを!

まずは本人の意向を聞いて、必要なら他の神々に相談します。1人は他の神々の招集をして!

転生の女神様!ヌーブラなど必要ありません!」


そう言ってヌーブラを取り上げられた転生の女神はブツブツと愚痴りながら着替えるのであった。

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